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札幌国際芸術祭2024のレビューっぽいことがしたい

札幌国際芸術祭が終わった。札幌育ちのアート好きとして、2014年の第1回からウォッチし続けて早十年が経った。
当時の私はクソ生意気な美大生だったし、帰省中だったとはいえ札幌に住んではいなかったので、見るべきものをきちんと見ていたかどうか正直怪しいところはあるのだが、それにしたって第1回はひどかった。あのガッカリ感と怒りは一生忘れないと思う。第2回も中谷芙二子の霧の彫刻しか覚えていない。
それを思うと、今回はだいぶマシだった。ちゃんと「現代アート」をやってたし、公募イベントにもいくつか足を運んだが、どれも満席だった。札幌で現代アートをやってちゃんとお客さんが入る、というのは大きな希望だ(これを機に、普段からもっと現代アートの展示が増えるといいのだが……)。

とはいえ、まだ、札幌国際芸術祭は「良い芸術祭」とは言えない と思う。
批評家でもアーティストでもない、SIAFラボとかボランティアとかに参加したわけでもない、他の芸術祭は2017年の横トリにアイ・ウェイウェイを見に行った程度の小市民が何を偉そうにというのは全くその通りなのだが、他のアート好きのレビューとかもぜんぜん見かけないので、何かになればいいなと思ってちょっと書いてみる。まあ、実際のところ、私のための記録だ。

冬の芸術祭?

札幌国際芸術祭(以下、SIAF)は第1回から、中谷宇吉郎をやたらと持ち上げて「雪のまちの芸術祭」をアピールしていた。なので、第1回・第2回が夏に開催していたのは本当に意味がわからなかった。現代アートナメすぎだろと思っていた。
なので、冬に開催したことは評価したい。期間中の札幌はガチめに寒い日も多く、吹雪の中を歩きながら本気を感じた。

ただ、その「雪」を活かすことはできていなかったのではないか。

大通公園

大通公園会場 《AIRSHIP ORCHESTRA》

冬開催にしたせいで、雪まつりと被ってしまい、大通公園を使えなくなってしまったのだと思う。
一応、雪まつりにSIAFエリアがあるにはあったが、雪の上でやる意味があんまりわからなかったし、いちばん一般客の目に触れる場所であろうに、分かりにくい展示になってしまっていた。実際、通りすがりのカップルが「ここ……どうする?」「アートか……よくわかんないから、スルーで」と会話しているのを耳にしてしまい、かなりショックだった。
ここはアートファンに怒られるくらいキャッチーで安直な展示でよかったような気がする。超有名作家のでか彫刻の雪像バージョンどーん、みたいな。

……まあ、雪まつりに「北海道の彫刻家に雪像掘ってもらいました」エリアあったんだけどね!

モエレ沼公園

モエレ沼は遠い。期間中はシャトルバスが出ているとはいえ、それでも遠い。そして周りに何もない。行くのにけっこうな気力が必要だ。
そこまでして行って、展示がガラスのピラミッドの中だけなのはちょっと寂しい。せっかくだたっ広い空間があるんだから、それこそスケールの大きい、芸術祭のアイコンになる作品とかを置いてほしかった。
いやね、モエレ山は子供のソリ滑り場になってるし、歩くスキー体験のレジャーもやってるし、そっちが優先なのは分かってる、分かってるけどさあ……。

モエレ山に行くくらい気合い入ってるアートファンはきっと雪の中ラッセルしてアート鑑賞するのも躊躇わなかったと思いますよ。

ユッシ・アンジェスレヴァ+AATB《Pinnannousu》
個人的には今回の出展作のなかで一番でした

「北海道」じゃなくて「札幌」

地方の芸術祭として成功しているものといえば、やっぱり『大地の芸術祭』や『Reborn-Art Festibal』だと思う。情緒あふれる自然豊かな風景に、異質でさえあるかもしれないアートの組み合わせ。東京では見られない風景がそこにある。
逆に、都会の芸術祭といえば旧あいトリ(今「あいち」だっけ……)、横トリ。東京から割と気軽に行ける距離であることも大きいだろうが、昔から日本だった大規模都市であるがゆえの文化資本と金で殴ってくる感じがある。私でも知っているビッグネームが来る、アート系ライターやインフルエンサーがレビューしている、というのは「私も行きたい」と思わせる魅力になる。

