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『成瀬は信じた道をいく』

前作『成瀬は天下を取りにいく』を読み終えて、すぐに本屋へ直行した。「成瀬」は中毒になる。もともと、気に入れば同じ作家の作品を読み続けるたちだが、今回は明らかに成瀬の先行きを案ずる保護者のような気分でこの続編を買い求めた。

さて、大学生になった成瀬あかりは相変わらず我が道を進む。大学は京都大学に通っているものの、受験以外では京都のエピソードは出て来ず、物語の中心はあくまで滋賀県、大津、膳所である。近所のスーパーでアルバイトをし、時には近辺の「自主パトロール」をこなし、びわ湖大津観光大使に選出されては地元のアピールに余念がない。

そんな成瀬と接点を持つことになる地元の人々の視点で物語は進む。「ゼゼカラ」に憧れる小学生、凡庸な成瀬の父親、成瀬のアルバイト先の常連客、同じく観光大使に選ばれた同僚、そして東京に転居した幼馴染の島崎。それぞれの関わりの中で、成瀬が描かれていく。成瀬自身の行動は読めないし、心情は推察するしかない。

だから成瀬が大晦日に「探さないでください」と書き置きを残し、携帯電話を置いて家を出て行った時には誰も成瀬の意図が分からず大騒動になってしまう。物語のフィナーレとして登場人物総出の捜索となるが、その目的地が成瀬の目標達成の場所のひとつだったことがわかる。後から思えば伏線もあった。

前作の中高生から大学生となってからの成瀬は、「膳所から世界へ」と少しずつ世界を広げている。今後はどんな方向にスケールアップするのだろう。想像もつかない。もし第3作があるのなら、その辺が関心の的だ。それにしても成瀬中毒の身には2作ではまだ足りない。

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