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トンデモ広告に度肝を抜かれて


エロ広告問題を超える問題広告、出現

近年、インターネット閲覧中に意図せず「エロ広告」が表示されてしまうことについて、よく話題を見かけるようになっている。成人で性癖に刺さっても時機を選んでくれなければ居たたまれなくなりかねないし、まして子どもが見るようなページであればなおさらの問題である。特段エロサイトを見なくても表示されるのだから困ったものだ。

が。
私は本日、そんな問題を超えたエロ広告を見てしまった。

別にポルノを検索していたわけではない。検索ワードはごくごくまっとうで、開いたページは大手「歌詞サイト」である。お子様だってよく見ているであろう、他人に歌詞をURL共有して教えたり、自分が思い出したりするための便利サイトだ。

その右側、少しスクロールしたところに、それはあった。

ここにその画像は載せない。画像を見せて「これヤバくね?」と書けば一発なのだが、載せたら私が規制されてしまいかねない。なので皆さん想像力をたくましくしていただきたい。

その広告は、全裸、四つん這いで、地面に時計を置いたとすれば4時くらいの方向に尻を向け、首をねじってこちらに目線を寄越している、プロポーション抜群の人間の絵が描かれていた。直接的に性行為を想像させるようなポーズであって、それこそエロ広告であればポーズ自体は珍しくもない。そしておそらくその画像はAI生成のような雰囲気があった。

では何が「超えていた」のかというと、その斜めにこちらを向いた性器が完全に無修正で、しかもけっこう書き込みされていた点である。

さすがに目を疑った。出版物で18禁指定でも海苔の太さが云々とか言われるようなこの日本で、まさかの無修正が堂々と全年齢向けサイトに掲載とは…。

画像の下には商品名らしきものが薄く表示され、これまた何ともな宣伝文のあと、青い丸に白い三角のボタンが表示されている。通報や非表示を行うためのボタンはどこにも見当たらなかった。

広告元を探し出してみる

製品の発売元について

軽く調べてみると、該当の製品自体はどうやら本当にあるらしい。amazon経由でも販売されている。そしてその広告がいわゆるエロ広告のオンパレードだというのもわりあいに有名らしい。モノとしては、公式は「エナジーサプリメント」と言っているが、まあ入っているものといい広告といい、要は精力剤的なものと考えて間違いはないと思われる。

ちなみにメーカーとして「●●堂」と薬屋のような名前を名乗るが、運営会社名は異なり、どうやらバーチャルオフィスらしい所在地である(当該フロアに入居しているバーチャルオフィス会社がフロアの全域を占めているわけではない可能性もあるので、絶対とは言えないのだが)。
さらにちなみに言うと、あまり詳しくはない目でざっと確認した限りでだが、公式サイトの売り文句に明白な薬機法違反などは見当たらなかった。

調べた限りで公式の動向に明らかな怪しさはない。バーチャルオフィス使用も近年の小規模な企業では珍しくもないし、会社名とブランド名が異なるのもよくあることだ。日本に籍のある会社が販売しているサプリメントの一種という以上の情報は何もない。
ただし、口コミを見る限り、取引上の問題は多々発生している。故意の詐欺まがいなのか単にオペレーションがうまくいっていないのかは不明である。

広告の出どころについて

さて、では問題の広告についてだ。
一応ここで注を入れておくと、発売元が明白に怪しいとまでは言えない以上、もしかしたらこの発売元が関与していない広告の可能性もある。つまりその商品の広告を装って別の詐欺サイトに飛ばすような場合だ。

ところがこの広告にはフィードバックや非表示のボタンがない、ということはグーグルアドセンス経由ではなさそうである。
埋め込み広告タグからのどこかのアドサーバー経由で表示されているのは分かるが、こいつは一体どこから配信されているものなのか。

間違ってもこの怪しいリンクを踏むことはないようにあちこち触ってみた結果、判明したのはどうやら「××××.cc(××は伏字)」が関与しているということだった。
試行錯誤はとりあえず措いて結論だけ教えておくと、広告の上で右クリック→リンクアドレスをコピー→メモ帳に貼りつけで、URLの頭のほうにあった。出所が分からない広告が出たときはこの方法を使うと良い。

