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『伝染るんです。①』(文庫版) P7左〜物には限度がある〜

 好きな物を食べたり飲んだりは楽しい。弁当の端や小皿に収まったひじきの煮物は美味い。しかし、磔のイエス・キリストも一物だけは隠しているように、物という物には限度がある。山盛りのひじきを前にすると、あまり食欲が湧かない。慎み深い大人たちはひじきの限界を知っている。子供たちの人気にヘンな気を起こし、大皿に盛られよう、メインを張ろうなんてのはひじきの高望みだ。ふてえ野郎だ。駄菓子屋のおばはんがイオングループと覇を競うようなもんだ。
 ひじきは大皿で食べるものではない。小分けで供されるものだ。過剰なひじきは自身の価値を貶める。山盛りのひじきの前では、神の見えざる食指が引っ込むのだ。大皿のひじきは神様の怒りを買う。
 良かれと思っても、イエスの一物が暗示する原理原則を忘れてはならない。いい塩梅というものがある。いい塩梅に一物を隠し、いい塩梅にひじきを盛る。ちょっと物足りないぐらいが、有り難さを持続する。

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