見出し画像

『伝染るんです。①』(文庫版)P4右〜理と理のハザマ〜

 あゝ、心はいつも理路整然の直線を進むわけではなく、現実の確かな流れの中で変容し、心の働きは目や耳で感触される万象とともに移ろう。理想と現実のギャップ。男と女のハザマ。任侠と人情のせめぎ合い。理と理のぶつかるところに悲劇や喜劇、涙や笑い、バラエティー豊かな孤独などが生まれ、人間のイノチが悶える。理とはなんぞか。理とは、日常他人が期待する我々の役割、暗示されたる他人のマゴコロ、記憶と経験のケモノ道、偶然できた滑走路、品質の悪い赤い糸。その、脆き導きに人間が悶える。美しい。スーツネクタイ作業服、人間のフォルムは心を平坦にする。美しい。美しさの中でフォルムに抗う心を燃やす。美しい。あゝ、いい。フォルムに同化しきれぬ個的な理を含むこと、アホで間抜けな美しさ。フォルムを纏う人間は理想的で魅惑的で未来を指差すけれども、単純で貧困で胡乱、ウロンだから。信じられるのは理のない数学、デコボコの素数だけです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?