第37回:インフレで変わる日本の食卓

2022年7月27日掲載

インフレ率8.8%。先日OECD(経済開発協力機構)は今年の経済見通しを発表しました。それによると、OECD全体の実質GDPの伸び率を昨年12月は4.5%としていましたが、今回は3%へ下方修正しました。一方でOECD加盟38ヵ国平均のインフレ率は8.8%と、逆に前回発表から2倍近く上方修正しました。これは世界経済が激しく動いていることを表しており、日本経済にも大きな影響を及ぼしています。そこで今回はインフレで日本の食はどう変わるのかを考察します。

■世界はインフレ構造へ転換

OECDの予測を短期間で大きく変更させた最大の要因はロシアとウクライナによる戦争です。昨年2月に勃発した直後は世界経済の成長率を1ポイント超下げると予測していましたが、今回はさらに1.5ポイント下げると修正しました。農業大国である両国による戦争で食料の供給は不安定となり、世界的な価格の高騰を引き起こしています。そこにエネルギー問題や政治問題も加わって、コロナ禍で傷んだ世界のサプライチェーンはますます複雑化しています。

中でもインフレは深刻度が増しています。新興国として期待されてきたトルコは72%、アルゼンチンは60.1%、ロシアは16.2%とOECD先進国の平均5.5%とは比べにならない高さになると予測されています。これらの国に共通しているのは食料の国内生産が少ないこと。中東、中央アジア、アフリカ諸国に多く、これまで政変や環境問題に翻弄されてきた国々です。ウクライナへの注目が集まる中、実はこうした国々は世界から支援が集まらなくなっています。

食料の国内生産が少ないと言えば、日本も例外ではありません。食料自給率は年々低下していることはよく知られています。食料の多くを輸入に頼っている中で起きている円安は、日本の国力の低下を象徴しているとも言われています。円安になっている要因は各方面で議論されていますので、本コラムではこれから日本の食事情はどうなっていいくのかを考えてみます。

■変わる日本の食卓

農林水産省によると食料自給率とは、我が国の食料供給に対する国内生産の割合を示す指標とされています。食料毎に輸入にどれだけ頼っているかがわかるため、海外の事情に影響されやすいかどうかもわかります。


図1は食料自給率(※1)と食料別の自給率(※2)を示しています。主な食料で自給率100%であるのは米のみ、その他は多かれ少なかれ海外からの輸入が必要となっていることがうかがえます。輸入には外交問題も絡むため単純に競争力があるから輸入されているわけではありませんが、それにしても日本は食料輸入大国であると言っても過言ではないでしょう。

仮に現在の円安傾向がさらに加速するとなれば輸入品はさらに高くなります。供給体制が崩れれば海外諸国との争奪戦に巻き込まれます。マスクや半導体が品薄になったのは記憶に新しいところですが、食料もその可能性があるのです。

そういった自体を回避するには国産品で乗り切ることになりますが、そうなると図1の上位にある食料を消費することになります。つまり、野菜、牛乳、米、魚が中心のメニューになるわけです。そんなことはありえないという声が聞こえてきそうですが、まさかが続く時代には、ありえない事態に備えることが重要です。

■自給率が高いエリアはサステナブル

日本の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースで67%(令和2年度)ですが、全国の都道府県別ではかなりばらつきが出ます。首位は北海道の216%、次いで秋田県の205%、そして山形県の145%が続きます。地域としては東北、北陸、九州が全国平均を上回っており、これら地域は自給自足が可能であると言えます。つまり、サステナブル(持続可能)を大いににPRできるというわけです。

本コラムで何度も指摘していますが、観光業産業でもサステナブルな取り組みが評価される時代です。山奥にある温泉旅館にわざわざ海魚を食べに行く人はいません。逆に海の近くの料亭に山菜を期待してくる人はいないでしょう。旅行者は地のもの、旬ものを期待しているのです。

今回のインフレはコストが上がって起きています。家計所得が増えない日本では、企業は価格への転嫁もできない状況が続いています。そうした中では安定的に調達できるものでつくり、安定的に提供できるものを売る傾向が強まるでしょう。インフレの恩恵を受けるのは、インフレと円安で購買力が高まった訪日外国人を呼び込める地域なのかもしれません。

※1 カロリーベース、2014年度
※2 重量ベース、2014年度


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