札幌国際芸術祭は……どっちでもない。なんというか、中途半端だ。
先述したように「試される大地」感はやっぱりなかったし、都市の芸術祭にしては飛行機に乗ってでも絶対に見たいと思わせるほどのビッグネームや超大作が来ていたかというと……素敵な作品を展示してくださったアーティストの皆様には申し訳ないが、正直、物足りなかったのではないか。w
ツイッターでぜんぜん見ないんだもん。SIAF行きました報告。ぜんぜんバズってない。インスタも市民インスタグラマーが誰でも撮れる映え写真あげてるだけ。いや市民が楽しんでるのは素晴らしいことだけど、どうせ観光客目当てで始めた祭なのに、外から客来なくてどうするの。

ぶっちゃけ、芸大の卒展に負けてた。それが悔しい。
そりゃあ近場でクオリティが分かってる展示があるならそっち行ったほうがいいに決まってる。私たちはそれに勝たなければいけなかった。冬にやるということはそういうことだった。
卒展に被るということは、どんなビックネームを呼んだとて未来のアーティストたちは来たくても来れないわけですしね。……あちらを立てればこちらが立たずというか、雪まつりと被っちゃった件といい、開催時期だけでもこんなに難しいことがあるのだなあ。

まだ次があるのなら、国内外のアートファンがこぞって行きたいと思うような芸術祭になってほしい。雪まつりじゃなくて札幌国際芸術祭を見に来ましたという観光客がいてほしい。芸大の卒展よりこっちだろと思う人がいてほしい。賛も否もあふれてSNSで盛り上がってる様子がみたい。その頃、どんなSNS世界になっているかはわからないけれど。

SIAFは「市民とアートをつなぐ場」たりえたか

前章では「外からみたSIAF」っぽい話をした。なので、今度は「内からみたSIAF」的な話をしたい。

私は札幌出身で、去年、札幌に戻ってきた身だ。なので、家族や札幌在住の友人いる。彼らは私と違って現代アートにまったく興味がない。
「現代アートが全人類でも理解できるように開かれているべき」かどうかは様々な意見があるし、全ての現代アートの展示がそうあるべきだとは私も当然思っていないが、地元で芸術祭をやる!となったら、私の好きなものにちょっとでも親近感をもってもらえる機会になったら嬉しい、と思うのは傲慢だろうか。

実際、「なんかアートのイベントやってるらしいね、自分が行って大丈夫かな?(現代アートは見るのに覚悟がいると思われている)」と相談されたりした。それで、私は……気軽には勧められなかった。「けっこう真面目な展示なので、慣れていない人がわーたのしー、だけを求めて行くと面食らうと思う」と、正直に応えた。私の周りに写真撮って満足、という人間はいないので……(私はレアンドロ・エルリッヒくらいじゃないと初心者に薦めないので、厳しすぎるという批判は甘んじて受け入れる)。

今回のSIAFはちゃんと現代アートをしていた。色々言ってはいるが、アートファンや、こういうものを受け入れる素地のある人にとってはそれなりに満足できるイベントになっていたと思う。その分、そうでない人たちにとっては近寄りがたいイベントでもあったようだ。公式ビジュアルもお高く止まってる感じだったし(興味ない人からすると、「ポスターたくさん貼ってあるけど、何をやってるかイマイチわからない」とのこと)。

私はSIAF以外の芸術祭を知らないので、他がどうかわからない。ただ、3年に一度の大イベントだ。「その期間だけは、街がアートであふれる」ことを、興味がない人でも、「なんかおもしろそうなことやってんな」くらいの雰囲気を感じられることを、期待していた。チカホでパフォーマンスやってるとか、白いドーナツ(札幌駅にある安田侃の『妙夢』。札駅で待ち合わせする場合だいたいここ)がめっちゃデコレーションされるとか。
……なかったのだ、なんにも。いや一応あるにはあった、けど、公式イベントではなく、雪まつりの1週間だけ、フリマっぽいのがちょこっとチカホに出てただけ、みたいな(SIAF公式ではなく協賛イベントだが、事前案内が不親切すぎて行くかどうかめっちゃ悩んだ)。

これで間口広がるわけないでしょ!!!!!!!

