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ANGRA"Cycle of pain"全曲感想

ファビオとブルーノが「成立した」アルバム

持論を申し上げますと、このバンドのドラムがアキレス・プリースターでなくブルーノ・ヴァルヴェルデに変わったことで、このバンドにメタル的な疾走を求めるのは完全なお門違いになった、と考えています。加えて、ファビオ・リオーネ。ぶっちゃけライヴでもうアンドレ・マトスエドゥ・ファラスキ期の歌歌って欲しくない。あれらを歌いこなすのにファビオの声は低すぎる。そうした「これまでのANGRAとしての強み」を活かしきれなくなったラファエル・ビッテンコートが、きっちり現行メンバーの実力をフルに発揮できる作品を作り上げた。それがこのアルバムだ、と感じています。そのシナジーは omni より上。 omni もすごかったけど、こっちはもっとすごい。二、三日ヘビロテした上での、全曲感想です。

1、2
Cyclus Doloris~Ride Into the Storm

https://youtu.be/64YSuGo_QKQ

ファビオにフルスロットルで歌ってもらうための歌、という印象です。リフもおとなし目ですし。コーラスがむしろ中音域なのがいいですね。ギターソロに入ってくる変速パートの訳わかんなさとか最高。クールダウンからのブリッジ→コーラスの爆発のさせっぷりは基本通りですが、だからこそそれがいい。だってこの曲はファビオがのびのびと歌う曲だもの。ズンガドンガ刻むシンプルなリフは、またフェリーペ・アンドレオーリを美味しくいただけるパートとも呼べますね。


3
Dead Man on Display


重く始まり、本編に入ってみればなんだかんだで一曲めより速い。この曲のブリッジにおけるリフの展開がめっちゃ美味。キコ・ルーレイロという天性のリードギタリストに頼れないことが、却ってリフの心地よさに重みを載せてくれている気がします。マルセロ・バルボーサってキコ時代のリードバリバリに弾けるのに、omni 時代のライブとか見てるとだいたいリズムギターなんよね。この意味で、ほんにいい意味でフェリーペとマルセロがラファエルの両輪になってくれてるんだろうなあ。ブルーノは最高速や出力こそアキレスに及ばないけど、そのなめらかなシフトチェンジぶりではまさる感があります。そういや最近スタンダードグリップやめてるよねあの人。

4、5
Tide of Changes (Pt. I)(Pt. II)

https://youtu.be/x_kH0Php1sA?si=_L-AqQ5Qsyuu5wJF

パートⅠのベースフレーズがエロい、めちゃくちゃエロい! キコがいたら間違いなくキコのフラメンコギターが炸裂してた感じのやつ! まぁそれはテンプルオブシャドウズで楽しみます! むしろフェリーペのエロさが大変にごちそうさまな感じでした!
パートⅡに入って、これよこれなんだよ。いやほんとにさ、ANGRAでマストになる曲たちってだいたいスロウ〜ミドルチューンになるんですけど、先行公開でこの曲初めて聞いたときガッツポーズしましたもん。こういう曲が聞きたかった! そしてこの曲の後半から、HOLYLANDに収録されてるCAROLINA VI のクワイアワークが差し込まれるんですよね。あれどんな含意なんだろ。一切先行インタビューとかに触れず、いきなり楽曲なので、このアルバムにどんなものが込められてるかを知らないのです。


6
Vida Seca


で、これ。
しんだ。
最高。
まさかまさかですよ。イントロからいきなり神秘的だし、ここに来てラファエルのメインヴォーカルがようやくくる。secret garden からこっち、わりとラファエルのヴォーカリストとしてのエゴが発揮されてきたけど、そのエゴがこの曲の彩りにいい意味で作用してくれている感じがあります。そしてリフ、そしてリフ! 初めて聞いたとき鳥肌止まらなかったよね。さらにコーラス! 何ていうかさ、ぶわっと解放感があんの! たぶんジャングルの奥地から開けた場所に出た、みたいな感じたよねこれ。そしてこの曲ファビオのいちばんおいしい音域でのびのびと歌われている感じがあって。
この曲に出会えて幸せです。拝むしかない。

7
Gods of the World

https://www.youtube.com/watch?v=H-aXHlhi6Tc

イントロのソロとか超好きなんだけど、まぁ神曲浴びまくったあとなので「はいはいいつものいつもの」みたいな印象になってるのは否めません。ていうか何らかのタイアップ案件なのかしらね。なんかへんにキャッチー。
とはいえ、ソロがエロいんだよなあ。Ego Painted Grey のソロのかきむしられ感にも近い感じがあって。ちょっとキコ時代を思い起こさせるフレージングたちだなーと思いましたの。


8
Cycles of Pain


これも先行曲。「やっべこんな曲たち聴けちゃうの!? マジで!?」ってビビったもんです。蓋を開けたらさらにやべー曲にぶち当たって悶絶したわけですが! とは言え、この曲がドチャクソ美しいのは変わりないわけで。いやほんとファビオ神が神りすぎてて神。そしてこのソロですよ。泣きまくり。この辺マルセロなのかなあ。ソロを挟んで曲調にほのかな明かりが差し込んできて。しかしアルバムのタイトルナンバーがバラードとかだいぶ攻めて……いや REBIRTH もそうだったわ、普通にそういう人だったわラファエル。

