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女 ひとり 家を買う 〜リフォーム超奮闘編番外編〜


 『金田一少年の犯人の事件簿』という漫画がありまして。
 『金田一少年の事件簿』に出てくる犯人の視点から描かれためちゃくちゃ面白い漫画なんですが。
 その中の名台詞の一つに、トリックを実行する為に忙しなく動く犯人が言う

「やることが やることが多い…!」

というのがありまして。

 ここ一年半くらい、ずっと脳内でこの台詞が流れ続けてます。

 やることが やることが多い…!!!

 だが、そのやる事も。
 一年と半かけて、ようやく終了しようとしていた。
 私より後に物件を探して私より先にリフォームを終えて引っ越しした友人は、日々お洒落なパン屋でトングを持って選んだりしている。
 一方私は何故かネコリアンにゆっくりゆっくりお腹を踏まれている。あんなに軽やかにジャンプ出来るのに、なぜ私の体をわざわざ踏んで行くのか。と思ったら隣で寝始めた。私の左側が定位置です。何かこだわりがあるんだろう。コダワリアン。

 本題に入ります。
 今回の話は登記の手続きについてなので、興味ない方はすっ飛ばしてください。

 かなり遠回りをしてやっと理想の家を完成(まだまだ手を加えてはいく)させた私は、フック船長から請求書を受け取り意気揚々と銀行に電話した。マジでこの担当の人も早く私との関係を引き落としだけにしたいと考えてると思う。
 進捗の確認の連絡の度に「工事が終了しましたら、お知らせください。すぐに融資に移れます」とずっと聞いてきたので何も考えずにスマホを耳に当てた。「大変でしたね💦ではすぐに手続きをします」と言われ、手続きの日を決めて当日用意する物などを知らせてくれた。
 きちんと前日にも連絡が入り、必要な物をもう一度確認してくれた。
 
「ご丁寧にありがとうございます。では明日よろしくお願いします」

 電話を切った。
 5分後、またかかってきた。

「すみません…!あの…滅失登記って分かりますか?」
「はい」
「今回家屋の一部を取り壊してますので、融資に滅失登記が必要になってまして…。それが終わってから、また連絡を頂くという事で…」

 ……!!!!
 もっと!!
 早く!
 言って!!!!
 一年半前の融資条件とかすっかり頭になかった私が悪いけども……!!!

 ここで話を進めるにあたって、軽く不動産登記について説明しておきます。
 不動産登記とは、その不動産の身分証明書みたいなもので、住所、不動産の面積、種類、現所有者及び過去の所有者、抵当権者(不動産を担保にお金を貸した側)等々が記されております。不動産を所有してる人なら必ず持っているので、自分のではなくても身内のを見たことある人は多いと思います。
 で、不動産登記は内容に変更があった際は速やかな届け出が必要になります。売買や相続で持ち主が変わった時もそうだし、改築で建物の面積が増えたり減ったり無くなったりした時も届け出をしなければなりません。

 そこまでは私も分かっていた。なのでリフォームが終わったら一ヶ月以内にやろうと決めていた。やり方は窓口で聞こうと考えていた。今思えば先にググれば良かった。
 とりあえず届け出先となる法務局の窓口に電話した。必要書類と申請方法について聞きたかった。

「登記についての相談は予約制です。予約が空いているのは一ヶ月後です。それまでは何もお答え出来ません」

 滅失登記の申請期限は取り壊されてから一ヶ月だ。悪質でなければ大丈夫だろうけど、一応罰則(罰金)もある。
 モヤッとする…!罰金のマッチポンプみたいなモヤッと感がある…!
 Twitterで嘆いた。すぐにみんな助けてくれた。優しい。さすがネット社会だ。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。お礼に元気なネコリアンロケットとプルプルの餅を引き続き発信していきます。
 色々な助言の中で「自分で申請した方が早いよー!」と教えてもらったので早速やり方をググった。調べていると「法務局の相談では登記申請の必要書類の確認はしません」との記載を見つけたので、危ねぇ〜と思った。一ヶ月かけて無駄足を踏む所だった。(ちなみに電話口で必要書類や申請方法を相談で聞きたいが大丈夫かという旨を尋ねた時は「それも相談時間内に聞いてください」との返答だった)

 というわけで、必要書類を集める事から始めた。

〜滅失登記申請に必要な書類〜

 滅失登記申請書(法務局公式でダウンロード出来る)