この提供元について調べると、こちらも日本に籍のある株式会社と判明。サイトの言語もしっかり日本語だ。一応は問題のある広告の通報フォームも公式サイトに設置されていた。

だが……「.cc」はあまりにも見慣れないドメインすぎる。まさかの次の検索ワードが「.cc どこ」である。

結論:ココス諸島(インド洋地域)

……これまたマップに聞いてみたところ、オーストラリアのちょっと左(西)あたりの小さい諸島らしい。

wikipediaによれば、地域がどうこうというよりもこのドメインを大々的に売り出した企業がいたそうで、その結果として本格的に怪しいサイトが増加、2011年ごろにはグーグルの検索からこのドメインが排除されていたこともあるという。
一応付言しておくと、この広告提供元については何も知らないし、ccドメインだから怪しいと決めつけるわけでもない。わざわざ珍しいドメインで運用されている、ということだけが事実である。

そしてこの広告配信会社のadを、明らかに歌詞情報サイトが自ら広告として挿入している。ページがかなり見やすいHTMLコードで書かれていて、その中にad設定を入れている部分がしっかりあった(Ctrl+Fで検索窓を出し、URLにあった配信会社名を入れれば引っかかる)。
コードについても全然専門ではないのだが、見た感じでは既存のノーコード系テンプレの使用をしたのではなく、少なくとも初期開発の段階でゼロからコードを書ける人が関わり、挿入したと考えるのが自然な気がした。

情報on情報でお腹いっぱいになりそうだが、歌詞サイトの運営元はどうやらかなりしっかりした株式会社である。もちろんサイトを全部信用するわけではないにしても、公式サイトのつくりこみや、書かれている主要取引先や主要取引銀行、資本金の額まで、特に疑うところのないしっかりとした企業のサイトの印象だ。広告の挿入も含め、歌詞サイトをゼロから構築していても不思議はない。
あくまでも印象だけで言えば、歌詞サイトがこの広告配信会社の広告に特段の問題があることを認識しながら挿入したという可能性は薄そうな気がした。印象だけだが。

広告が出て来るまでの流れを整理する

つまり、情報の流れとしてはこうだ。

まず、誰かが問題の広告を作った。それがその商品の発売元またはその委託を受けた広告代理店なのか、もしくは商品の名前を騙った無関係な誰かなのかは不明である。

その広告が、配信会社で流す広告として提供された。
資料のDLは情報を入力しないとできないパターンなのでやめておいたが、「広告主様向け」があるということは、おそらく広告配信者と広告提供者は何らかの契約を結んでいるはずだ。さすがに無関係な主体が発売元を名乗って契約しているということはないと信じたい。もっとも、通報フォームがあるからには、すべての広告の内容についてまでチェックはしていないのかもしれない。

そして配信会社が提供する広告表示のコードを、歌詞サイト運営会社がサイトに埋め込んだ。
結果、数ある広告の中からたまたま選ばれたその広告が、私のブラウザに表示されたというわけだ。

わいせつ物を陳列したのは誰だ?

私は犯罪の判定に詳しいわけではない。なので明確にそうだと言うことはできないものの、一般的な規制を考えれば、この広告を一般大衆の目につくところに置く行為はわいせつ物陳列罪になる可能性があると考えられる。

しかし、仮にわいせつ物陳列罪に当たるとしたら、誰がその罪を犯したことになるのだろうか?
・広告物として人の目に触れることを知りながら制作した者
・広告物を配信会社へ入稿した者
・配信した会社
・広告を挿入した歌詞サイト運営者

そして……これらの主体の中に「国際的な主体」がいたとしたら、日本のデバイスで閲覧した日本のサイトに日本の法律上違法な広告が表示されたことについて、誰かが、もしくはこの事象それ自体が、罪に問われないことがあったりするのだろうか?

