宇崎ちゃんの献血ポスターに思うこと ~「賭けグルイ」に夢中な私の場合~

宇崎ちゃんの献血ポスターが話題です。このポスターは『宇崎ちゃんは遊びたい』と献血がコラボしたキャンペーンで使用されているもので、ポスターに描かれている少女・宇崎ちゃんのビジュアルが、「環境型セクハラ」の視点で議論されています。

ポスターに描かれた少女・宇崎ちゃんは、かなり胸が強調して描かれていて、現実離れしたプロポーションです。服も大きな胸が目立つように、胸のすぐ下がピッタリと胴に貼りつき、陰影もパキッとついています。

そんなポスターだから、老若男女が訪れる献血ルームにはふさわしくないのでは? と、疑問の声が上がりました。(もっと複雑だったらすみません。私はそのように認識しています)

一方で、「どこが性的なのかわからない。肌の露出もないこのイラストをエロ認定するのはおかしい」「宇崎ちゃんは体型が特徴的なだけで、性的なキャラクターではない。胸の大きい女性が「エロいもの」でないのとおなじように、宇崎ちゃんもエロくない」といった意見も見られます。

だれにも聞かれていませんが、まず「この絵のどこがエロいの?」という声に答えます。「胸」です。
宇崎ちゃんの胸が大きくデフォルメされいるのは明らかです。べつに特別大きく描かれてなくない? と思う人は、デフォルメされた胸に慣れて感覚が麻痺しているかもしれません。一度、自分が普段触れない文化に触れるといいでしょう。

余談ですが、小学生のころ、私の周りでは大きな瞳の女の子を描くのが流行っていました。仲間内で絵を見せ合ううちに、瞳の大きさはどんどん増していき、いつの間にかクラスの女子の大半が五十嵐薫先生の『いじめ』のヒロインに負けないほど大きな目を描いていました。(このときは図工の時間に肖像画の描き方を習ったことで、おかしさに気付きブームが終息しました)

さて、次に「そもそも宇崎ちゃんはエロいキャラじゃない」ですが、ここで少し「賭けグルイ」の話をさせてください。

突然ですが、「賭けグルイ」という作品はご存知でしょうか?
「月刊少年ガンガンJOKER」で連載中の人気漫画で、アニメや実写映画にっもなっている人気作です。

内容はというと、学園ギャンブルもの(なんてジャンルが確立しているのか不明ですが……)でして、良家の子女が集う学園で、生徒たちが億単位のお金を賭けたり、自分の人生や命を賭けたりするお話です。

語り手はごく普通の男子高校生。ある日、彼のクラスに美しい黒髪と赤い瞳、そして豊かな胸が特徴的な主人公(以下、夢子さん)が転校してきて、学園内で行われる様々な賭けに勝って勝って勝ちまくります。

さてこの作品、2年ほど前にアニメ化しています。私もその頃に存在を知ったのですが、当時は漫画にもアニメにも手を出しませんでした。何故かというと、男性読者に向けた性的な香りのあるサービスシーンが見せ所の作品だと思っていたから。

夢子さんは賭けがスリリングであればあるほど燃え、情熱的なギャンブルをするという設定で、彼女が賭けのスリルに興奮し、身をくねらせ頬を赤く染めてうっとりとしている姿は、男性読者に向けた性的な香りがするんですよね。つまり、エロい。(「エロ」という言葉はなんだか直接的すぎて気まずいし、しっくりこない表現なので普段は使わないのですが、今回はまどろっこしいので使います)
私は何かの拍子に夢子さんが興奮しているシーンだけを見てしまったため、この作品には触れずにいたのです。

ところがつい先日、会社を辞めたとか、Netflixに入会したとか、アニメ好きの友人が家に泊まりにきたとか、いろいろな偶然が重なって、アニメ「賭けグルイ」を見ることになりました。

これが大変面白い。アニメ1期の1話から2期の12話までの計24話を3日で見終えました。24話の物語をじっくり味わい、オープニングやエンディングの映像も楽しみ、ときに一時停止や巻き戻しをしてキャラクターの表情や台詞の言い回しの理解を深めた3日間のなんと有意義なことか!

夢子さんの興奮シーンに対する解釈も、ガラリと変わりました。夢子さんの性格を理解し、語り手やライバルとの立ち位置を考えると、大きな胸を抱き、身を捩り、恍惚とする表情も、彼女の異常さを際立たせる効果的な演出に見えるのです。

それどころか、作中の我が道を強かに生きる女生徒の姿と共に描かれることで、はじめはエロシーンにしか見えなかったコマが、エロ目線を捨てきれない読者への皮肉にすら見えてきました。
夢子さんのエロい表情やポージングは、エロいかもしれないけれど、決して「エロシーン」ではないのです。

ただ、これは「賭けグルイ」の世界に浸り、ストーリーもキャラクターも知っているからこその認識です。
何も知らなけば、現実ではありえないほどにくっきりと描かれた大きな胸を抱きしめて興奮する女子高生のイラストは、近寄り難いエロい絵でしょう。

さて、大分脱線してしまいましたが、「宇崎ちゃんはエロいキャラじゃない」という意見に戻ります。

今回のポスターは献血とのコラボで、駅にもショッピングモールにも貼られます。あらゆる人の目に触れるのです。
そんな中で、宇崎ちゃんの「エロくなさ」か分かる人間がどれほどいるでしょうか。そんなに多くはないと思います。

今では「賭けグルイ」にエンパワメントの可能性すら感じている私ですが、夢子さんが興奮しながら献血をすすめるポスターが出てきたら、全力で抗議します。物語を深く楽しく味わった私は、夢子さんの興奮はエロじゃないと分かるけれど、わからないのが普通だからです。

何の事情も知らない老若男女が目にするポスターは、誰もが安心して見られるものであるべきだと私は考えます。
作品を愛していればこそ、公開する手段や場所にはこだわるべきではないでしょうか。

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