 登記簿(法務局にオンライン申請。有料)

 取り壊し証明書&取り壊し業者の印鑑証明(取り壊し時にセットで業者から貰える)

 必要な物の内二つが申請先の法務局にあるの、なんか、なんだろう。二度手間感パネェ。不動産番号書いといたら向こうで照合してくれる制度にはならないのか。決まりならやるしかない。
ちなみにこの手間が面倒な方は専門家に依頼出来ます。ただ相続がゴチャゴチャになって所有者が増え続けてる系なんかだと費用も時間もかかると思います。あるあるな『ゴチャゴチャ不動産』。何とか整理しようとしても「管理はしないがほんの少しでも権利があるなら手放さん!」を喰らって結局放置されるやつ。何だろうね、あれ。手放すと損した気分になるのかな。

 前々から首傾げてるんだけど、『自分の土地ではないと分かっていても所有の意思を持って誰にも邪魔されずに一定年数タダで居座り続けたら、所有者になる事も可能!』な法律、マジでどうかしてると思う。バグすぎるでしょ。以前見た公売物件にまさにそういうのがあって戦慄した。所有者がいるのに、まったく関係ない家が一族の墓を作ってしまってるやつ。そして「ここを明け渡す気はない」と占有してるやつ。あれ結局、どうなったんだろう。

 今寝返りしたら、猫に腕がめり込んだ。ごめんごめん。正直暗闇だと薄手の毛布とネコリアンの区別がつかない。チリン、と鈴が鳴ったらネコリアン。犬は分かる。でも頭だと思って撫でてたら尻だった、というのは無限にある。オシリィーヌ。

 
 法務局から封筒で登記簿が届いた。

 続きまして、滅失登記申請書に記入していく。
 登記簿、ちゃんと見るのは正直二度目だ。一度目は引き渡しが終わって家に書類一式が届いた時だった。そんな何回も取り出して眺めるようなものではないし。
 何が言いたいかと言うと。
 とりあえず付け焼き刃ではあるが、一応勉強した後に見たのが初めてだった。
 そして、気付いた。
 一年以上経って、今頃気付いた。

「あれ?これアマ新と取り決めしたやり方と真逆の登記になってね?」

 noteの話数が多すぎて面倒だったが調べたら21話目に「母屋と離れの登記を分けてもらうようにした」と書いてある。同じ時期にしたアマ新との取り決めもスマホにある。分けた理由は「その方が取り壊しした時に申請が楽」と言われていたからだ。当時の私は全く何も知らない生まれたてのアオムシであったので、その通りにした。そしてそれは間違ってはいなかった。実際、滅失登記は上記3点(4点)の書類で足りる。
 だが何度確認しても、登記の『種類』という項目には一行で『居宅・倉庫』と記されていた。一行で一つの塊だ。それは私が異世界転生しても多分変わらない。
 眼薬をして確認しても、書いてる。
 念の為ググったけど、書いてる。
 ちなみに登記を書き換える前の売買契約書では、母家と離れは違う行に書かれている。

 わざわざ、合体している。
 付属する建物として登記されているわけでもない。完全に1つ。
 なんでだ。

 私は痛む頭を押さえつつ、記憶を辿った。確か銀行で引き渡し作業をしながら「書類上建物の敷地面積を合算してますが、別々に登録されてますので大丈夫です☺️」と言われたよな。
 今なら、分かる。

 アマ新、ひょっとして不動産登記と固定資産税の課税明細がごっちゃになってたんじゃない?

 
 べ!!!!

 つ!!!!

 だ!!!!

 よ!!!!

 お前!これ、結構なアレだぞ!!
 私は申請書に記入してる時に気付いたけど、もし専門家に任せていたら……!依頼金額の相場ググって「ピェッ!」て声が出たぞ!!
 
 え〜っと、え〜っと。
 つまりですね。
 
 母屋と離れ(表記上倉庫)、2つの建物がある。
 一個解体しました。
 登記が

    ・居宅  ○○㎡
    ・倉庫  ○○㎡

 となっていれば、倉庫(離れ)の部分だけ『滅失登記』を申請して抹消する事が出来ます。
 ところが

    ・居宅、倉庫 ○○㎡

 となっている場合は、滅失登記は申請出来ず。

 解体後の面積測定を!!
 専門家に依頼して!!
 申請する前に再調査しなければならないのだァァーー!!!!

