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2022年秋・彼岸花とチャ太郎と

なかなか暑さがおさまらない日々が続いているが、それでも季節は確実に秋に向かっており、太陽の光は少しずつオレンジみを帯び、彼岸花の赤を引き立てている。その道端に咲く真っ赤な彼岸花は、私に昨秋のチャ太郎を思い出させる。

チャ太郎はトイレの手間がかからなかった子で、しつけた記憶は全くない。そんなチャ太郎に、2022年9月23日金曜日の休日、異変が起きた。その日、夫とふたり外出から戻り、リビングの扉を開けた時、夫が床の水たまりを見つけ、「あ、おしっこ」と一言言った。あまりに意外なことだったので、チャ太郎のものだと自覚するまで、しばらく時間がかかった。

チャ太郎の姿が見えないので名前を呼んだが、全く何の気配もない。家の戸や窓はすべて閉まっているから、外に出るはずもない。少し混乱しながらあちこち探したところ、それまで入ったこともない夫のベッド脇にあったダンボール箱に頭をつっこみ、無表情・無言で縁にお腹をのせ、だらりとぶら下がっているチャ太郎を発見した。その中に入るのに、弱った足腰では蹴り上げる力が足りなかったのだろう。いつからその状態だったのかと思うと胸が痛む。声をかけても引き上げても一言もにゃあと言うことはなく、何の感情も示さない表情が少し気になった。

翌9月24日土曜日も、夫婦で「国際芸術祭あいち2022」を見るため、常滑に出かけた。会期は10月10日までだったので、その日を逃すと見られない可能性があった。その朝のチャ太郎は、トイレも普通で表情もいつもと同じだったと記憶している。

常滑市は焼き物の街として知られており、巨大招き猫「とこにゃん」や映画の撮影地としてよく出てくる「土管坂」など、焼き物を取り入れたフォトジェニックな場所が沢山ある。

常滑の街並み

この日は強い日差しが注ぐとても暑い日だったが、汗だくになりながらも常滑らしい情緒ある風景や個性的な芸術祭の作品を楽しんだ。歩き回る中で、ふと、かわいらしいお地蔵さんの傍らに咲く、真っ赤な彼岸花が目に入った。何とかキレイに写し取ろうと数枚撮影してみたものの、今ひとつ満足するものが撮れず、諦めて次の会場へと移動した。

お地蔵さんと彼岸花

朝から日が暮れるまで常滑を堪能し、自宅に戻った頃にはすっかり真っ暗になっていた。チャ太郎は大丈夫かなとリビングの扉を開けたところ、昨晩とほぼ同じ場所に水たまりが出来ていた。前日失敗した場所にペットシーツを何枚か敷き、簡易トイレを準備して出かけたのだが、どうやらトイレがわからなかったようだ。今まで全く排泄に問題がなかったのに、認知機能の衰えてしまったチャ太郎のことを、ただただ悲しく感じた。

翌9月25日の日曜日もチャ太郎はベッドの近くで排尿してしまったので、彼が失敗しても大丈夫な環境を作ることにした。フローリング6帖間の半分をダンボールで仕切り、ペットシーツを敷き詰め、トイレとご飯とお水をセットし、いつでもどこでもチャ太郎を観察できるように、監視カメラ2台を向かい合わせに設置した。

この日から、その後5か月余りに渡る本格的なネコ介護生活が始まった。このネコ介護生活の始まりは、何故か私の中で、あのお地蔵さんと真っ赤な彼岸花とリンクした。だから、今は彼岸花を見ると、感情のない無機質な瞳のチャ太郎を思い出して、少し切なくなる。

そして、私はその生活を通して、私のチャ太郎への愛情の深さを知ることになる。

常滑のとある歩道。夫と私とチャ太郎のよう。

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