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令和2年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦

令和2年司法試験・民法・設問1・解答に挑戦
第1 設問・第1問
【時系列】
1、AとBは令和2年5月20日、A所有の甲土地と甲土地上の乙建物を売買契約①を締結。乙建物が特に優れた防音特性を備えた物件であることが合意され、代金額は6000万円。
2、契約①においてBは契約時に1000万円を支払い、引き渡しの1カ月以内に残額を支払うとともに、所有権移転登記手続を行う。
3、Aは令和2年7月25日、残代金債権5000万円をCに4500万円で売却し、Cへの債権譲渡を通知する郵便を出し、同月30日にBに到達。
4、令和2年9月25日、甲土地と乙建物の引渡し。Bが乙建物内でチェロ演奏すると、近隣住民が音漏れについて苦情。以前、Aとも同様のトラブル。
5、令和2年10月10日、Bが業者に点検させたところ、乙建物は契約①に合意された防音性能を備えていないことが判明。
6、そこで、Bは、Aに対し、防音工事に必要な費用を負担するか、同工事を手配し履行するように求めたが、Aは応答しなかった。
7、令和2年10月30日、Cは、Bに対して契約①の残代金5000万円の支払を求めた。
【解答】
第1 設問1
1、代金減額請求権の対抗
(1)Bは、AB間の契約①に基づき引き渡された目的物が契約内容に適合しないことを理由とする代金減額請求権(563条1項)をCに対抗(468条1項)できることを根拠に、不適合の程度に応じて代金減額請求することが一つの方法である。
(2)代金減額請求権の要件検討
ア、563条1項によると、まず、「前条1項本文に規定する場合」として、引き渡された目的物の種類、品質等に関して契約内容の不適合があることが必要となる。この不適合があるか否かは、当事者間の契約内容を解釈した上で引き渡された物が当事者が合意した契約内容に適合するかにより判断する。
イ、AとBは契約①において売買の目的物について特に防音性能を備えた乙建物として代金額を6000万円とすることを内容とする合意をしたが、乙建物が合意された防音性能を備えていないことが判明しているため、引き渡された目的物の品質に関して契約内容の不適合がある。
ウ、Bは、Aに、契約①で定められた防音性能を備えさせるための工事に要する費用の見積書を提示し、費用を負担するか工事を自ら手配するかを選択して履行するように求めるので、563条1項の履行の追完の催告をしている。それにもかかわらず、Aは何の応答もしないので、そのまま相当期間が経過すれば、Bは代金減額請求権を行使できる。
エ、代金減額請求権は形成権なので、権利発生のためには、Bによる権利行使の意思表示が必要になる。また、契約内容の不適合が買主の帰責事由によるときは代金減額請求をすることができないところ(563条3項)、本問では、特段、買主Bに帰責事由はない。
オ、以上より、代金減額請求権の発生要件を全て充足する。
(3)対抗の可否
ア、AからCへの契約①の残代金債権は売買により譲渡され、AからCへの譲渡通知が令和2年7月30日、Bに到達して債務者対抗要件が具備された(467条1項)。468条1項によると、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に生じた事由を譲受人に対抗できるところ、債権譲渡に関与できない債務者が債権譲渡されたことでそれ以前より不利な地位に置かれるのは不公平で妥当でない。そこで、ここでの「事由」とは、抗弁事由それ自体に限定するべきではなく、抗弁事由の発生原因が存在する場合も含むと考える。
イ、本問では債務者対抗要件が具備された令和2年7月30日の時点で、代金減額請求権の発生原因となる契約①が既に存在していたので、抗弁事由の発生原因が存在していたと言える。したがって、Bは、Cに、代金減額請求権の行使を行使できる。よって、BのCに対する主張は認められる。
2、損害賠償請求権と残代金債権の相殺
(1)Bは、AB間の契約①に基づく追完に代わる損害賠償請求権(564条、415条)を自働債権、残代金債権を受働債権とする相殺(505条1項本文)をCに対抗して(469条2項1号)、実質的に売買代金の減額をすることも別の方法として考えられる。
(2)損害賠償請求権の発生
ア、履行に代わる損害賠償も追完に代わる損害賠償請求も、本来の給付に代えて金銭給付を求める点で共通するため、追完に代わる損害賠償請求権の根拠は、履行に代わる損害賠償請求権の根拠と同様、415条1項、2項各号に求められると考える。
イ、本問では、前述の通り引き渡された物が契約①の内容に適合しないとの債務不履行があり、これと追完に代わる損害賠償請求権にかかる損害との間に因果関係が認められるので、564条、415条1項本文の要件を充足する。本問では、契約①の締結前から、Aと近隣住民との間で音漏れの苦情があったため、Aは契約締結時には乙建物が特に優れた防音性能を備えていないことを認識しえたため、Aの帰責事由を否定してAを免責することはできない。そして、Bの追完請求に対してAが応答しないため、Aは415条2条2号所定の履行拒絶の意思を明確に表示したといえる。したがって、BのAに追完に代わる損害賠償請求権が発生する。
(3)債権譲渡と相殺の対抗
ア、BはAに対する損害賠償請求権を自働債権とする相殺をCに対抗するには、469条の要件を充足する必要がある。自働債権となる追完に代わる損害賠償請求権は、追完請求が可能になる時点、すなわち、契約の内容に適合しない物の引渡し時に発生すると考えられるため、Bが乙建物の引渡しを受けた令和2年9月25日に発生している。BからCへの債権譲渡の債務者対抗要件具備は、その前の前年7月25日になされているので、自働債権は、対抗要件具備時より後に取得したものである。したがって、469条2項各号のいずれかに該当すれば、Bは、相殺をCに対抗できることになる。
 469条2項1号は、債務者が債務者対抗要件具備時より後に取得した債権でも、対抗要件具備時より前の原因に基づいて発生した債権を自働債権とする相殺を譲受人に対抗できる旨を規定する。ただ、同号所定の前の原因に基づいて発生した債権といえるには、自働債権の主たる発生原因が対抗要件具備に存在しているだけでは足りず、債務者の相殺に対する期待を保護すべき利益状況として、自働債権と受働債権との間に関連性が認められることが必要であると考える。
イ、本問においては、令和2年7月30日の債務者対抗要件具備の時点で、自働債権たる追完に代わる損害賠償発生請求権の発生の基礎となる契約①が既に存在していたので、この損害賠償請求権は、前の原因に基づいて発生した債権といえる。この債権と受働債権となる残代金債権は、ともに契約①という同一の契約から発生したものなので、前記関連性も認められる。したがって、469条2項1号の要件を充足する。したがって、BのCに対するの主張が認められる。
(設問2に続く)

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