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パンプスをやめたい≠スニーカー履きたい

ていうか、男性だってオペラパンプスっていう最上級フォーマル靴があるのに大抵の場面で内羽根ストレートチップの黒履いてればフォーマルとして合格なんだから、女性だって同じでは?

私はパンプスという履き物と絶望的に仲の悪い足をしている。中学に上がる頃には既に外反母趾と巻き爪で(ヒール靴とかおしゃれ靴とかに縁がなかったにもかかわらず)、そのせいで爪先の絞まる靴は痛くて履けなくなっていた。加えて、成長してスーツを着なければならなくなってパンプスという形の靴を履いてみたら、びっくりするほど踵が抜けることもわかった。
何かの対策になればと思ってストラップをつけてみても、ストッキングのせいもあり結局踵は不安定なままで、靴の中で踵が横方向に滑ってその勢いで捻挫しかねない転け方ばかりする。しかもそれは30分と履いていれば必ず起こる確定演出のようなものだったので、私にとってパンプスはとても危険な靴だった。私はヒールで長時間過ごしたら疲れるとか足を痛めるとかそういう問題のもっと手前で、パンプスという靴に躓いた。その靴はスーツ屋の店員にフィッティングしてもらって買ったもののはずだったのに。

スーツ屋は靴屋じゃないので靴のプロではないけれど、でもああいうタイプの靴を最初に導く人だと思っているのでそういう人が助言した上で無理なら無理ですねということだと私は受け取ったし、この靴に対して金と時間と興味を傾ける情熱がないのでこの嫌な思いを超えてなおパンプスを履きたいとは思えなかったのでご了承ください

そんな経緯があるので、私は「なぜ女性だけがパンプスを強制されなければならんのだ」と声を上げる人たちのことを応援しているのだけれど、こういう意見を言う人のもとにはほぼ必ず、とある意見が寄せられる。
それが『男性だって革靴を履きたくて履いてるんじゃないのに、女性だけパンプスをやめてスニーカーを履かせろだなんて、わがままでしかない』という意見だ。

どうして「パンプスをやめたい」が自動で「スニーカーを履きたい」へ変換されるのかといえば社会に蔓延る文脈のせいなのだが、しかし「スニーカー履かせろ」と思っているなら最初からスニーカーを履かせろ、と言うだけであって、パンプスの強制から逃れたいという意見は、イコールカジュアルダウンしたいという意見にはならない。まあ同じことを言っている人全員が全員そうではないかもしれないが、少なくとも私の思う「パンプスを強制するな」はそれで、「男性の靴が内羽根ストレートチップの革靴で良い場面なら女性だって内羽根ストレートチップの革靴を履かせろ」であり「パンプス以外のフォーマルの選択肢をくれ」という意味だ。だって男性にはオペラパンプスと革靴っていう選択肢があるのに、どうして女性はパンプス一択なんだろうか。

オペラパンプスは室内限定の履物だということについてはこの記事においては一旦無視します

私は「パンプスを履かなくていいなら」という動機で礼装の着物を覚えて着れるようにしたし、草履は喜んで履く。けれど、たまにしか着物を着ない人からすれば草履の鼻緒は痛いし、着物は重くて足捌きの利便性に欠けて歩きにくいものなので、例えば礼装の着物をフルセットで着て電車移動しました、と人に話せば「それで電車乗ってきたの、しんどくない??」と心配される(実話)し、宴もたけなわの時間に差し掛かってくると「着物ってずっと着てたら苦しくならないの?」と聞かれる(実話)。その両方に「いや、全然平気だけど?」と返すと、なんだかものすごく驚いた顔をされる。
ろくに防寒もできない、汗も吸わずに湿度調整が下手くそな化繊の薄いストッキングにパンプスを履く苦痛に比べたら綿の足袋と草履なんてめちゃくちゃ楽で快適だし、着物は洋装より重い衣類とは言え、全身でその重さを分散負担しているので、実際の着物の総重量ほど自分に負荷がかかっている感覚はない。私からすれば、パンプスにストッキングにドレスの方がよっぽど拷問じみた衣装で、重心も安定していて繊維の機能性にも優れていて走れる(足捌きに慣れれば小走りで階段も余裕で行けますよ、あれ)着物は最高だなと思っている。

