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「※個人の感想です」これは私の備忘録。

救急車のサイレンを聞くたびにあの日を思い出して、胸が詰まる。私が発作を起こしているのではない。
夫が運ばれたあの日を思い出すからだ。
夫は入浴中に浴槽の中で転倒(おそらく、現場を見ていないのでおそらく)、大腿骨を骨折した。湯船から抱え出すことが出来ず、救急車を呼ぶことになった。人生で初めての119番コール。とりあえずお湯を抜き、体を拭き、寒くない様に上半身はパジャマを着せた。
救急車を呼ぶ事がこんなにも躊躇われるなんて思いもしなかった。救急車呼ぶけどいい?本人確認を取る。電話するよ、ちょっと待って、なんて言う?何を聞かれる?言い間違えないように正確に住所を書き留めておこう。電話していい?本当に?電話して良いレベル?電話するよ。
ほどなく到着。救急隊員の方々が手際よく(とは変な言い方だが)夫を搬送。4ヶ月前の事なのに覚えているものなんだな。今朝食べた物さえ思い出すのに一苦労していると言うのに。
救急隊員の方は本当に優しかった。親切だった。時系列がめちゃくちゃで支離滅裂な状況説明をする私に丁寧な対応をしてくださった。職業的にはごく当たり前の対応、なのかもしれなかった。けど、それでも、ありがたかった。嬉しかった。感動した。毎日、うちの前の道路を通過する救急車の中で、似たような場面が繰り広げられているであろう事を知り、感動したのだ。

搬送先の病院ですぐさまレントゲンとCT撮影。骨折していることが確認され、手術が必要である事が告げられた。更に・・私達家族はその場で頭から氷水を浴びせられたかのような、耳を疑う状況に追いやられてしまった。思わぬ所でまさかの夫の余命宣告。「余命1ヶ月です」
「え?」絶句した。絶句したまま、声に出さずに全否定する。そんなはずがない。何かの間違い?あり得ない。およそ1年前に肺癌ステージ4の宣告をされ治療はずっと行っていたが、余命は知らされていなかった。
当然受け入れられないので、その後は素直に復唱した。「余命1ヶ月ですか?」疑問形だったのか確認したのか、念押ししたのかは覚えていない。
突拍子すぎるその文言は、私達家族の中には収まらず、行き場を失って宙を舞い続けていたと思う。
骨折した足に添え木を当て、ビスで固定し鎮痛剤を打ってもらった夫は、数ヶ月ぶりに安眠の入り口に立っていた。骨折した足で余命1ヶ月と宣告された夫だったが、鎮痛剤のおかげで久しぶりに痛みから解放されて安堵しながら寝入った様子で、その事を私は心から喜んだ。

これは、もう4ヶ月も前の話。
救急搬送されてから2週間余りで、夫は潔く旅立った。

救急隊員の皆様、あの時は本当にありがとうございました。
入浴中の事故で、平熱よりも若干体温が高めだった為受け入れに難色を示す搬送先の病院スタッフに丁寧な説明をして下さり、断られても諦めずに搬送先を探して下さり、本当にありがとうございました。

サイレンを聞くたびに、心の中でお礼を言い深々と頭を下げる私です。



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