温かさがもたらす幸福感
寒い風呂
以前住んでいた賃貸物件のお風呂は、1977年にマンションが出来て以来、そのままじゃないかと思うぐらい古かった。ヒビの入ったタイル、何故か焦げ跡が3か所ほどついているバスタブなど、全体的に使用感満載で、ちょっと落ち着かなかった。
お風呂に入る時は、混合栓から出るお湯を入れるだけで、そのお湯を作る電気温水器は溜めておくだけの給油専用タイプだった。お湯はりは、タイマーで時間をはかり管理した。タイマーをかけ忘れ、お湯をあふれさせたことは何度もある。それ以上に問題だったのは、追い炊き機能が無かったことだ。
古いためか、寒い冬には浴槽そのものが冷たく、お湯はあっという間にぬるま湯になる。ホテルのお風呂もシステム的には同じだが、あんなに早く冷めたりはしない。1日1回、貯湯タンクにお湯が溜められるが、これも古さ故に容量は小さく、限られた範囲内でお風呂も洗い物も掃除も賄わなければならない。冷えたからとお湯をどんどんお風呂に足すことは出来なかった。
なんとかお風呂の温かさを保つ方法はないかと、あれこれ試してみたが、どれも効果はない。湯沸かしヒーターも考えてみたが、帰宅した夫が冷えたお風呂を温め直すには時間がかかりすぎる。入浴剤を使うので故障しないかどうかも心配だった。
結果、冬のお風呂は寒いものだと思うようになっていった。
黒カビとの戦い
お風呂は全面タイル張りだった。腰高ぐらいまでは1cm幅、それ以上は10cm幅のタイルに覆われていた。家全体の湿度が高く、お風呂の換気扇はトイレと共用で非常に弱かった。そのため、お風呂上りにタオルで壁や天井の水分をふき取り24時間換気していても、あっという間に黒カビがはびこった。
黒カビ退治のためにと塩素系漂白剤を使ってみたが、換気能力が低いため、息苦しく吐き気さえしてくる。ひどい時はめまいのために、小1時間、倒れるほどだった。
カビ取りで死んではつまらないと思い、塩素系漂白剤を避けたが、通常のお風呂洗剤では全然黒カビは無くならない。たまりかねて「くらしのマーケット」で、2度ほどお風呂掃除をお願いしたが、どちらの業者も「このカビは取り切れません」とサジを投げた。プロがダメなら私にはどうしようもない。
退去の時、少しでもキレイに見せようと白い補修ペンで目地を埋めた。色の薄い部分は数回塗り重ねることで白くなったが、濃い部分はどう頑張っても灰色にしかならなかった。ふと、入居した時に、この目地の不自然な灰色を見たことを思い出した。以前の入居者もきっと同じ作業をしたのだろう。
それが分かった時、この目地の黒カビは、もう何十年も積み重なった結果なのだなと分かった。まだまだ塗りつぶせそうな黒カビはあったが、もうこれで十分だと見切りをつけた。
退去の立ち会いでは、お風呂のカビは問題視されなかった。業者的には、よくある状態だったのかもしれない。
戻ってきた温かい生活
今のマンションは以前のマンションより13年新しい。入居した部屋はリフォームしたばかりなので、インテリアは新築に近い状態だ。お風呂も新しいユニットバスである。キッチンの壁にある「自動ふろ」ボタンのついたパネル。それは風呂に悩まされる前に住んでいた分譲マンションにあったのと、同様のパネルだった。
引っ越し初日、「ふろ自動」を押してお風呂を入れた。お湯はりが出来た合図の音楽と共に「お風呂が出来ました」の音声が流れる。ああ、以前はそうだったと記憶が蘇る。バスタブに疲れた体を浸した。温かい。カビのないつるつるした壁や天井が美しく輝いている。少し時間が経つと、足元から温かいお湯が噴き出してきた。しみじみと「幸せだな」と思った。
引っ越し前の記事「引っ越しは、ある日突然、やってくる」で、「水回りが古いことに少しストレスは感じる」と書いたが、この家に暮らし始めてわかった。「少し」じゃなくて「かなり」のストレスだったんだ。じゃなかったら、お風呂ひとつでこんなに長々とした記事は書けない。
思えば私の人生の中で、以前の家だけが追い炊き機能のない風呂だった。緑に囲まれた庭つき物件というのも以前の家のみだったし、あの家で過ごした6年間は自分にとってちょっと特殊な時間だったなと、今は思う。
トップイメージは、久しぶりのMidjourney作画。引っ越しですっかり遠ざかっていたら、使い方もすっかり忘れていた。新生活がスタートして2か月。Midjourneyも含め、もろもろいろいろリスタートだ。
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