 嘘でしょ!?
 え?待って!!
 何その意味わからん出費!!!
 依頼相場おいくら!?(スマホでググる)
 オギャァァァァァ!!!!

 ていうかなんで真逆になってるんだ。当時のアマ新とのLINEを見ると取り決めをしてからしばらく後「先程、司法書士の方に登記を分けてもらうように依頼しました」と返信が来ている。
 私は当時登記を作成してくれた司法書士事務所に連絡した。一年以上経って「約束と違う」と連絡があっても「嘘つけ」と思われるかもしれないが、日付が分かる証拠も用意出来る。
 案の定、事務所側は「え?」という感じだった。ですよね。でもこちらとしては責任の所在がどこにあるとしても、頼んだ事は確かなのだ。お金払ってるのに逆になってるとか理不尽すぎるでしょ。本来あるべき姿に戻して頂きたい。なので当然ながら当時の取り決めの内容も用意出来る旨を説明した。
 
 結論から言うと、司法書士事務所側は土地家屋調査士の事務所に丸投げした。めちゃくちゃかわいそう。なんかうっすら色々透けて見えた気がした。

「あの、不動産屋からも司法書士事務所からも何も聞いてなくて……」

 本当にかわいそう。
 アマ新に連絡したらまた変な伝言になりそうだったので直で言ったけど、今からでもアマ新に言おうか?

「それはしないでいただけるとありがたいです……」

 スケルトン状態の「言われたら今後こっちに仕事がまわって来なくなる」感。
 めちゃくちゃかわいそう……。
 独立開業の縦社会を見た気がした……。

「自分が無償で調査いたします……」

 一番つらいのは彼だろうし「なんで今頃言うんだよ!!」と思っているだろうが、私へのダメージも半端ない。マジでヤバい。再調査するにも日程の調整があるし、調査に入って書類作って送ってもらって、そこでようやく私が申請出来る。更に申請後は法務局での処理があり、それが完了してから銀行なのだ。
 フック船長への支払いが遅れに遅れる。ヤダ〜!支払いの遅い依頼者とか、次回お願いしても受けてくれなくなるじゃないですか〜!!!
   
 とりあえず、フック船長事務所に菓子折り持って事情説明に行った。(元々お礼の菓子折りは送るつもりだった)

 全部終わったら土地家屋調査士事務所にも『御礼』みたいな熨斗つけて送る。やり直しとは言え無償でやってもらってるしね。表書きは御礼だとしても何度もあって欲しくないこの場合の水引は何になるのか、お店の人に聞いてみよう。
 現代社会において通販は確かに便利だけど、対面だと「こういう場合の熨斗は、どれが良いでしょうか」と聞くとベストな答えがすぐ返ってくるのでありがたいです。私個人としては、するかしないかは別にしてそういう慣習的なものがあるという意識は持っておいて損はないと思う。知っててやらないのと、知らないから出来ないの差は結構大きい。
 

 調査書を待つ間、私は自分で用意できる書類を作ることにした。
 滅失登記の申請から、建物表題変更登記申請になる。「登記してるAという建物を取り壊したので、取り壊し前の登記と取り壊し業者の証明書を送ります〜」から「Aという建物の一部を取り壊して面積が変わりましたので、滅失で必要な書類にプラスして変更後の面積を調査した書類と建物の図面を同封しますよ〜」という感じだ。後者は本来なら費用がかかるけど、まぁ、その、ほら、今回はそれがないので私の手間としては変わりはない。相手を待たせてしまうくらいで。
   
 物件を見つけてから、全ての関係書類は一つの大きな袋に纏めてある。それこそ役所でもらったパンフレットなどでさえ。
 私は取り壊し証明書とフック船長の印鑑証明を用意しようと袋をひっくり返した。

「……」
「……………」

 ハァハァ。
 ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。

 なんでないんだ……。
 確実に受け取った、クリアファイルに入ったペラペラの紙だ。リフォーム終わってから出すから使う書類として片付けたはずだ……。

 ウッウッウッ……。
 ウッウッウッウッウッウッ……。

 諦めて「証明書がない時」でググった。
 『大事な書類無くしたけど何かあったら責任取るから許して』が出来る書類、上申書を見つけた。これにいくつか証明出来るものをくっつけていく。
 私は

