民事訴訟法・複雑訴訟総ざらえ4

民事訴訟法・複雑訴訟総ざらえ4
固有必要的共同訴訟の成否(1)
入会権確認の訴え
1、入会権について
 入会権(いりあいけん)とは、村落住民が、山林や原野において土地を総有形態で所有し、伐木、キノコ狩りなどの共同利用を行う慣習的な物権。このような土地を入会地(いりあいち)といい、入会権の帰属主体としての村落住民の共同体を入会団体(いりあいだんたい)という。
 判例(最判昭和41年11月25日民集20巻9号)は、入会団体の共同所有形態を「権利能力なき社団」と同じ総有であるとしている。
 青森県と種子島の事案と覚えると覚えやすい。特に種子島の西之表市の事案は画期的だ。しかし、この事案の結論はだれでも知っている知識。
2、基本判例1
【文献種別】 判決/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 昭和41年11月25日
【事件番号】 昭和34年(オ)第650号
【事件名】 所有権移転登記手続請求上告事件
【審級関係】 第一審 27202432
青森地方裁判所八戸支部 昭和30年(ワ)第42号
昭和32年 7月29日 判決
控訴審 27202433
仙台高等裁判所 昭和32年(ネ)第395号
昭和33年12月16日 判決
【事案の概要】
 係争原野について青森県倉石村役場(被告、現五戸町) が大字名義の保存登記をした上で所有権移転登記を経由し村名義の登記としたのに対し、住民がその所有権を争った事例である。
 これについて一審・二審では住民の原告適格は争点となっていなかったが,最高裁は、「入会権は権利者である一定の部落民に総有的に帰属するものであるから、入会権の確認を求める訴えは、権利者全員が共同してのみ提起しうる固有必要的共同訴訟というべきである」として、原告適格を否定したのである。
 【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
入会権確認の訴は、入会権が共有の性質を有するかどうかを問わず、入会権者全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟である。
【裁判結果】 一部破棄自判、一部棄却
【上訴等】 確定
3、基本判例2
 【入会権確認の訴えに同調しない者を被告にして当事者全員の関与を実現する訴え】
【文献種別】 判決/最高裁判所第一小法廷(上告審)
【裁判年月日】 平成20年 7月17日
【事件番号】 平成18年(受)第1818号
【事件名】 入会権確認請求事件
【審級関係】 第一審 25420407
鹿児島地方裁判所 平成14年(ワ)第785号
平成17年 4月12日 判決
控訴審 25420064
福岡高等裁判所宮崎支部 平成17年(ネ)第119号
平成18年 6月30日 判決
【事案の概要】
 鹿児島県西之表市(にしのおもてし、種子島の北部に位置する市)の地区住民(原告)らが、同地区の一部土地について、住民の入会地であることの確認を、同土地を購入した同市内の開発会社と、地区住民の一部を被告として争い、同土地の売買契約の無効を訴えた。
 第1審、原審とも却下した。そこで原告らが上告した。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり、入会集団の一部の構成員が、当該第三者を被告として当該土地が入会地であることの確認を求めようとする場合において、訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは、上記一部の構成員は、訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え、構成員全員が訴訟当事者となる形式で、構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され、当事者適格を否定されることはない。
【裁判結果】 破棄差戻
【ポイント】
 構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから、構成員の利益が害されることはない。
以上

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