結論から言えば、どうやらそんなことはなく、正しく裁かれることになっているらしいというニュース記事を見つけた。
ただ、ここで問題になっているのは「誰もがダウンロードできる状態に置いた者が罪」である。この場合の「誰もが見られる場所に置いた者」は……一体誰なのだろうか。

広告規制の難しさ

一般的なエロ広告は「モラルの問題」になるが、今回のようなものは違法性をも帯びて来る可能性がある。
言うまでもなく違法という点でいけば、明らかに薬機法違反の広告なども溢れているのが現実だ。今回の広告も、公式サイトの売り文句こそ違法性を発見できないが、問題の広告の売り文句は薬機法違反に認定される可能性もあるのではないかと思われた。

にもかかわらずネット広告の規制が進まない理由のひとつに、私が立ち止まってしまったような「いったい誰が悪いのか、罪に問えるのか」があいまいな事例が多いというのもありそうだ。よくよく勉強すればすぐに分かるのかもしれなくても、素人目に分からなければ通報や取り締まりに限界がある。誰が悪いのか分からないというのは、公権力に対して誰を訴えていいのか分からないということだ。現状、あくまでも自主規制のレベルでの話しかできていないのだ。

そしてもうひとつ、まさしく「公式サイトでは当たり障りがない」ということの意味、一過性の問題がある。
私がこのページを閉じてしまえば、次に開いたときに、あるいは別の人が開いたときに、その広告が表示されるとは限らない。「あれは違法な広告だった」と気が付いても、再現性があまりないのだ。

もし公式サイトが怪しい記載をしていたら、そのURLをもって通報すれば、公権力に動いてもらいやすい。ところがこの手のネット広告は、表示されたページのURLを貼ってもどうしようもない。広告に指定されたリンクをコピーしても、分かるのは広告配信会社だけで、結局どこに飛ばされるのかは実質的によく分からなかったりする(今回のリンクも、頭の部分以外は無意味な記号の羅列で、結局押したらどこに飛ぶのか、それは果たして本当に製品の公式なのかは不明だった)。

挙句にこれらの主体の中に国際的な主体がいれば、違法として認識することができたとしても、余程大きな問題にならない限り、追及は難しくなってくるだろう。今回の広告も、ドメインが.ccであり、国際的な問題を切り離すことができない。わいせつ物陳列1件があったということを立証するのも難しいのでは、到底事件にしようがないような気がしてくる。

だが、こんな状況が続いたら、未来のインターネットはどうなってしまうのだろうか?

広告に埋もれた世界で

最近では何を調べても、調べたかった情報自体とは無関係な広告を見ないことがない。国際化がどんどん進む中で、無修正広告をはじめ、日本では違法になるような広告がますます増えていくのかもしれない。

おそらくは、一般人が違法な広告に対してどうしたら良いかの手の届く選択肢が求められていると思う。たとえば広告のリンクを共有する方法の周知や、リンク共有をすれば対応してもらえるような公的機関のウェブページの設置、違法性が確認された広告に関する金銭の流れを止めるようなしくみ等だ。

調べたところ現在も民間団体が市民からの通報をもとに自主規制を求める活動をしているが、通報フォームも煩雑だし、公的機関でもない。きちんとした警察等の機関が、方針を明確にし、市民の利便性を最優先にして動かなければいけないところではないかと思う。

日本で違法になるような広告を出すことができない、または、違法な広告を出しても儲からない、違法な広告を出すような業者の広告を埋め込むと埋め込んだ事業者が損をする、そのくらいにならないと、ネットの治安は回復しないのではないだろうか。そんなことを思った。

役に立つかもしれないまとめ

・広告を押したらどこに飛ぶか知る方法:右クリック→リンクをコピーしてどこかに貼りつける
・ソースコードの調べ方:Ctrl+Uでソースコードを開き、Ctrl+Fで検索
・問題のある広告を見つけたとき:民間の機関「JARO」に意見フォームがある。注意事項を読んだ上で送信すること(思想上の問題などは対象外)。
この記事のような探索をすると、後ほど広告欄が大変なことになります。私はあまり気にしていませんが、細かい対処方法はご自身でお調べください。

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