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高速なオープンソース3Dプリンター "The 100" を作ってみた

コロナの自粛期間中、なんとなく買ってみた安い3Dプリンターに大変ハマってしまいました。最初はprintables.comなどにある既存のモデルをプリントして遊んでいたのが、だんだん自分でもCADでデザインをするようになったりしてきたのですが、僕が買ったTronxy CRUX1と言うプリンタ、初心者向き?なんて言うだけあって、スピードがすごく遅いのです。物にもよりますが、数時間〜10数時間とか普通にかかります。

そろそろ、もっと速い3Dプリンターが欲しい。でもそのクラスのものは10万円クラスでちょっと手が出ません。そんな時に見つけたドイツ人のMattさんが設計した、The 100と言うオープンソースの3Dプリンター。

THE 100 v1.1 - The fastest 3D printer based on a printed Frame

MattさんのThe 100


フレーム等は手持ちの3Dプリンターで打ち出して、その他のパーツをaliexpressなどで買っても$300〜400くらいと、このクラスにしては安い。スピードの点も、有名なSpeedboat (3DBenchy) ベンチマークで最速4分(注:クオリティーを無視した設定の場合)。僕のCRUX1だと1時間以上かかっていたのが夢の様です。

喜び勇んで飛びついたのですが、僕はあくまでも3Dプリンター歴、約1年の初心者。次から次へ湧き出る難問に、大変な苦労をして、とうとう(ほぼ)使えるようになりました。この文章はその時の悪戦苦闘の記録です。

フレームをTronxy CRUX1でプリント

じゃあ作ろう!まずはフレームをプリントしよう!と思ったのだけど、このThe 100はプリントサイズ(ベッドサイズ)が230x230mm必要なのです。しかし自分の持っているCRUX1では180x180mmしかプリントできません。しかも一部のフレームは230mm以上あって斜めにしてプリントする様になっています。つまりプリントベッドの対角線方向を使って、そのサイズのフレームをプリントする必要があるのです。

だめじゃん、CRUX1だとプリントできない!これのために新しく別の3Dプリンター買わなければいけないのか?それだと本末転倒だよ〜。そこで思いついたのが、斜めにしてサイズを稼げるのなら、斜めの斜めにすれば良いのでは?という事。つまりXY方向だけでなくZ方向(垂直方向)にも斜めにすれば良いのではないだろうか?そう思って早速スライサーソフトUltiMaker Curaに一番大きいデータを入れてみました。するとOKの表示が!


斜めの斜めにしたパーツ


早速プリントしてみたところ、見事にそのフレームが印刷できました。さすがに大きいしZ方向のサポート材もたくさん必要なので20時間ぐらいかかりましたが。そして、やった!これでThe 100が作れる!と思って、次々にフレームをプリントしにかかります。

しかし最初の数個で、あまりの時間にだんだん根を上げてしまいました。次々と言ってもフレームのパーツは数十あるので、一ヶ月前後かかってしまいます。基本的にこれは耐えるしかないと考えて、夜中に放っておくなどの方法で、なんとか進めました。ただ途中からCRUX1のファームウエアをより速くて綺麗にプリントできるというKlipperに切り替えました。KlipperにはラズバイなどのCPUボードが別に必要なのですが、どのみちThe 100にはこれが必要になるので、Orange PI(注:純正The 100はBanana PI)を先にオーダーして、それを使ってCRUX1をKlipper化しました。そして調整などすると約2倍のスピードを達成できたので、そこからはそこそこなスピードでプリントできるようになりました。


フレーム作成

そして次々にフレームをプリントしていったのですが、思わぬ問題が発覚しました。

プリントしたフレームが、部分的に(主に下側が)曲がってしまうのです。通常3Dプリンターでは、プリント・ベッド(台)に接する第1層が上手くプリントできれば、ベッドに張り付いているし暖かいので、あまりその部分は曲がりません。しかし、斜めの斜めにしているので、ベッドには1線分ぐらいしか張り付いておらず、温度の低い空気中でプリントされるので、大きく曲がってしまう様です。ひどい時にはプリントしたすぐ後から曲がってしまい、その部分がプリント・ヘッドに接触して、プリントしたフレームが途中で吹っ飛んでしまう始末です。

さすがに3Dプリンターのフレームなので、曲がると精度に関わります。曲がっているパーツを再度プリントしましたが、しかし何度プリントしても完璧なものは少なく、時間ばかりがかかってしまいます。最終的に少しぐらいの曲がりならOKとして、ネジの穴位置を調整する事で、対応しました。せっかく高精度でプリントできる3Dプリンターなのに残念ですね。

