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#112 至高のジェネラリスト

こちらは「#111 その男の名はイーロン・マスク」のつづきです。


スペシャリストは、その分野の発展に貢献する。多くのスペシャリストが紡いだ努力がその分野のすそ野を広くし頂きを高くする。

ゼネラリストはそれら固有の山々を統合・分断し新たな山をつくり出す。それによりわたしたちの世界はより多様になっていく。

さて、イーロン・マスクはどこに向かっているのだろうか。

大学時代のイーロンは「人類の将来にとって、最も大きな影響をあたえる問題は何だ?」とたびたび考え、辿り着いた結論が、「インターネット」「再生可能エネルギー」「宇宙開発」の3つだった。

そこで彼は、スタンフォード大学院を2日でやめて、インターネットのイエローページ版のアイデアで時代を先取りし「Zip2」は大成功させた。

PC大手のコンパックに約3億ドル(約300億円)で売れるまで成長し、買収によってイーロンは約2200万ドル(約22億円)を手にした。

その資金を元に、インターネット決済のサービス事業会社「Xドットコム」を立ち上げ、創業翌年にコンフィニティ社と合併してペイパル社となり、その会社をイーベイが15億ドル(約1500億円)で買収した。

これによりイーロンは約1億7000万ドル(約170億円)を手にした。

成り上がりとしてはこれほどのサクセスストーリーはないだろう。そして、170億円を手にした30歳の若者の多くは、FIREや早すぎる余生を楽しむのが普通だろう。

しかし、彼は違う。

根本的に違う。

なぜなら、普通の若者は金を稼ぐために生きている。語弊があるかもしれないがそんなものだ。それを理由にFIREは早期リタイヤの事だが、一定の金ができなければリタイヤなどできない。逆を言えば、金ができればいつでもリタイヤする。

金が重要な役割を果たしており、金に縛られないためのFIREではあるが、実は金の呪縛を受けるものがFIREになるのだ。

イーロンにとって大金は手段であり、目的ではない。

火星へ


2002年にイーロンは「スペースX」という宇宙開発会社を起業する。

そこで彼はこんな目標を掲げた。

「人類を火星に移住させる」


22世紀の汎用型猫型ロボットがこの言葉を発したなら誰もが納得するだろうが、発言の主は30歳そこそこの若手起業家である。

そんな起業家イーロン・マスクは、火星に人類を移住させるためにロケットの開発コストを従来の100分の1にすることや、打ち上げに使用したロケットを何度も再利用するなどの目標も掲げた。

誰がそんなことを信じられるだろうか。また、彼はNASAの職員でも宇宙飛行士でもない。

しかし、発言後わずか6年で宇宙ロケット「ファルコン1」の打ち上げに成功する。そして、「ファルコン1」の9倍の推進力をもつ「ファルコン9」、宇宙船「ドラゴン」を次々と開発し、「ドラゴン」は地球軌道周回を成し遂げ、国際宇宙ステーションへのドッキングを民間企業として初めて成功させた。

