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備忘録〜行政上の強制措置から申請に対する処分まで〜

◉行政上の強制措置

○行政上の強制措置の全体像

 行政行為や行政立法などの行政作用によって国民に一定の義務が生じたとしても、国民がそれに従わなければ、行政目的を実現することができない。そこで、行政機関が国民に対して強制力を加えることにより、行政目的を実現する手段が認められている。これを行政上の強制措置という。行政上の強制措置には、将来に向けて一定の状態を実現する行政矯正と、過去の違反行為に対して制裁を科す行政罰がある。そして、行政強制には、国民が行政上の義務を履行しない場合になされる行政上の強制執行と、国民に行政上の義務の不履行がないにも関わらずなされる即時強制がある。

○行政上の強制執行=行政上の義務が履行されない場合に、行政機関が強制的に義務を履行させまたは履行があったのと同一の状態を実現する行為のこと。行政上の強制執行は、国民の権利義務に影響を及ぼすもののため、法律による行政の原理(法律の留保の原則)から、法律の根拠が必要。行政上の強制執行には、①代執行=代替的作為義務(=他人が代わってなすことができる行為を内容とする義務)を履行しない義務者に代わって、行政機関がその義務を履行し、または第三者に履行させて、その費用を義務者から徴収すること、②執行罰=義務者に自ら義務を履行させるため、あらかじめ義務を履行しない場合には過料を科すことを予告し、それでも義務を履行しない場合にはその都度過料を徴収すること、③直接強制=義務者が義務を履行しない場合に、直接義務者の身体または財産に有形力を行使して、義務の内容を実現すること、④行政上の強制徴収=義務者が金銭を支払う義務を履行しない場合に、直接義務者から金銭を徴収すること、の4種類がある。

○即時強制=義務を命じる余裕がない場合に、直接相手方の身体または財産に有形力を行為して、行政目的を実現すること。例えば、火災が発生した建物の中に人が閉じ込められている場合、いちいち建物の持ち主に対してその壁を破壊する義務を命じている余裕はないため、消防団員は、建物の持ち主に無断でその建物の壁を破壊することができる(消防破壊)。即時強制は、国民の身体・財産を制約するもののため、法律による行政の原理(法律の留保の原則)から、法律の根拠が必要。

○行政罰=行政上の義務違反に対し、一般等事件に基づいて、制裁として課せられる罰のこと。行政罰も、国民の権利義務に影響を及ぼすもののため、法律による行政の原理(法律の留保の原理)から、法律の根拠が必要。行政刑罰=行政上の義務に違反したことに対し、刑法典に形名のある罰(死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料)を科すこと、秩序罰=直接的には国民の生活に悪影響を及ぼさない軽微な形式的違反行為に対し、過料を科すこと、の2種類に分類される。

◉行政手続法総則

○行政手続法とは何か

 行政作用によって国民が不利益を受けた場合、行政不服審査法や行政事件訴訟法などの行政救済法に基づいて、事後的に不服を申し立てて争うことができる。もっとも、事後的に争ったのでは間に合わないような場合も想定される。例えば、飲食店の営業不許可処分がなされ、これを不服として争っている間に、近くに他の飲食店ができてお客さんを全部取られてしまったような場合、事後的に営業不許可処分を取り消してもらい営業を再開したとしても「時すでに遅し」と言った事態になってしまう。そこで、最初から行政作用を公平に行い、できる限り国民が不利益を受けないようにすることが重要と言える。行政手続法は、このような要請に応え、行政作用を行う際に取らなければならない手続きについて規定することで、事前に行政作用をチェックすることとした法律。

○行政手続法の目的

 通常、法律の第1条には目的規定が置かれる。この目的規定は、多くの場合、①その法律で行おうとする手段、②その手段で実現しようとする目的、③その目的を実現することにより達成しようとする究極の目的の順で記載される。行政手続法の目的規定は、まとめると、行政手続法の目的は、行政運営における公平の確保と透明性の向上を図り、国民お権利利益を保護すること。

