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才能を病にしない

編集者という仕事は、他人の才能を扱う仕事だと言える。才能というものには、波があったりする。病のようなものだという表現さえ耳にしたことがある。

確かに。わたしもひとりの書き手として、熱に浮かされるようにして机に向かっているとき、自分が正常な状態ではないなと感じているときもある。

だけれど、才能を病にはしないようにしよう、と思う。

昔、身体を壊したタイミングで、広告の公募の賞をもらった。わたしからすれば、大きな賞だった。うれしかったけど、ラッキーだなとわかっていた。すごく自分の状態が不安定で敏感になっていたから、ひらめきが舞い降りたのかもしれないとさえ思っていた。

そんなことを話すと、会社の先輩がこんなことを言ってくれたのだ。

「あなたは、身体を壊したからいいものがつくれたと思っているかもしれないけれど、そんなことは絶対にない。身体を壊さないとつくれないわけじゃないから、勘違いしないでね。あなたは健康でも、それができる人だから。自分に呪いをかけたり、自分を不幸な場所に置こうとしたりしないで」

にっこり笑ってくれた先輩のおかげで、わたしは才能を病に、病を才能にしないで済んだ。

健やかに才能を磨いていこう、いや才能なんてものがあってもなくても土台として健やかな人間でいようと思えたのだ。

あれから約8年も経つ。なんて大きな分岐点だったのだろう、と時間が経つほど感じている。あの人が、あの言葉がなかったら。わたしはどこまでもラッキーな人間なのだ。

だからわたしも、編集者としてどんな作家さんと一緒に仕事をするにしても、その人の才能を病にしたくない。小説でも漫画でも新書でもどんなジャンルでも、その道は、選ばない。自分がそういうふうに導いてもらったから。

もし才能が儚いきらめきだったとしても、健やかに鍛えた力があれば、いいコンテンツをつくりだせるはずだと信じている。

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