記事一覧
エレベーターは五階で
かわった物件を見つけた。都内5階建ての新築マンションで、最寄り駅まで徒歩5分という好条件にもかかわらず、家賃が同地区の格安アパートとそこまで差がなかった。それだけでも十分に珍しいは珍しいのだが、この物件の奇妙な点は別にあった。上層階と下層階の家賃が相場と逆転していた。
いわゆるタワマンというものをはじめ、物件というものは階数が上がればそれだけ賃料も上がるのが一般的だ。そのはずがそのマンションは
卵を焼いても、ひとり。
卵焼きが好きだった。なんの飾り気もない、少し焼きすぎたあの卵焼きが好きだった。母が褒めてくれたから、初めて父の役に立てた気がしたから。
小三の夏休みのことだったと思う。たまたま早起きをした私がリビングへ向かうと、母が朝食の準備をしているのが目に入った。ちょうど卵焼きをつくろうとしているところだった。その所作を眺めていると、なぜかはわからないが、急にやってみたくなった。
母ははじめこそ驚いてい
ゴールデンエイジ(笑)
「フォローとリツイートで全員に100万円配布します!」なんて投稿に必死にアピールしているかつての同級生を嘲っては安心している。自分はこいつよりはましなんだと。まだ、現実を見据えた行動ができているだけ、価値があるのだと。
憧れの強い人生を過ごしてきた。足の速かったクラスメイト、顔立ちの整った先輩、自分にないものを持っている人に強く惹かれてきた。そのたびに、その羨望と自分という現実との間に深い隔た
セーラー服と希死念慮
死ぬ機会を探している。なんでかなんて自分でもわからない。どちらかといえば恵まれた生活を送ってきたような気さえする。両親はぼくのことを愛してくれたし、友人も、恋人だっていた。もしぼくの人生に、映画の世界みたいにドラマチックな絶望があれば、ぼくは死にたい自分を肯定できたのかもしれない。でもそれは叶わなかった。絶望すらも、ぼくは持ち得ていなかった。ただ死にたい心だけを抱えていた。
最初は電車に飛び
電気こうたろう、生きること。
これまで生きてきて、失ったものとまだこの手に残っているものを比べてみる。考えてみると、随分と多くの喪失を経験してきたことに気が付き、心がどことなく重くなる。どこかに忘れてきた玩具、春になれば会えると信じていた親友。もしも私がフィクションのなかの主人公のように強い人間だったなら、これらの喪失を糧に自身の世界を大きく変容させることができたのだろう。しかし実際は、大声で泣きわめき、誰かが優しく手を差し
もっとみる