完成まで

なんとか全てのフレームをプリントし終わり、それに合わせるように注文したフレーム以外のパーツも届き、組み立てに入ります。組み立てはMattさんがYouTubeに詳細なビデオを公開しているので、それ通りに作ってゆけば大丈夫です。ただ、やっぱり問題は曲がりによる位置のずれで、普通に作れません。その辺りを注意して作ります。場所によっては1cmぐらいの隙間などもできてしまいましたが、なんとか一応、まあまあ納得できる程度にフレームが完成しました。

大きく開いてしまったフレーム

フレームを作り、モーター類、電源、Orange PIとモーター・コントローラ BTT SKR picoなどなどを組み付け配線します。プリント・ヘッドはThe 100ではCHT Volcanoと言うホットエンドに高フローノズルを付けてを使います。これを別にプリントしたヘッドのケースにファンなどと一緒に組み付けます。そしてモーターとヘッドをベルトで繋ぎます。そして完成です。(いや実はこの過程でもかなり色々なトラブルがあったのですが、ちょっと細かいので割愛しています。)

スピード問題

この段階で電源を入れての調整となります。方法はKlipperのサイトのマニュアルに詳細に書いてありますので、それ通りに進めます。いくつか間違えた配線などを修正して調整も終了。スライサーなどの設定もしてプリントしてみます。最初なので一番遅くてクオリティの高いプロファイルでXYZキューブをプリントしてみます。

うまくプリントできました!マニュアル通りに細かく調整したせいか初めてのプリントで、上手くプリントできました!時間もCRUX1でプリントするより3倍は速い感じです。

しかし、上手くいったのはここまで。次に噂のSpeedBoatをプリントしようと高速プロファイルに切り替えて、何分かかるのかワクワクしながらプリントしてみた所、さっきとは違う物凄い音とスピードでプリントしだして、数層プリントした後に、、、止まりました。いや、止まったと言うより、動いてはいるけれど、数層の上のプリントがヘッドから出てきません。

プリントを止めて再度やり直しても、もうフィラメントも入って行かず、ヘッドが動くだけで何もプリントできなくなりました。もう半泣き状態でヘッドを外し、解体した所、詰まってました。ヘッドが。気を取り直してヘッドを掃除、こびりついたフィラメントを丁度あった0.4mmのドリルでほじかえして綺麗にして再挑戦。組み付けてまた同じようにプリントした所、、、また同じ様に止まりました。

気を沈めるために1日置いた後、またヘッドを分解して詳細に詰まりを調査してみました。どうも詰まっている部分はヘッドのノズルではなく、その上のヒートブレイクという部分の様です。ヒートブレイクとはフィラメントを溶かさず、しかも高熱のノズルに上手く配給する、ちょっとセンシティブなパーツの様です。これが中途半端に高温になりフィラメントを中途半端に溶かしてしまい詰まってしまった様です。

The 100のような高速なプリンタは、高速な分、フィラメントを溶かして押し出す流量も高速でなければならないようで、その分、非常にセンシティブな様です。難しいですね。

その後、何度も分解・清掃・組み付けを繰り返しましたが、あまり大きな進展はありません。と言うか何度も分解しているせいでヘッドを壊してしまいました。ノズルの頭を飛ばしてしまい、ヘッドの中から外せなくなりました。残念。

完成したThe 100

そして今

一応、新しいヘッド・ノズル・ヒートブレイクをより高品質$$$な物へ変更していますが、新たなSpeedBoatへの挑戦は怖くてしていません。低速プロファイルなら問題なくプリントできるので、とりあえずはそっちで満足しているのと、3Dプリンターのチューニング方法を色々書いてあるサイトを見つけて、それの通りにチューニングする事に没頭しています。

でも、The 100で15分以内にSpeedBoatをプリントすると、コミュニティからシリアル番号をもらえるのですよね。いいな、欲しいな。なので、そのうちにまたSpeedBoatに再挑戦したいとも思っていますが、いつになるだろうか?と言った感じです。

それと、Mattさんがv2.0のアルファテストを開始したので、そちらの方も気がかりです。フレームも含めて新たに作り直すのも良いかもしれません。

しかし、今回非常に苦労してThe 100を作ったせいで、結構3Dプリンターについての知識が深まりました。大変面白かったです。苦労も多かったけど、やってよかったかな。

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