感情の価値とは(脳科学)

今回お話しするのは感情の役割は何なのかに迫る不思議な事例です。

30年以上米国に在住し、アイオワ大学神経学科教授を務めているポルトガル人脳神経学者のアントニオ・ダマシオは、「感情」を

根本的に、諸々の感情は、有機生命体に対する脅威やチャンスのときに自動的に起こる反応である」と定義しました。

ダマシオは人間の感情を司るシステムの手がかりを下記の調査結果から得ました。

アメリカにエリオットという30代の男性がいました。彼は仕事に成功し、結婚してかわいい子どもにも恵まれ、社会的に何不自由のない生活を送っていました。そんなある日、彼の脳に脳腫瘍が発見されました。脳腫瘍といっても悪性ではなく簡単な手術をすれば問題ない症例でした。実際行った手術も無事に終わり、胸をなでおろし彼は帰宅しました。しかし数日すると彼の身に数々の問題が発生し始めました。彼の術後の回復過程で家族や友人たちは、エリオットに小さな変化が起きていることに違和感を感じたようです。

エリオットはもともとアクティブな男性であったのに、術後から積極性がなくなってしまいました。暫くすると会社に出勤するのも一苦労となり、与えられた課題をこなすことがやっとになってしまいました。彼の不安定さが人生にも影を落とし、ついには一切決断できなくなってしまいました。このような新たな人格のせいで彼は2度の離婚することとなり、もはやかつてのエリオットではなくなり、彼の人生は滅茶苦茶になってしまいました。

そのような社会不適合な状態であるにも関わらず驚くのは、彼のメンタルと体調は正常で、IQも平均以上だったことです。精神状態についても検査したが、かつてと何も変わらなかった。

彼の問題は、臓器などの病気か神経機能不全、あるいは脳の病気といったものではない。彼の問題を引き起こすのは【感情】や【心理】だとしか言いようがない。

この実例において、エリオットは知的には完全に正常だった。ただ、社会生活に必要な決断を下せなくなってしまったのです。ダマシオはエリオットにあらゆる種類の診察とテストを行い、これまで見過ごされていた一つの要因に注目しました、それは【感情】です。ダマシオは診察の結果、問題の原因が感情にあることを証明したのです。

エリオットには善悪の区別はつくし、白黒の違いもわかる。しかし、違いがわかったとしても感情がなくなってしまっているので、どのように行動に反映すればいいかわからなくなってしまったのです。

一部引用(モウリーニョのリーダー論 R・ローレンス著)

彼が受けた手術は脳の前頭部という記載しかされていません。なので特定的にここという場所はわかりませんが非常に興味深いことです。しかし前頭部という【キーワード】が出てきました。では次に感情について考えてみましょう。

まずはじめに脳のなかで感情を司るのは何処か?というところから始めます。感情にとって脳の中で一番重要な役割をするのは扁桃体といわれています。扁桃体は、脳の左右にある神経細胞の固まりで丹波の黒豆のような形をしています。そして偏桃体は、何かを見たり聞いたりしたときに、それが生存に関わる重大なものであるかを瞬時に判断するといいます。つまり、目の前で起きた現象に対して瞬時に対応するための機能と考えられます。

例えば、道を歩いているときに死角から何か得体の知れないものが飛び出して襲ってきたとします。皆さんはびっくりして一目散に逃げますよね。その時、脳と身体はこのように動いていると考えられます。「歩いている(行動)→何かが飛び出してくる→ビックリ→恐怖する(感情)→危ない(認知)→逃げる(行動)」のようにフローされるわけです。出てきたものが得体の知れないものではなく友人だった場合「歩いている(行動)→何かが飛び出してくる(現象)→ビックリ→恐怖する(感情)→何だ友人か(認知)→笑う(感情)」に変化します。

このように扁桃体の反応は、スピードが優先されます。ビックリするという興奮反応が、出てきたモノが得体の知れないものではなく、実は友人で間違えたとしても、本当に出てきたのが得体の知れないものだった時と比べたら、その程度のミスは問題になりません。生き物の仕組みとしては、何より生存が優先されます。扁桃体が興奮している。「やや、これはまずい」と判断したのです。

感情とは扁桃体が下した評価を、体に伝えるメッセージとして、命に関わるような大事な判断を伝えているのです。ただこの扁桃体の下した評価を100%だとして毎回100%の興奮作用が体中を巡ったら大変ですよね。そこで、前頭前野が扁桃体を制御する役割をなしていると思われます。

前頭前野は、外側、内側、眼窩底部と場所があります。外側前頭前野は情報の意識的・論理的・計画的な操作を、内側前頭前野は自己と他者の葛藤の調整を、眼窩底前頭前野は報酬への反応や意思決定が主な働きと言われています。

