#137 パラダイムシフト・スクラップ(4)

しばらくするとウェイトレスがメインのミラノ風カツレツを運んできた。
 桜子はサクサクの衣を纏ったカツレツをナイフで一口大に切ると、脳に心地よい刺激を与えるように頬張った。
 明美もしばし話を中断しカツレツに舌づつみ打った。

少し遅れるようにテーブル置かれたペスカトーレはカツレツと交互に彼女達の胃袋へと収まった。

「美味しいものを食べることって幸せだよね。生きることって食べることでもあるわけじゃない。だから食事って大事だよね」

明美はレモンペリエでパスタの味をリセットするように流し込み言った。

「そうね、私はあまり美食家ではないけど賛成するわ。美味しいものを食べることは幸せになるけど、やっぱり誰と食べるかも大事よね。今は明美とこうして食事をしているけど、この料理を姑と一緒に食べていたら味を感じないかもしれない」

ピクっと眉を上げて明美が言う。

「出たー嫁姑問題」

ワイドショー好きな主婦のように喜んだ。シャーデンフロイデではないが他人の不幸は蜜の味というのは人の根源的な反応だ。明美に悪気はない。

桜子は不満の片鱗を明美にみせたのかもしれない。しかし、どの時代でも嫁姑問題は多かれ少なかれあるものだ。大したことではないのかもしれない。

「まぁ、日頃の不満はここで発散してリフレッシュしてください」

丁寧な口調で明美は言った。

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

桜子はラグジュアリーホテルのベルボーイに伝えるように言った。

  二人の食事は和やかに進み、最後にウェイトレスが持ってきたピスタチオのジェラートを平らげ終了した。

会計を済まし店を出ると二人はそれぞれタクシーを呼んだ。車できた明美も酒が入ったので運転は出来ないため一度タクシーで帰るのだった。

「それじゃ、またね」

明美が言うと

「今日はありがとう。楽しかった。また連絡して」

桜子は返答した。

  つづく



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