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1-1 シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』


シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925
An American Tragedy
セオドア・ドライサー Theodore Dreiser(1971-1645)
 アメリカ独自の探偵の本格的な誕生に立ち合う前に、一つの作品に注意しておこう。『アメリカの悲劇』をドライサーは「あるアメリカの悲劇」といった意味合いで問うている。話は非常に単純で、立身出世を願った青年が過去を清算するために恋人を殺す、というありふれたものだ。この作品は戦後、『陽の当たる場所』として映画化されているので、そちらのほうで知られているだろう。作者は、現実の事件に取材していたが、合計十五の同種の事件資料を集めていたという。エゴイズムが起こす悲劇はいたるところに繰り返されていたわけだ。
 これはドライサーの自然主義小説の頂点といわれる。同時に集大成であり、作家は、『シスター・キャリー』『ジェニー・ゲルハート』と書き継いできたアメリカ社会との抗争の記録を完成した。同時代の他の作品と並べてみると、発表されたのがいささか遅きに失したような印象も与える。
 一人の移民の青年とアメリカの夢との衝突。そこから起こった犯罪は、ドライサーが固有にいだいていた単独者の悲劇という物語を発酵させた。
 主人公は時代の負け組だ。適者が生き残るなら、彼の生き延びる目はない。ドライサーが書き得たのは、負け組社会小説の原型といってもいい。この小説を書き換え、なぞっていくように、後続する「もう一つのアメリカの悲劇」は書き継がれていった。悲劇のみが映し取ることのできるアメリカ社会の本質だ。

大久保康雄訳 世界文学全集 第3期 第19 河出書房新社 1958    新潮文庫 1960、1978.9
宮本陽吉訳 現代アメリカ小説全集 集英社 1970、1975、1978

他の翻訳はーー
田中純訳 現代アメリカ小説全集 三笠書房 1940
   早川書房 1950、1954
橋本福夫訳 角川文庫 1963-68

ジョージ・スティーヴンス監督『陽のあたる場所』1951 2度目の映画化

参考サイト (工事中)

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