エリオットは眼窩底前頭前野に障害が起き、理解はできるが意思決定ができなくなったものと私は考えています。では、感情は何かという話に戻ります。先ほど「感情とは扁桃体が下した評価を、体に伝えるメッセージとして、命に関わるような大事な判断を伝えている。」と言いました。しかし、それだけでは感情という言葉のなかの意味を理解した気になりません、どこか腑に落ちません。そこで私は別の表現をしてみます。

感情とは人間が言葉を獲得する前にコミニケーションの道具として使っていた、旧メディアである。

皆さんが持っている感情は意思の疎通を行うために自動的に現れるシグナルのようなものだと思われます。人間の先祖がまだ言葉を獲得していない時期になぜこんなに人間という種だけが互いを淘汰することなく増殖していったんでしょうか。

例えば貴方が外国に行きその国の言語を全く知らなくても、ジェスチャーなどで言語会話ではないコミニケーションができるのも感情表現という別の道具を使っているからです。笑顔で【私は敵対意識がありません】伝えれば相手も【同じ人間みたいだし大丈夫そうだ】と笑顔で返し、会話としては成立しています。このように私たちは感情を上手に使って意思の疎通を行ってきました。もし感情がなかったら、「変な奴が近づいてくる危ない早く逃げなくては」とコミニケーションがとれません。逃げられるか、攻撃されるかどちらかになるでしょう。

昔の諺に「目は口程に物を言う」という言葉があります。これは言葉よりも相手の感情(表情)を詳しく見る方が良くわかると言っています。このように感情の役割としては自分以外の他者に意思を伝えるための道具だったと考えます。では次に言葉が感情を拾い上げるのが難しいということを証明してみましょう。

「彼女は泣いている。」

これを読んだ貴方は言葉として彼女が泣いていることは理解できても、感情は理解できますか?悲しくて泣いていると思っていませんか?この文に文字を付け加えます。

「彼女は興奮して泣いている。」

あれ、おかしいですね。彼女は悲しくて泣いているのではなく、興奮して怒って泣いているようです。さらに文字を付け加えます。

「彼女は行方不明だった友人と再会して興奮して泣いている。」

そうです、彼女は喜んで泣いているのです。言葉は感情を正確に表すのが難しいのです。相手を理解するときに深く相手を観察し感情を引き出し相手の想いを探る。よく無表情の人が何を考えているかわからず恐怖を感じるのはこのためです。ライオンを目の前にしたときと同じく相手が何を考えているか分からないから、攻撃をしたり逃げだしたりしなくてはいけないのです。また、故人の孔子も「巧言令色鮮し仁」と口の上手い奴にロクなものはいないと述べているのは、言葉の扱いは難しく、それを上手に扱うものの中には言葉を悪い利用で使う者もいるので気をつけるのだよ、と言いたかったのではないでしょうか。

私たちは人間である以上に動物であるという一面を決して切り離すことができず仮に切り離すことができる世の中になった場合、もはやそれは人間という種ではなく別の生物として存在することになります。これは、進化にあたり、人間ではなく仮に【シン人間】と名付けた生物は、私たちを、同じ生き物として認知することはないでしょう。私たちがチンパンジーやサルを同種と認めないように、彼らは私たちを人間として観ることはあっても同じ【シン人間】としては認めてはくれません。

話がそれましたが、このように私たちは昔、言葉(言語)ではなく感情で意思の疎通を行っていたのではないでしょうか。私の話は根拠がなく仮説にすぎませんので、これが絶対に正しいとは思っていません。ただ、こういう可能性もあるのではというプラスワンとして捉えてください。可能性はいつでも無限大です。楽しいと思いませんかその方が。

「私の想い」

脳科学が解明していく事実を客観視するときに私は興奮と失望を覚えます。科学は常に正しいだけを私たちに伝え、生活から無駄をそぎ落としていきます。又、哲学は私たちに無駄を許容させ勇気を与えてくれますが抽象的でモヤモヤさせ消化不良を与えます。私はそのどちらも肯定しそのどちらも否定するような立ち位置で全体を俯瞰し雲をつかみたいと思っています。これがWbasicという私の考え方です。一つの現象を同時に2つ以上で検証したりそのどちらも同じものと考え、これは哲学に近いのかもと最近は自己認識しています。もしかしたらそんな学問が、20年後位に当たり前になっているかもしれません。私は有能ではないので学者の真似事のようなことしかできませんが、いずれ誰かがそのような学問を創造しハイクオリティな浸透度のある論文を学会に提出し、支持され、理解される人が現れるのを気長に待つつもりです。それでも、私は淡々と無駄な楽しい作業を続けていくつもりですので、これからも読んでくれたら幸いです。

                             おわり


最後まで読んでいただきありがとうございました。

Himeさん画像を使わせていただきありがとうございます。

つまらない点や納得のいかない点などがありましたらコメント欄に記入していただけると幸いです。私の記事は常に未完成です、皆さんのコメントなどで新たな発見ができ、より良くできると思っています。よろしくお願いします。


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