繰り返すが、全ての現代アートが全人類に理解できるように整えられている必要はない。でも、せっかくの大規模なイベントなんだから、わかる人だけわかる展示も、誰にでも開かれた企画も、もっと色々あってほしかった(念のため言うと、子供向けの取り組みはあった。身内に子供がいないので、参加する勇気はなかったが)。
芸術祭は、外からアート好きが来るか、地元にアート好きが増えるかしないと続かない。SIAFはどちらも今ひとつというか、どちらかに突き抜けるでもなし、やっぱりなんとなく中途半端で、身内だけで盛り上がっているのではないかと心配になってしまう。もちろん私はSIAFのごく一部しかみえていないし、アートを消費するだけの人間なので、実際のところは収益ガッポリでこのままでもやっていけるのかもしれない。でも……でも、やっぱり、もうちょい人に勧めやすいイベントになってほしい。

明和電機 ナンセンスマシーン展 in 札幌 より。
初心者でも楽しめるサイコーの展示&ライブでしたが、芸術の森、遠すぎるんですよね……

私は楽しみました

色々うだうだ言いましたが、私はそこそこけっこう楽しかったですよ。
自分から移住しておいてなんですけど、札幌でまともな現代アートを見られる機会、本っ当に少なくて…飢えてて……

ということを抜きにしてもよかったと感じる企画もいくつかあったので、記しておきたいと思います。

SIAFラボ

SIAFラボと称して、会期中の展示だけでなく継続的に研究開発や市民を巻き込んたプロジェクトなどをやっているのだが、この成果発表がどちらもよかった。
ただ、どちらも展示が小規模でもったいなかった。すごくよい企画なので、道近美で使って展示を構成するくらいしてもよかったのでは。

SIAFラボ 《都市と自然をめぐるラボラトリー》
IEIE, Reflected: Phase 4 |Virtual Ground
VRでなかったら今回のメイン作品レベルだった。開催期間中にツアーやってくれてもよかったのに

公募・連携企画が良かった

SIAF公式でないイベントや展示は、かなり気合が入っているものが多かった。これを「SIAFよかった」に含めていいのかどうか微妙だが、外から呼ばなくてもこれができるポテンシャルがあると知れたことはとても嬉しい。これをね……ふだんからやってくれたらね……!

“Future is in the past”より、大橋鉄郎《鉄柱とカッペ》
大谷大学写真科の学生・関係者による作品展。歴史的建造物で開催された素敵な展示でした
伊藤隆介個展「笑う蜃気楼」より《Fall Guys》
GALLERY MoNMAさんは、長年SIAF開催に尽力されてきたとのこと。流石の展示でした
INTEG’Lab Live「音楽と空間の新機軸/ライブエレクトロニクスの現在」
ギャンギャンの現代音楽空間、演出も凝っていて最高でした
「AINU ART―モレウのうた」より、藤戸康平《ぐるぐるモレウ》
FRAGILEよりこっちをSIAF企画にしたほうがよかったのでは

札幌が良い現代アートの場になりますように

札幌国際芸術祭、続いてほしい。世界中の人に自慢できる芸術祭に育ってほしい。ドクメンタかヴェネチアビエンナーレかSIAFか、みたいな……さすがに過言か。

……本当のことをいうと、芸術祭やらなくていいくらい、気軽に現代アートに触れられるくらいの文化都市になってほしい。しょうじき普段の現代アートレベルが下の下なのに(そもそも「現代アートの美術館」といえるものがないのだ、北海道には)、3年に1回だけ立派な現代アートの展示をしようなんて、虫が良すぎると思ってる。

SCARTSができたあたりから、ちょっとずつ変わって来てるのはなんとなく感じる。SIAFラボで良い取り組みを継続的にやってる。SIAFだってまだ3回目で、まだまだこれから。第1回・第2回よりは間違いなく良くなってた。だから、次はもっと良いものができるはず。

第4回 札幌国際芸術祭、楽しみにしています。

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