第41回:日本のハラール市場は再始動するか

2022年11月30日掲載

前前回、訪日を予定しているムスリム(イスラム教徒)旅行者のアンケート結果を解説しました。すると、「ハラール(イスラム教の戒律で許されたもの)ブームは再燃するのか」というご質問をいくつかいただきました。コロナ禍前のハラールの盛り上がりについて私はブームとは捉えていませんでしたが、市場の期待は大きいのかもしれません。そこで今回は日本のハラール市場の今について考察します。

■ハラールはブームだったか

日本でハラールという言葉が見聞きされ始めたのは約10年前。2012年マレーシアのマハティール元首相が来日した際「日本もハラール市場の振興を」と呼びかけた事に始まると言われています。当時日本は訪日観光(インバウンド)政策に注力し始めたころで、翌13年にマレーシアとタイからの訪日ビザの緩和に加え円安の進行と格安航空会社(LCC)の増便が重なってムスリム客が訪日しやすい環境が整い、ハラールに注目が集まったのでした。

同年には東京五輪(オリンピック)の開催も決定し、世界16 億人(当時)、その半数が東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国にいると知った日本企業は当初輸出目当てにハラール認証の取得に動き出しました。しかし、輸出相手国によって異なる認証機関、複雑な相互認証システム、加えてサプライチェーン(供給網)が完成していない日本国内での対応は容易ではなく、途中で断念したり、認証を取得しても更新しない企業が続出しました。

ダメ押しとなったのが日本国内にハラール認証機関が乱立してしまったことです。海外の例に倣えば経済政策として行政が管轄すべきところですが、日本政府は政教分離を理由にこれら認証機関を管轄せず、その結果「国内にいったいいくつ認証機関があるのかさえ分からない」という野放し状態を作ってしまったのです。新市場へのパスポートとももてはやされたハラールは、「難しい」という印象だけを残して沈静化していきました。

■ハラール対応レストランの現状

「ムスリム対応にハラール認証は必須で、その取得は困難。」といったイメージは輸出だけではなく、インバウンドにも広がりました。飲食店舗でも「店舗全体でハラール認証を取得しなければならない」という誤解が先行し、ムスリム客の受け入れに消極的な店舗が少なくなかったのです。

こうした状況下で普及したのは「情報開示型」と呼ばれる認証に頼らない独自の方法です。これはムスリムが求める情報を開示して、購入判断の一助にしてもらおうというものです。


図は2018年11月と今月のハラールグルメジャパン(HGJ)の掲載店舗数とその増減率を示しています。「オーナーがムスリム」である店舗だけが減少していなかったのは興味深いですが、すべての項目で対応店舗は減少しました。「ハラール認証店」は最大の減少率となった一方で、「ベジタリアン料理あり」は若干の減少にとどまりました。これは、ムスリムよりもベジタリアン対応のニーズはさほど減らなかったからかもしれません。

■海外企業と組んで海外へ売れ

コロナが落ち着き、外国企業を対象とするセミナーも増えています。私は年末から年始にかけて3カ月連続で、日本のある国際協力機関が主催するセミナーに登壇します。テーマは『日本のハラール市場について』、聴衆は日本へ自社商品を売り込みたいマレーシア企業です。

過去同じテーマのセミナーに私は何度となく登壇しました。日本だけではなく日本貿易振興機構(ジェトロ)とともにマレーシア各地を回ったこともあります。しかしながら、成果を残せたのは一部の企業のみ。理由は彼らなりの「自社商品を自社の力で日本で売る」ことに強いこだわりがあったからです。その熱意は理解できますが、日本は新規参入が難しい市場といわれています。パートナーなしで売れるほど簡単ではありません。

そこで今回は『日本企業と組んで第三国へ売る』を裏テーマとして、マレーシア企業が日本企業と組んでどうやって世界市場へ進出するかを考えることにしました。彼らの目的は外貨を稼ぐことです。そうであれば、日本以外で日本の価値を認めてくれる国へ売り込めばよいのではないか。日本企業は海外のハラール市場に詳しくなく、まさにパートナーを求めているケースが少なくありません。つまり両国企業にメリットがあると考えたのです。

このテーマについて私は何年も前から折に触れて各国に提案していたのですが、経済大国・日本市場へチャレンジしたいと、まともに聞いてくれる企業は少数でした。米国ロイター系のメディアで私がマレーシア企業へ「“日本に学べ”の次は“日本を使え”」と言ったのは5年前です。コロナ禍を経て日本企業にとっても「“ハラールを学べ”の次は“ハラールを使え”」というタイミングにあるのかもしれません。


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