 住民票
 自分の印鑑証明
 周辺の地図
 電気代の領収書(公共料金の支払い証明)
 取り壊し前後の写真
 工事請負契約書(原本とコピー。原本は返送してもらう)
 代金請求時の工事内訳書(上に同じ)

 を用意した。
 急に書類が多い……!
 大事な書類程「絶対に無くさないよう片付けよう」「どこに片付けたかな😇」になる法則。俺達はいつもそうだ。

 私が半べそかきながら取り壊し証明書の代わりを作ってる間に、もう一人の気の毒すぎる人、調査士さんの書類が仕上がった。しかも建物表題変更登記の書き方の雛形と白紙の申請書も同封してくれた。あまりにも気の毒すぎる。菓子折り贈るから待ってて。
 ていうか、ほんと何で合体してたんだろ。元々2つに分かれていた屋根の違う建物だぞ……。でもこういうの全国各地で起きてる気もする。所有者の意思と違う登記がされてて発見が相続の時になる、的な。

 責任の終着点となってしまった調査士さんから郵送で届いた書類を確認し、申請書を記入していく。
 よいしょ。
 よいしょ。
 こっちは認め印でいいけど、上申書は実印だ。ハンコ、ポコポコ。上申書、ネットで優しい誰かが「使ってね〜!」してくれてるやつだったので元号は令和に直した。
 提出書類を一つのクリアファイルに入れて、返送用のレターパックと一緒にこれまたレターパックに入れる。

 よし、よし。

 行ってこーーーいッ!!!!

 おかえりィィーー!!!!!

 と、通った……。
 一発で通った……。
 この一連の作業をしている間に新居にはエアコンがつきベッドと冷蔵庫が搬入され、私は集落の神祭に参加するなどしていた。初めましてジョーです!草刈り出来ます!神祭終わって2時間くらいご婦人方とペチャクチャ楽しくおしゃべりして、お土産(奉納された野菜など)いっぱいもらって名残惜しく帰宅した。私は海辺の田舎から山中の田舎への引っ越しなのでいつも通りだけど。もし都会から小さな集落へ移住したいとは思いつつ不安、と言う方がいたらとりあえず直近の集まりに参加するのをオススメする。もちろん「そういうのはしたくない」という人もいるだろうから強制はしない。時代が違うから無理はしなくていい、と私も何度も確認されたし。ただ元気な挨拶と共に「手伝いまーす!」すると一足飛びに仲良くなれる。「どうすっかな……これ…」な高さまで伸びてた生垣を「うちがやってあげるよ☺️」とシュパーン!と綺麗に刈り込んでくれたりする。ありがたい〜!あの生垣、脚立も届かないしマジで悩んでた〜!
 そんな、登記作業期間でした。

 さてさて。
 待望の書類が出来たので、再び銀行へ連絡。
 懐かしのホットケーキ銀男からの引き継ぎ者。声だけ知って、丸一年。
 すぐ振り込めるように日程用意してくれたので、「一年も融資を遅らせてすみません」と窓口に行ったら「担当者は不在ですが、私が引き継いでおります」と違う人が出てきた。

 いねぇのかよ!!!!
 結局声だけしか知らねえよ!!!

 ま、まぁいい。
 訂正印や署名をモリモリ片づける。

「業者への振り込みが完了しました☺️では、返済は来月からということで」

 ……お、終わった……。
 これで、全部。
 全部、終わった……?

 終わったァァァァァァァ!!!!

 物件見つけてから一年半!!!!

 全てが完了したぞォォォォォーーー!!!
 全部終わってからスーパーのフードコートで食うラーメンセット美味ぇ〜!!

 さあ引っ越しだ!!引っ越し!!!
 源流が私達を待っている!!!
 野菜作って!
 川でスイカ冷やして!
 椎茸栽培して!!
 ワサビを育てて!!
 犬猫と楽しく暮らすのだ!!!

 食器を運べ!
 タオルを運べ!
 猫のトイレと砂を運べ!!


  ヨシッ!!!!

  次の休みに出発だァァァァァァァーーー!!!



 次回。

 あの時思い描いた未来の自分。
 これが、私の人生なのだ。

 女 ひとり 家を買うシリーズ、全ての最終話。

 『ここで生きていく』
 
 

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