さらに、スペースXの「ファルコンロケット」はNASAの作るロケットに比べてコストが約10分の1だったことが、NASA自身の分析によりに明らかになった。

また、2017年6月には、3日で2回の打ち上げを行い、並行して1段目のロケットの再利用とその着陸・回収を実現させた。

至高のジェネラリスト


このように、イーロン・マスクはこれまであった業界の常識を破壊し再構築しています。それを可能にしている要因として、ジェネラリストがあげられます。

スペシャリストはその業界に長く身を置くことで専門性と技術向上を可能にしますが、その副作用として、業界の常識に縛られてしまいます。

これは決して悪いことではないのですが、水も同じところに留まり続ければ腐るように、場合によってはそれそのものに問題があり、成長の妨げになることもあります。

そんな中、ジェネラリストは時代の流れ、各業種の常識・科学的な仕組み、論理的な思考によって、停滞した業界を活性化させます。

これにより業界にできてしまった悪習や深刻的な問題を浮彫にし、解決または問題提起をします。

以前、「シリコンバレーに学ぶ思考術」でも書きましたが、それらの活性化によってそれまでの業界はディスラプト(破壊)され、業界の再構築されます。

時代にアジャストできない過去の遺産的企業はその煽りを受け業務縮小または廃業と追いやられます。

これは自然界においては当然なことで、淘汰される存在は生き続けることは不可能なのです。

そうやって生き物も総体である社会全体も常に変化を求められます。

ただこれまでのジェネラリストとイーロン・マスクが大きく異なるのは、各業界のスペシャリスト(エンジニア)と対等に会話をし建設的に問題解決するためのアイデアを提示できることにあります。

例えば、電気自動車には大容量のバッテリーが必要になります。

テスラのEVでは、ノートパソコンに使う汎用の小さなリチュウムイオン電池を7000個以上も束ねてひとつの大きなバッテリーのように制御しています。

リチュウム電池は、世界で数多く量産され価格も安定し、コストもこなれています。

同業他社の日産や三菱自動車のEVは、大きなバッテリーを独自開発して搭載しています。テスラが普通なのではなく日産や三菱自動車の方が業界の常識です。

グーグルが使用しているスーパーコンピューターにも共通していますが、最高性能なものを1台コストをかけて導入するより、スタンダードな性能のPCを何十台も繋ぎ合わせて同等のスペックにする方が経済的です。

しかし、それには当然デメリットもあります。テスラ車は大量のリチュウム電池を搭載しているので、重量が重くなってしまいます。

そこで、車体には軽量アルミ素材をふんだんに使い、車全体の重量を抑える設計をしています。そうすることでデメリットを解消したのです。

問題解決のアイデア提示によくある話ですが、一つの問題を解決することでべつの問題が浮上するというものです。

これについてもその「新たに浮上した問題の対策案」を事前にいくつも用意し提示することで、周りの人たちの協力を掴み取ることができるのです。

そして、何より人の何倍も動き・考え・インプットするトップを見れば、誰も文句が言えなくなるのも理解できます。

イーロン・マスクはわからないことがあると、現場のエンジニアを質問攻めにするそうです。

スペースXのエンジニアはこんなことを語っています。

「僕に質問をふっかけることで、彼自身勉強していたんですよ。あの人は、こちらの知識を90%くらい奪ってくるまで質問をやめませんから」

何気ないやりとりに見えますが、宇宙工学のエンジニア相手に専門的な会話をして、なおかつ相手の知識を奪っているのです。

素人では到底無理な話です。

いままではスペシャリストを束ねるのは、その業界スペシャリストの一人がその役割を果たしていました。そこで、他業界をまたぐプロジェクトになれば業界トップ同士の理解のなさによって上手く連携できずに非効率で生産性のないものになっています。

しかし、イーロン・マスクのように至高のジェネラリストがいれば、いくつもの業界の良いものをかけ合わせたり、別業種のアイデアを利用して、業界の効率化を図ったりすることも可能になります。

これからのジェネラリストは、彼をロールモデルにして活躍していくのでしょう。

日本でいえば省庁のトップの席がなくなり総理大臣に直結することにより、有能なジェネラリストな総理によって、省庁間の摩擦や無駄な予算がなくすことも可能です。

しかし、それほど有能な人材が総理大臣になる保証もないですし、ましてや総理大臣を職にすることを選択するとは思えないのでありもしない与太話ですね。

本来のジェネラリストは多面的で博識なだけでなく専門的知識にも優れた人材なのでしょう。

世に出回る名ばかりの○○にも見習ってほしいものです。

おわり


参考文献:「世界をつくり変える男 イーロン・マスク 竹内一正著」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ジョルジュ・スーラ / メトロポリタン美術館
さん画像を使用させていただきました。

毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますので、よろしくお願いします。
no.112.2022.04.01

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