○行政手続法の対象

 行政手続法は、行政作用を行う際に執らなければならない手続きについて規定した法律だが、全ての行政作用を対象としているわけではない。行政手続法の対象は、①処分(行政行為)、②行政指導、③届出(=行政庁に対して通知すること)、④命令等の制定(行政立法)の4つの行為に限られている。したがって、行政計画や行政契約などについては、行政手続法が適用されない。そして、①処分は、申請に対する処分と不利益処分に分けて規定されている。なお、命令等とは、法律に基づく命令または規則=法律の根拠に基づいて行政機関が制定するルール、審査基準=申請により求められた許認可等をするかどうかをその保冷の定めに従って判断するために必要とされる基準、処分基準=不利益処分をするかどうかまたはどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準、行政指導方針=同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数のものに対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項、を指す。

○適用除外

(1)行政手続法の適用になじまない行為の適用除外

 行政手続法の対象となる①処分、②行政指導、③届出、④命令等の制定の4つの行為であっても、その性質上、行政手続法の適用になじまないものがある。性質上、行政手続法の適用になじまない行為については、行政手続法の対象から除外される。これを適用除外という。

(2)地方公共団体の機関の行為の適用除外

 地方公共団体の機関の行為も、行政手続法による全国一律の規制をかけるより、各地域の特性に応じた処理をする方が望ましいと言えるため、適用除外とされる場合がある。

(3)国の区間等に対する行為の適用除外

 行政手続法は、国民の権利利益の保護を目的とするもののため、国民に対する行為を事前にチェックすれば足り、国の機関等に対する行為まで事前にチェックする必要はないと言える。もっとも、路線バス事業に対する営業許可処分のように、国の機関等が一般国民と同等の立場で処分の名宛人となる場合もあり、このような場合にまで行政手続法の対象から除外してしまうのは、妥当ではない。そこで、国の機関等に対する処分は、その固有の資格(=一般国民と異なる立場)においてその処分の名宛人となるものに限り、適用除外とされている。

◉申請に対する処分

○申請に対する処分とは何か

 申請とは、法令に基づき、行政庁の許可・認可・免許その他の自己に対しなんらかの利益を付与する処分(許認可等)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもののこと。この申請に対して行政庁が行う処分のことを、申請に対する処分という。

○審査基準

 申請により求められた許認可等をするかどうかを行政庁の自由に委ねると、不公平な処分がなされる恐れがある。そこで、行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(審査基準)を定めなければならないとされている。また、審査基準が公にされていないと、審査基準が適切なものかどうか、行政庁が審査基準に則って審査をしているかどうかをチェックすることができないため、審査基準は、行政上特別の師匠がない限り、公にしておかなければならないとされている。

○標準処理期間

 申請に対する処分がいつぐらいになされるかが不明だとすると、申請者は、いつまで待てば良いのか、また、今後どのように行動すれば良いのかわからなくなってしまう。そこで、行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常用すべき標準的な期間(標準処理期間)を定めるよう努めなければならないとされている。また、行政庁は、標準処理期間を定めた時は、これを公にしなければならないとされている。このように、標準処理期間を定めることは努力義務とされているのに対し、定めた標準処理期間を公にすることは法的義務とされていることに注意が必要。

○申請に対する審査・応答

 国民に申請をする権利が認められていたとしても、いざ申請をしたところ窓口で申請の受け取りを拒否されたというのでは、申請をする権利を認めた意味がなくなってしまう。そこで、行政庁は、申請がその事務所に到達した時は、遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならないとされている。また、申請の形式上の要件に適合しない申請についても、そのまま放置することは許されず、速やかに、申請したものに対し相当の期間を定めて当該申請の補正(欠陥を補うこと)を求めるか、または、当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。

○理由の提示

 行政庁は、申請により求められた許認可等を処分する処分(申請拒否処分)をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならないとされている。これは、行政庁の判断を慎重にさせるとともに、申請者が申請拒否処分を不服として争う場合の情報を提供するため。


理解不十分だけどやるしかない!!

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