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寺嶋由芙「サバイバル・レディー」について

寺嶋由芙ちゃんのサード・アルバム「サバイバル・レディー」がリリースされました。

彼女のアルバム3枚ほぼプロデュースさせていただきました。僕のプロデューサーとしての役割は楽曲のコンセプトを考え、スタッフをキャスティングし、それに沿った楽曲を発注し出来上がった物に修正をリクエスト、スタジオでの作業をディレクションし、ミックスを確認して楽曲を完成させます。

このアルバムは2018年10月リリースの「君にトロピタイナ」から2020年12月リリースの「みんな迷子」までの5枚のシングルにアルバム用に作成された4曲を加えた全13曲を収録しています。プロデュースは僕名義になっていますが、別の仕事が忙しいためアイディアを出したり、スタッフを紹介したりするだけで、それほど制作に関わらなかった曲もあるので厳密に言えばそのうちの9曲をプロデュースさせてもらいました。

その時のエピソード、制作意図などを解説してみたいと思います。

「サバイバル・レディー」は怒髪天の上原子友康さんの曲です。上原子さんには以前「夏'n ON-DO」という曲を提供していただいたので2度目のお願いです。彼の作風の昭和感みたいなものが出ればと思いました。アレンジは元相対性理論の真部脩一君。彼には以前に「101回目のファーストキス」という楽曲を提供してもらったので2回目の参加ですがアレンジは初めてです。彼の持つ、ちょっとストレンジなポップ感が合うかもと思いました。彼からの方向性の提案は「タツノコ・プロ感のある感じで行きたいです」との事、さすがです。80年代、なんでも良いから新しい機材を導入しちゃいましたみたいなアレンジになってます。ベースがCHICのバーナード・エドワーズばりのバウンスする感じもカッコ良いです。歌詞は由芙ちゃんの大学時代の恩師でもあるトミヤマユキコさん。ダメ元でオファーしたのですが「作詞やりたい仕事の一つだ」と言っていただきました。彼女を良く知っていただいているので由芙ちゃんのキャラクターが歌詞にうまく反映されています。思ったのですが自分の事を歌う歌詞って自分で書くのは、かなり恥ずかしいですよね。人に書いてもらった自分のイメージを歌うというのはアイドル・ソングならではと思います。

「冬みたい、夏なのに」はにゃんぞぬデシの詞曲、僕は彼女が15歳の時からの付き合いで、まだ彼女が高校生の時にたまたま居た由芙ちゃんを紹介したらびっくりして部屋のすみに吹っ飛んで行ったのを覚えています。にゃんぞぬが黒髪ロングなので由芙ちゃんへの憧れからなんです。夏曲をテーマで書いてとお願いしたらなんと4曲も僅かの時間で書いて来てくれました。サビの「寒くって、寒くって」と繰り返して欲しいと直してもらったのですが、それでキャッチーさが増しました。アレンジはハロプロの作品も多く手がけ、フィロソフィーのダンスのライブのサポートでもお世話になってる朝井泰生さん。デモを聞いてもらった所、「バネッサ・パラディーとトーレ・ヨハンセンな感じで行きましょう」との事。後半のギター・ソロやらキメも聞きどころ。イントロ前のレコードのトレース・ノイズ、生のストリングスもビンテージ感を増してます。歌入れにはにゃんぞぬも来てもらったのですが憧れの人に自分の楽曲を歌ってもらう感動で悶絶してました。

「君にトロピタイナ」はフィロソフィーのダンスのリキッド・ルームでのワンマンライブの後の打ち上げで偶然、西寺豪太さんと久しぶりに再会(なんで、いつあったかは昔すぎて記憶にないんですが)「そうだ郷太さんと仕事したい」と思ってオーダーしました。お気づきかとは思いますがシーラーEの「グラマラス・ライフ」が元ネタですね。由芙ちゃんにライブでティンバレスを叩いたら面白いと思ったのですが具体化せず残念でした。

