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『伝染るんです。①』(文庫版) P10右〜今のレベルを満喫する〜

 詳しく知らなくってもいい。技術が未熟でもいい。思い付いたところからでいい。一つ一つ、地道にやればいい。無限の肉体を持たない人間の体では、地道というのが理に適う。高度な専門性と緻密な分業の網の中で我々は窒息しているのだから。
 好きなものを好きだと言えば、好きの程度が問いただされ、何かを始めれば技術の程度が試される。好きで好きで仕方がないという、「好き」の最上級しか認められないなら、我々は何物にも好きとは言えない。「好き」の貧困みたいな世界では、生きてる実感はダニ以下だ。
 どんなジャンルでも権威に対する敬愛は避けられないが、自分なりに何かを解し何かを為すには、自分という実感を取り戻すには、敬愛の念など忘れることだ。自分なりに好きなポイントを追究したり、権威の一部から掠め盗った技術で何かを為したりすればいい。初めはそれが何よりだ。その上でよりよい発展を望むなら、敬愛の上で敬愛を突き放すことだ。

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