レヴュー:魔法少女まどか☆マギカを女性解放の物語として見る

『魔法少女まどか☆マギカ』は2011年1月から4月にかけて放送されていた深夜枠のアニメである。

平凡な中学生である鹿目まどかが、ある日謎の生物キュゥべえと出会い「魔法少女」の存在を知る。
魔法少女とは、キュゥべえと契約を交わし願い事を一つ叶える代わりに、絶望の具象である「魔女」と戦う運命を課された少女たちのことである。しかし魔女の正体は、過酷な戦いに力尽きて絶望した魔法少女たちのなれの果ての姿であった。
それを知ったまどかは、自らが魔法少女として契約を交わす際に「全ての魔女を生まれる前から殺す」ことを願う。そして世界からは魔女の存在は消え、新たに人間の負のエネルギーの具象である「魔獣」が魔法少女の敵となった。

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○『まどか☆マギカ』における男性キャラクターの特性

『まどか☆マギカ』にはほとんど男性キャラクターが出てこない。唯一まどかの幼馴染・美樹さやかの想い人の上条恭介だけはストーリーに絡んでくるが、その他の男性キャラは出番が少なく、ストーリーにも絡んでこない。しかし男性キャラについて『まどか☆マギカ』には一つの特徴がある。

それは「男性キャラクターはほとんどの場合少女(魔法少女)たちに悪いもの・ネガティブなものを運んでくる」というものである。
例えば先に上げた上条恭介は、さやかが魔法少女になるキッカケであるが、その後さやかが魔女になる原因でもある。
また7話の杏子の父は、一家を支える柱だったが最終的に無理心中をして家庭を崩壊させる。
8話で交わされたホスト二人の会話は、さやかを絶望に突き落とす。

一方、少女に悪いものをもたらさない男性として、まどかの父親・鹿目知久と弟・鹿目たつやが存在する。知久は、キャリアウーマンの妻の代わりに家事育児をこなす専業主夫であり、たつやは3歳の子供である。これらのキャラクターには男らしさ(男性性)は感じさせない。
上記の上条恭介も、さやかが魔法少女として契約を交わす以前はさやかに庇護される存在として描かれていた。しかしさやかの契約後、上条恭介は精力的にリハビリに励んだり、同じクラスの女子から告白されたり、主体的に活動していく。そうなっていくにつれ、さやかはネガティブな感情に支配されていく。

○世界のシステムとキュゥベえ

その中で、キュゥべえは男性でも女性でもどちらでもない無性的な存在である。キュゥべえは本当はインキュベーターという宇宙生物であり、性別自体あるかどうかは明らかではない。ただし一人称は「僕」であり、巴マミに男の子として例えられることもあるので(第2話)、魔法少女たちの認識としては男子寄りの扱いのようである。
無性であるキュゥべえは魔法少女の願いを叶える(希望)と、魔女になる結末(絶望)を同時に運んでくる。つまり良いものと悪いものをどちらも運んでくる存在である。

キュゥべえの本当の目的は、魔法少女が魔女になる際に発生する感情エネルギーの収集である。
キュゥベえは、魔女が魔法少女のなれ果てである事実を契約時に少女たちには伝えず、リスクを説明しないまま契約を交わす。それを責められても「聞かれなかったから」などと悪びれる様子もない。そこには家畜に例えられる搾取の構造がある。

キュゥべえは少女以外を魔法少女に勧誘しない。理由は「二次性徴期の少女の、希望から絶望への相転移のエネルギー収集が最も効率がいいから」という。
言うなれば思春期特有の感情の起伏を利用した、少女をターゲットにしたエネルギー収集システムだ。
キュゥベえに善悪の感情はなく、最も効率いい収集方法を選んでいるに過ぎない。キュゥベえ自身何度破壊しても記憶を引き継いで復活して、いくらでも代替可能な描写がされているため、個体ではなくシステムの一部であるのかもしれない。

○分断され、搾取される女性たち

『まどか☆マギカ』の魔法少女は、閉じた世界で女性同士(魔法少女=魔女)が殺し合い、そこから生まれたエネルギーを搾取される構造になっている。一度契約してしまうと、魔法少女はその搾取の構造から抜け出すことはできず、戦い続ける。

魔女は魔法少女のなれ果てであり、すなわち未来の姿である。魔法少女が少女であるならば、魔女は少女から成長(成熟)した女性である。
魔法少女はグリーフシードによる浄化装置により魔女化を防ぐが、魂そのものであるソウルジェムが砕かれない限りは少しずつ穢れが溜まり、いずれは魔女になる。延命のためのグリーフシードは魔女を殺すことで手に入る。

つまり魔法少女は、未来の姿である自分を否定して殺し続ける。しかしいずれはソウルジェムが濁り魔女になる。少女と成熟した女性は閉ざされた構造で、互いに分断されて殺し合うように仕向けられている。

○誰が彼女たちを救うのか?

上記の通り、魔法少女たちに男性が近付くと良くないものを運んでくる。少女たちに悪いものを運ばない男性は家庭的であったり庇護される存在であったり、「王子様とお姫様」の物語のような男性による女性の救済は望めない。

さらに搾取という話では、8話のホスト二人は自分に貢ぐ女性を徹底的に搾取した後どうやって捨てるかという内容を話しているが、この「搾取する側」の論理は何も知らないまま契約した魔法少女を絶望へと突き落とす。

『まどか☆マギカ』において、女性同士で分断されて殺し合い、男性は彼女らに悪いものを運び、キュゥべえはエネルギーを搾取して宇宙へと還元させる。それが世界を維持するためのシステムである。
この構造の中で魔法少女を救うものは誰もいない。

○まどかの願い

12話以降のまどかの願いによって魔女がいなくなった世界では、新たな敵として魔獣が現れる。魔獣は人間の負のエネルギーを具現化したものだが、姿形は男性の、袈裟を着た坊主のような風貌である。また魔女のような独自性のある形ではなく、画一的な、無個性的な敵として存在する。

それは閉じた女性同士の世界で殺しあい、搾取されていた魔法少女と魔女が、まどかの願いによって解放されて新たな敵と戦うことになったことを意味する。
そこには搾取の構造はなく、キュゥべえも魔法少女とは以前より良好な関係を保っている様子が伺える。

魔獣との戦いによってこの世を去ったさやかも、最後には自分の運命に納得して穏やかに円環に導かれる。さやかの願いにより再びヴァイオリンを弾けるようになった上条恭介はさやかのことを思い出す。
最後まで世界のシステムに抗い、自らを犠牲にした鹿目まどかの願いが、絶望が待ち受ける未来から魔法少女を救済へと導いたのだ。

『魔法少女まどか☆マギカ』は、構造によって分断されて、殺し合い、搾取され続けた女性たちが、まどかによって救われる、解放の物語であると言える。

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