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光によって変化する、硝子の美しさ。#佳日のほとり Vol.01

こんにちは、こんばんは。
編集者・ライターをしている栗田真希です。

この8月から、週刊noteマガジン『佳日のほとり』をスタートします。日曜日に、そのときわたしにとって「よき日々をもたらしてくれる」ものを紹介していく予定です。満ち干きのあるいつもの暮らしを、「佳日」にしてくれるもの。心をときめかせて過ごしていくための、なにか。ここで積み重ねていけたらと思っています。

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さて、夏が来るとほしくなる、硝子のもの。わたしは陶磁器が大好きなのですが、夏にはやっぱり、涼しげな硝子のうつわに惹かれます。

先日、Instagramで見つけた硝子工房がとてもすてきだったのです。神奈川県小田原市の海のそばにある「グラスキャリコ」。ちょうど日本橋三越で展示をされていたので行ってきたら、これが大当たり。実際に自分の目で見て、「これはすごい!」と恍惚としてしまいました。職人としての細やかな心配りと技術が詰め込まれていて、それでいて作家としての伸びやかさもあって。

その日、展示会には硝子作家の岩沢さんが在廊されていて、いろいろお話をうかがいながら、じっくり選びました。

今回お迎えしたのは、まず魚のオブジェ。

ひと目で心奪われました。まるで泳いでいるような躍動感、水中を身をよじって前に進むようなしなやかな姿。しかも自立して安定感もしっかりあります。

つくっている岩沢さんは、海の近くに住んでいるだけあって魚にとても詳しく、オブジェもとてもリアル。この魚はシラコダイで、下くちびるが前に出ているのは、海の下のほうで餌を下から受けるように食べるからなのだそうです。あとから「シラコダイって?」と調べてみたら、そっくりでした。

このオブジェ、常に机の上に置いているのですが、夜に明かりの下に置いて、寝る前に眺めるのがとくにお気に入り。明かりによって、また見せる美しさが違います。

魚がゆったり揺蕩うような姿を見ていると、寝る前の時間にふと肩の力が抜けるのです。自分も海のなかにいるような、静かな気持ちになれます。

かわいらしい顔立ち、背びれや尾びれの優雅さ、海中のような気泡を閉じ込めた透明な硝子そのものの素敵さ。光や背景、置く場所、敷くものによって表情を変えるので、毎日のように新しい美しさに出合っています。

それから、もうひとつお迎えしたのが、脚付きのうつわ。

もっと実用性の高い、カップや鉢、ワイングラスなどもあったのですが、岩沢さんの作家性の強いこちらに惹かれました。かたちをつくったあとに、胴の部分に飾りをつけ、ふちにも硝子をひと巻き。装飾としてかわいらしいだけでなく、ふちの丈夫さも増しているとのこと。こういうところに、職人仕事と作家性の調和を感じます。

長崎県の波佐見町に住んで、波佐見焼をつくっている人たちを取材してきて、職人仕事と作家性の両方を追求することの難しさを知りました。オブジェなどの道具の範疇を越えるものはとくにそうです。

職人仕事と作家性。限りある時間のなかで、どちらにも注力することはそう簡単なことではありません。どちらかに傾くことが多いように感じているのですが、どちらがいいというわけではないのです。わたしはどちらも好きです。

お客さまのことを考え使いやすさを追求することと、作家(または窯元や工房ごと)として自分の個性を開放することは、相反してしまうこともあり、難しい。けれど、職人らしさと作家性が溶け合い、つくる人の「楽しさ」が込められたとき、使うわたしたちの日常のハレとケを調和させてくれるような作品が生まれるのだと思います。

ちなみに、この爽やかな色は「キャリコブルー」といいます。色硝子の再利用をしてつくっているのだそうです。透明な硝子と違い、色がついたガラスは一度使用すると通常廃棄になってしまうところ、「グラスキャリコ」ではこんなに綺麗にして使っているんですって。そんなところもうれしくなりました。なにより、夏にぴったり。

なにを盛り付けようか、想像がふくらみますが、今週はスイカにしました。

深さも絶妙で、汁気のあるものもしっかり受け止めてくれます。キウイをのせたときには、緑がより引き立ちました。アイスクリームを盛り付けたら、その見た目だけで気分がぐんと上がります。
おかずも大丈夫! 白和えとか、にんじんの甘酢漬け、きゅうりの浅漬け、なすの煮浸しなんかも似合いました。テーブルにこういう背の高い食器があると、メリハリが付いてテーブルコーディネートがさらにおもしろくなります。

今年の暑すぎる夏は、岩沢さんがつくってくださった硝子のオブジェとうつわで、気持ちは涼やかに過ごしたいと思います。

朝、昼、夜。日差しや明かりによって見せる表情を変える硝子。その光の美しさがすっと胸に入ってきて、今日という日を明るくしてくれるような気がしています。

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最後に、「グラスキャリコ」さんを勝手にご紹介します。

https://www.instagram.com/tatsu_iwasawa/

さまざまな百貨店などで展示をされているようなので、また見に行きたいと思います。いまは休止されているようですが、小田原の工房で吹き硝子の体験もできるみたいなので、いつか行って吹いてみたいなあ。

それではみなさま、よき日々を。


さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。