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石田健大は強い男だ―2021年9月19日イースタン観戦記―

 もう9月も中旬、巷には月見と題したお菓子やらハンバーガーが並ぶ頃だが、台風一過の平塚はまだ夏だった。セミの鳴き声をBGMに、酷暑が容赦なく首筋を照り付けてくる。
 スコアは、9-0だった。まだ2回表で、アウトの赤いランプは1つしか灯っていない。目の前の試合は始まってまだ30分足らず。だが、大勢は既に決したも同然だった。

 ベイスターズ先発・有吉優樹の球は明らかに走っていない。ストレートは140キロ台前半、120~130キロ台の変化球も曲がりが緩く、何を投げても日本ハム打撃陣にパッカンパッカン打ち返される。
 試合前のフリー打撃ではミスショットが目立っていた清宮幸太郎までも気持ちよさげにバットを振り抜き、2回表の時点で既に2安打を放っているのが象徴的だ。
 たった7球で先制を許すと、あれよあれよという間に二桁安打、渡邉諒の2ランがとどめの一撃となり、有吉は1回1/3、11被安打9失点KOとなった。

投手交代 有吉

 日ハム先発・生田目翼が150キロ前後のストレートを繰り出し、フレッシュさが目立つベイスターズ打撃陣をきりきり舞いにしていることを考えれば、9点ビハインドはあまりに大きい。

 勝ち負けにこだわる必要がない2軍戦とはいえ、良いところが全く見えてこない展開は、ファンの心身にもじわじわダメージを与えてくる。

 ムードが変わったのは、4回表だった。

 後ろに座るファンが、「え?石田?」と呟く。夏日に照らされるマウンドに立ったのは、背番号14、石田健大だった。

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 生観戦に限らずとも、石田を見るのは久し振りだ。開幕をセットアッパーとして迎え、イマイチ調子が上がらず、再調整をしながら徐々に状態を上げた中でペナントレースは五輪中断期間を迎えた。

 勝ち試合でも、ビハインドでも、ロングリリーフでも毎日のように投げていた石田を見なくなったのは、その辺りからだ。
 先発の枚数不足に悩まされたチームは、石田に先発再転向を打診したのだ。
 元々先発として活躍していた石田は、中継ぎを任されるようになってからも、度々先発への思いを口にし、慢性的な投手不足にあえぐチームも事あるごとに石田を配置転換した。

 今回も、そうなのだろう。先発再転向のニュースが流れた際、率直に感じた。現に、前半戦の先発陣はお世辞にも調子が良いとは言えず、相変わらず層の薄さは明らかで、先発再転向にはもう違和感さえ覚えなかった。

 そして、予定通りに石田は2軍で先発として調整を続けた。大きなニュースにはならなくとも、SNSを通じて順調そうな様子は伝わってくる。本人が望む、踏み荒らされていないハマスタのマウンドに現れる日は近いのだろう。

 だが、石田はいつまで経っても1軍に姿を現さない。大貫が調子を取り戻し、ロメロや京山も好投を見せるなど、後半戦に入ってから先発の枚数が揃い始め、当初とは状況が変わった。
 結局、あの話は何だったのか。そう思う中で、今目の前に石田が出て来ている。

 心なしか、一段と拍手の量が多い。石田が長くチームに貢献し、ここでの好結果と1軍復帰を願うファンの願いが込められているのかもしれない。

 迎えるバッターは、4番・清宮、5番・大田、6番・渡邉。1軍にいてもおかしくないはずのメンバーが相手だ。
 2安打を打っている清宮にはカウントを悪くするも、フルカウントまで持ち直して最後は148キロまっすぐで空振り三振。大田は136キロの変化球で今度は見逃し三振。直球破壊王子・渡邉からは2-2から145キロストレートで空振りの三振を奪う。
 開幕投手、ロングリリーフ、セットアッパー、言われたことは何でもやってきた男の凄みを見せつける三振ショーだった。

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 今のベイスターズで、最もチームに翻弄されているのは石田なのかもしれない。度々中継ぎになるのは先発として信用を勝ち取りきれなかった過去の産物でもあるが、見方を変えればポテンシャルの高さゆえのチームの甘えとも言える。
 先発をやりたい。その本音を漏らしつつ、頼まれた役回りをこなし、文句の一つも言わない。石田は、強い男だと思う。

 5回も2奪三振を含む三者凡退、6回はヒットを許しても牽制アウトなどもあり、2安打を浴びながら2塁は踏ませない完璧な投球を見せた。

 この日、石田の球を受けていたのは高城だった。彼もまた、ルーキーの頃に期待を込めて起用されながらいつしか正捕手争いに敗れ、トレード先で戦力外を経験し、今平塚にいる。翻弄され具合で言えば、石田に匹敵する。
2016年頃はまだよく見た石田―高城のバッテリー。それが今は平塚で見られている。

 波を超えた人間は強い。石田がチームを救う日はきっと遠くない。大敗の中で石田が刻んだ3つの0は、そう予感させるには十分だった。

【追記】2021年9月21日3:00、スポニチにてヤクルト3連戦で石田が先発する予定と報じられました(https://news.yahoo.co.jp/articles/4725bb55ac2dab361a52c176429dcf77dfa80333 )

19日の観戦時点では、登板のタイミング、起用法的に1軍での先発は難しいのかな……と思いながら原稿を書いていたので、頑張ってほしい限りです。

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