刑法条文・理論攻略法6

刑法条文・理論攻略法6
不能犯2
判例1修正された客観説に準じた判例=不能犯にならなかった条件を検討し、行為時に条件を備えたことができた場合には不能犯ではなく、未遂犯を成立させる。
【文献種別】 判決/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 昭和37年 3月23日
【事件番号】 昭和36年(あ)第2299号
【事件名】 殺人未遂被告事件
【審級関係】 第一審 24004300
前橋地方裁判所 昭和34年(わ)第237号
昭和35年 7月13日 判決
控訴審 24004301
東京高等裁判所 昭和35年(う)第2056号
昭和36年 7月18日 判決
【事案の概要】昭和33年、群馬県伊勢崎市で農業O氏が、自己の姪・Kちゃんを殺害して保険金を取得しようと考え、他の被告人2人と共謀の上、Kちゃんの静脈内に蒸留水とともに、致死量以下の空気30CCないし40CCを注射した事案。致死量以下という点から「不能犯」とは認めず殺人未遂罪を認定した。
【要旨】 〔最高裁判所刑事判例集〕
殺人の目的で静脈内に空気を注射したときは、右空気の量が致死量以下であつても、右行為は不能犯とはいえない。本件のように静脈内に注射された空気の量が致死量以下であっても、被注射者の身体的条件その他の事情の如何によっては死の結果発生の危険が絶対にないとはいえないと判示した。
【修正客観説からの説明】
1、規範
 行為当時に存在したすべての客観的事情を基礎とし、事後的に客観的に観察する。もっとも、結果不発生の原因を解明し、いかなる事実があれば、結果が発生し得たかという結果発生に必要な条件を明らかにした上で、行為時において結果発生に必要な条件が具備されることがありえたかという仮定的事実の可能性を考慮して、法益侵害の危険性の有無を事後的に判断する。
2、上記判例の分析
(1)行為時に存在した客観的事実=Kちゃんの静脈に空気30から40CCを注射した事実
(2)結果不発生の原因=注射した空気の量が致死量70から300CC以下であった。
(3)もっとも、血管内部が様々な物質によって硬化していたり、体質的に血管が細かったりしていたら、死の結果を発生させる危険があった。これらは結果発生の必要条件となる。
(4)行為時にこのような事情もあり得ることである。
(5)以上のことを踏まえて事後的に観察すれば、本件の行為は殺人罪の不能犯にならない。
(6)実行の着手があったが、死の結果は発生していないことから、殺人未遂罪になる。
判例2(大判大正6年9月10日)
 大正5年12月23日、被告人Tと、愛人A女と共謀し、A女の内縁の夫の殺害を図った。その第1方法は、汁鍋にイオウ粉末5グラムを混入し、内縁の夫に食べさせたが、苦しむだけで死ななかった。そこで、第2の方法として絞殺した。
→大審院は、イオウ粉末については体調不良を起こすだけで、死亡しないことから、第1方法は不能犯とした。
→修正客観説でも、どのような条件を設定してもイオウ飲食では死なないので、不能犯となる。
以上

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