けれど、現代日本は全部和装で押し通せるかと言ったらそれはそれで微妙なところがあり、例えば弔事の場面で和装しようと思うと、その場の人に深い和装知識がなければちょっと面倒なことにはなるかな、と想定できてしまうなんやかやがある。スーツを着る場面で着物を着るのも同じで、どれだけ考えて礼儀を尽くしていても、合わない場には合わないわけだ。あと令和の夏は冗談抜きに死ぬ可能性がある。絽や紗の薄物も、見た目が涼しそうなだけで実際に涼しいわけではないので。

だから私はそういう時用に本革の黒い革靴も持っているのだが、革靴だってパンプスに比べれば十分歩きやすくて安定する靴なので、むしろ喜んで履いている(遊びに行くのでも積極的に履く)。スニーカーが履きたいんじゃない、ただパンプスが履きたくないだけなのだ。

どうにも、世の中的に女性が履く革靴には「私的なお洒落」以上の文脈を与えられていないことが多い。革靴のマナーについての文言を検索欄に入れれば男性に向けたサイトばかりがヒットするし、その文言に女性の意味を加えると、途端に検索結果が私服のお洒落指南のようなカジュアルなものだらけになる。革靴買うぞと決意した足長23.5の私が外羽根式の靴しか見つけられなかったのもカジュアル寄りの結果とも言えるし、革靴でスーツを着たい、もしくは式典に出たいという女性の居場所は世間にはないのだなと突きつけられるものだった。式典の類は何がなんでもパンプスが第一優先で、ヒールを履けない事情がある人はフラットなパンプスを履きましょう、で終わる文言ばかり。パンプスから外れたものは全てアウトだと言わんばかりの文脈がそこかしこに踊っている。

上記の通り私が持っている革靴は外羽根なので、厳密にはフォーマル場面に褒められる靴ではないのですが、今のところ、履き物に何かを言われる際には「女性でパンプスじゃない靴を履くこと」に対しての苦情が主というかそれしかなく、羽根の違いで咎められたことはないです

正直、分からんでもない部分もある。女性がフォーマルやオケージョンに用いる衣装の類を通販サイトや画像検索などで雑多に眺めてみると、そもそもが足の甲から脛あたりを見せる、パンプスにストッキングを履く前提でデザインされているものだらけであり、鶏が先か卵が先か論よろしくなるが「この服にそのまま靴下と革靴合わせるのは難しいな〜」とならざるを得ない。そのため、格式を求められる場所で女性が革靴と靴下の装備でどうにかするには、難易度高めの「女性サイズで内羽根の革靴を見つけてくる」に加えて「革靴に合うフォーマルなドレスコードの服をなんとかして調達する」というミッションが付随する。既製品やモデルケースに乏しい分野で、たまにしか使わない靴と服を一式揃えろという話になってくると、よっぽど衣服というものに対して情熱を傾けられないと、なかなか腰が上がらない人も多いだろう。不便でムカついても、数時間のことだから我慢した方がなんだかんだコスパもタイパも良いはずだ。

ただ、内羽根の革靴はオックスフォード大学での正装シューズが由来にあり、その靴こそが黒の内羽根ストレートチップだからフォーマルにふさわしい靴だということになっている。だったら、同じ靴を女性が履いたらカジュアルだと判定するのは、靴に失礼なのではないか。由緒ある靴のその由緒は、中身の性別が違うだけで消えてなくなるような薄っぺらい由緒ではないことを、オペラパンプスから派生したパンプスという履き物が証明しているのだから。

なので、女性にも革靴履かせてください。

おまけ:最近、女性サイズ展開の内羽根な黒い革靴をasicsさんでようやく見つけて、「やったー!」って思ってたら追加在庫をもう持たなさげだったし公式ECサイトの区分けではレディースカジュアルに入ってて(´・ω・`)こんな顔になった。

でも、後継ラインっぽいこちらはヒール高さの問題なのかパンプスと同列カテゴリで、かつ外羽根なので「お前外羽根やないかーい!」と叫んだ(外羽根は外で作業をする人のワークブーツを由来に持つために革靴界ではカジュアル寄りになるとかなんとか)。

もう何がなんだかわかんねえな!!

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