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クリトリック・リスが時代の最先端のアーティストである理由

クリトリック・リスというアーティストをご存知でしょうか。一応プロフィールを紹介するとスギムさんという男性によるソロ・プロジェクト(コーネリアスみたいなものですね)彼は1969年大阪生まれの今年51歳(ライムスターの宇多丸さんと同じですね)楽器演奏、音楽活動の経験は一切ないまま36歳の時にバンドを結成するのですが初ライブの当日メンバーが会場に現れず、やけくそでパンツ一丁でパフォーマンスをしたところ、それが受けてしまい音楽活動を開始。広告代理店の正社員のサラリーマンとしても生活していたのですが音楽活動を優先するため2012年に退社。2015年、46歳でデビュー・アルバム「あなたのあな」をリリース。演技経験もないのに2017年に主演映画「光と禿」(共演はなんと演技派の岸井ゆきの!)が公開されました。2019年4月20日には50歳を記念して日比谷野外音楽堂で文字通りのワンマンライブを開催し成功させました。2020年12月に4thアルバム「ROAD TO GUY」をリリース。コロナ禍の中でも精力的にライブ活動を続けています。

音楽的には初期はシンプルなリズムに語りのようにストリー性のある歌詞を乗せるというものでしたが最近はメロディーや構成のあるものも増えて来ました。歌詞はバンドマンがひもの女子、妻に浮気された夫捨てられたぬいぐるみ、後輩に差をつけられたサラリーマンドルオタの悲哀どれも基本的には夢を追いかけて破れさった者負け犬たちへの非情な現実のレクイエムを愛情とユーモアで表現します(関西弁なのもシリアス差が緩和されますね)。一度聞いたら覚えてしまうキャッチーでライブでシンガロングしたくなるサビのメロディーも魅力的です。

ライブではパンツ一丁で股間のカスタムしたテルミンをこすりながら全力で汗まみれで歌います。自虐多めの絶妙なトークと客いじりは芸人顔負け。笑わせて、最後は泣かせるライブは最高です。見た人でファンにならなかった人はまずいません。

動画を見ると、どんな気が狂った人かと思いますが大阪芸大出身、36歳まで在阪の広告代理店勤務で管理職も務め、妻帯者、マンションは完済しているという極めて常識人。音楽的にはサイケデリック・ロックが好きで96年初来日したフレイミング・リップスのツアーを追いかけてベースのマイケル・アイバンスとも仲良くなったそうです(ちなみに僕もナンバーガールのレコーディングでアシスタント・エンジニアを務めてくれたので仲良くなりました)音楽にもすごく詳しいミュージック・ラバーです。飲んで話すと色んなエピソードが多い人でめっちゃ楽しいです。

僕は2013年頃、初めてライブを見て、衝撃を受け「業界で彼をやるのは他にはいない、自分がやらなければ誰がやる」といった、キャシャーン魂で彼にアプローチをしました。そして2015年のデビュー・アルバム、2016年のセカンド・アルバムのディレクターを担当しました。

まず彼のすごい所は前述しましたが36歳で音楽活動を始めた事です。普通のミュージシャンは10代中頃にバンドをはじめ(幼少時に音楽教育を受けている場合も多いです)才能と運があれば20代中頃にデビューするというのが普通のパターンですが、彼のスタートは一般的には20年以上も遅いです。そして43歳で音楽だけで食べて行こうと脱サラ。46歳でデビュー・アルバムをリリース。50歳で日比谷野音でワンマンライブを成功させたという事です。ここまで遅咲きのミュージシャンは世界的にもいないと思います。

そのユニークな音楽性と魅力的なキャラクターには多くの業界人が存在します。かって地上波でファンであるカンニング竹山さんが20分近くの枠を取り紹介しました(名前は出せませんでしたが)他にも眉村ちあきさん、KIng Gnuの井口理さん等がファンを公言しています。

昨年から茨城放送でラジオ・レギュラーが開始、先月、関西地区のみですがなんとNHKでのドキュメンタリーがオンエアー、家具会社のテレビCMでの音楽とナレーションを担当しする事が発表されました。

そんなにすごくないじゃないかとも思われるかもしれないですが、このユニット名、中年の禿げのおっさんがパンツ一丁で股間のテルミンをこすりながら下ネタ満載の下手な歌を絶叫するという字面だけで見たらどう考えてもキワモノ極まりないアーティストを上長や組織にプレゼンして企画を通すような事は、よほどの愛情と熱意がなければ普通やりません。

CMプランナー、映像クリエイターで映画監督も務める長久允さんという方がいるのですが彼はクリトリック・リスのファンで映画に役者としても起用しています。彼がディレクターを務めるのであればミュージック・ビデオの全額制作費を出しましょうという会社が現れ驚いた事もあります。

話しは少し外れますが、音楽の進化というのは技術はなくてもセンスさえあれば誰でもできるというベクトルで進化していると思います。クラシック、ジャズはかなりの技術の鍛錬が必要でしたがロックン・ロールはコードいくつかを覚えればなんとかなります、70年代ロックもテクニック志向になりましたがパンクで原点回帰しました。さらにヒップホップの登場で楽器の演奏も必要なくなりました。ボカロを使えば歌う必要もなく、最近のDTMは鍵盤演奏の技術も必要なくなり、AIにイメージさえ伝えれば曲も出来てきます。

同様にライブ演奏も人数が減る方向に進化しています。クラッシックはフルオーケストラなら100人近く、ジャズのビックバンドは15〜20名、ロック・バンドは最低でも3名。ヒップホップはDJひとりで演奏可能です。クリトリック・リスがDJすら要りません。

そういう意味で音楽制作、ライブ・パフィーマンスどちらにおいてもクリトリック・リスは音楽の最先端にいると思います。

芸能界に根強くあるルッキズム、エージズムからも無縁である事も素晴らしいと思います。

僕はアルバムを2枚作って仕事として関わるのは辞めてしまいました。なぜなら歌詞の表現として悪意はないとはいえのコンプライアンス的に問題があるものや、著作権的に限りなくグレーな物が多すぎて、そこにNGを出したら彼の音楽が全然面白く無くなってしまうと思ったからです。

後はボーカルのレコーディングで良いテイクがもっと欲しいんですが、すぐもういいですよと言ってやめてしまうんですよね。オートチューンで直すのも嫌がるし。スカム魂も分かるんですが、そもそも歌が上手くないのだから。そこは最先端の技術を使って欲しいんですけどね。そこだけは最先端では無かったですね。







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