「ラスト・シンデレラ」軽くラップのテイストもあるシティ・ポップな作品が作れないかとディレクターに相談され、「80デニールの恋」「背中のキッス」を提供してもらったkiki vivi lilyちゃんにお願いしました。ケンカイヨシ君のサウダージ感のあるアレンジもご機嫌です。ギターも超かっこいいです。浮遊感の強いメロディーなので歌入れはかなり悩みつつだったのを覚えています。高橋芳朗さんに「ジェーン・スーの生活は踊る」の中でぜひ選曲して欲しいです。

「みんな迷子」は古い知り合いから山川恵津子さんを紹介してもらいました。彼女は1986年小泉今日子の「100%男女交際」でレコード大賞の編曲賞を受賞するなど大ベテランなんですがベテラン過ぎて若手からは仕事の依頼がなく、「条件はうるさく言わないから、若手と仕事がしたい」という事で、これ幸いとお願いしました。詞先でやりたかったので、山川さん「誰がいいですか?」と聞いたら大御所の名前がいくつも出て来てびっくりだったんですが、個人的にもお仕事したかった松井五郎さんにお願いしました(松井さんに初めてお会いした時にベルベット・アンダーグラウンドのパーカーを着ていたのですが「自己主張強いね」と言われました)テーマは映画「マイ・ライフ・ストーリー 私の若草物語」を観て書いて欲しいとオーダしたのですが、2つも書いていただきました。どちらも捨てがたかったのですが、由芙ちゃんが歌っている姿がイメージしやすいこちらを選びました。曲のリファレンスをいくつか送ったのですが山川さんから「もう書き始めた」と返信があってどうしようかと思ったのですが、切なくてラグジュアリーな名曲になったと思いますサビの「決めてお〜く事」のおを伸ばす所のメロディーとコードがツイストする感じがたまらないです。7inchレコードで聴くと味わいはさらにますので品切れになる前にぜひお買い上げよろしくお願いします。

「彼氏ができたの」はハナエちゃんの作詞。彼女が14歳の時に僕にデモを送ってくれたのですが、びっくりしてすぐ福岡まで会いに行きました。歌詞提供したいと相談されたいて作詞の才能は当時から感じていたのでお願いしました。これもオタクが病む系の歌詞ですね。詞先のコンペで曲は集めたのですが藤田卓也さんは同じ歌詞で2曲違うメロディーを作ってくれました。もう1曲も捨てがたかったのですが、きっとどこかで誰かに歌われてる事でしょう。ちなみに彼は大江千里が大好きだそうで、同じく彼の作曲「恋の大三角関係」合わせて聞くと良くわかります。

「いい女をよろしく」は僕の部署は新人の作家を発掘、育成する部署でもあるので会社のスタッフが面白い作家がいると聴かせてくれた曲がハロプロ感があり、これは由芙ちゃんにぴったりだと思い使わせてくれないかと頼みました。歌詞もつんくさんが憑依したような児玉さんの歌詞も最高です。一度アレンジが出来てきたのですが、もう少しバカっぽくして欲しいとリクエストしました。合いの手で入る外人の声はフィロソフィーのダンスのリキッドルームとステラボールのワンマンでMCを勤めてくれたデビッドです。

「仮縫いのドレス」は作曲に元椿屋四重奏の中田裕二さんを作曲をお願いしました。実はアマチュア時代に椿屋四重奏のデモを聞いて電話で連絡した事があるんです。バンド時代はポスト・イエロー・モンキー的なイメージでしたが実はASKA ,玉置浩二を敬愛するというJ-POPのある種王道のシンガーソングライターでもあるんです。たまたまそんな話を耳にはさみレーベルも同じテイチクなのでオファーした所、快諾していただきました。今回も詞先なのですが松井さんにサウンドの方向性と、哀愁はあるけれど前向きさを感じるものとリクエストしました。サウンドはカーペンターズに代表されるA&Mサウンドをやろうと思いました。山川さんは岩崎宏美、良美姉妹との仕事でも知られていると思うので、その流れを継いだ作品になっていると思います。サビの「じゃない〜」のコードとメロディの関係性がたまらないです。

音楽的はかなバラバラなアルバムなんですが由芙ちゃんの声が入れば寺嶋由芙のアルバムになるというのが素晴らしいと思います。

ご一聴、ご購入ただければ幸いです




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