9
Faithless Sanctuary


前作 cave man を思い起こさせる感じの曲ですね。あれめっちゃ好きなんすよ。まぁ、あれよりは、何というか……やや holyland 寄り? なんかリフもあのへん意識されたものが多い気がするんですよね。雑然とした感じなので、まあ素直には聴かせてもらえない。こんなメチャクチャな曲破綻させずに聞かせるとかやべえ。疲れてるときに聞くとこのリズム感、耳が拒否しました。だってわけわかんないんだもん。よーやるわこんなん。
ハチャメチャ、よく言えばおもちゃ箱。そんな印象。好きではあるんだけど、繰り返し聞くと疲れる曲ではあります。

10
Here in the Now


「出てくれたことに五点!」と仰るレビュー者さんを拝見し、「まぁ正直メロスピ成分どんどん減退してるしなぁ……」とは思ってしまい。いやけどね、アキレスが残ってたら、メロスピナンバーも多かったろうって思うのどす。問題はブルーノにそっち系叩かせるのはもったいない。マジでもったいない。この方のしなやかなドラミングのためにはこうしたスロウナンバーがマジで映える。あとファビオも声柔らかいですしね。アンドレの声もなんだかんだで硬質だったし、エドゥに至っては見事なメタルヴォーカリスト。彼らの声にスピードチューンはほんにハマりました。そしてこの温かいナンバーは、……ええと、いやぶっちゃけこの辺メタルにくくっちゃっていいのかやや不安ですね?

11
Generation Warriors


と言うわけで、ラス前にようやくやってくるファストナンバーらしいファストナンバー。俺、近作に入ってるアルバム後半の疾走曲嫌いなんですよ。「言うてお前ら疾走曲でヲーヲー言いたいんやろ? 知ってる知ってる、ほれどうじゃ」みたいな印象があるので(偏見)。まぁここまで書いたとおりこのバンドでミドルチューンやバラードに燃えたぎる口なんで、そのへんは完全に性癖の話になってきますね。とは言え、ヴァースやコーラスで刻まれる「デーヅクヅクデーヅクヅクリフさえやっときゃええんやろ?」感がねえ……ただ、ソロでデーヅクヅクデーヅクヅクリフを逆手に取ったようなユニゾン決めてくるのにはやられました。そして疾走曲でも、決してファビオには超ハイトーンをやらせない。徹底されてて良き。Secret garden や OMNI にはなんだかんだでちらっと超ハイトーンあった気がするけど、このアルバムには……一箇所だけだったかなあ。このあたりは、こういう言い方もあれだけど、エドゥを失ってしまった遺産、と呼ぶべきなんでしょうかね。

12
Tears of Blood


そしてラストナンバー。ドチャクソに重苦しい。おそらくこのアルバムに通底する物語を知ることができたらその意味もわかるんでしょうけど(temple of shadows は物語のあらすじの助けもあり、sprouts of time 以下三曲に死ぬほどハマった)、今のところは「なんでこんな地獄みてえな曲ラストに持ってきたんだ……」感がヤベーです。とは言え、アウトロとしての雰囲気は抜群。一連の音の物語の締めくくりとして、いい余韻を残してくれる歌曲だと思ってます。
なので日本盤がこの曲の後に同曲ファストバージョンなんて雰囲気クッソぶち壊しなもんねじ込んできやがったことにマジでげんなり。ボーナストラックとはいえ、もうちょい別な曲無かったんですかね? このへん aqua の lease of life は良かった。中盤に入ってくる曲の、より穏やかなバージョン。あれだけヘビロテしたもんです。逆にこっちのボーナストラックはプレイリストから外してます。まーようはこのバンドにあんま激しさ求めてないってことなんでしょね。


総評

「エドゥ、アキレス、キコ脱退というどでかいターニングポイントを経て、ようやくハマるところにハマったアルバム」。その結果いよいよこのバンドのメロスピ離れが進んできた感じはありますね。まぁ個人としては歓迎の展開です。とはいえぶっちゃけ思うのは、ですね……「えっ、このバンド、ビッテンコートプロジェクト3でよくない?」。これ。好きが天元突破してんですが、はっきり言って ANGRA として聴けるかって言うと、微妙。まぁ、キコのギターが聞きたかった、がどでかいモチベーションだったバンドですしねぇ……メガデスのキコはさすがにこっちでバリバリにぶちかましてくれたラテンなノリのギター封印しちゃってますし、ちと辛い。
とは言え、ここに並ぶ曲たちは自分に取り、珠玉のものたちでした。最高!

あ、拙者的ANGRA神チューンは以下のとおりです。対戦お願いします。


Carry On、Never Understand
Nothing to Say、Make Believe
Lisbon、Paradise、Gentle Change
Nova Era、Millenium Sun、Rebirth、Visions Prelude
Spread Your Fire、Wishing Well、Sprouts of Time、Morning Star、Late Redemption
The Course of Nature、Ego Painted Grey、Breaking Ties
Lease Of Life
Newborn Me、Storm of Emotions、Violet Sky、Perfect Symmetry
War Horns、Caveman、Always More

後日付記
BURRN! のインタビュー読んできました。曲たちへの解像度を上げられて嬉しかったけど、とは言え思い違いもいくつかあったので。このバンドのリフワークはかなりフェリーペやブルーノ発信だし、歌のメロディはファビオとラファエル。それと Vida Seca イントロの歌はラファエルじゃなくてゲストヴォーカルでした。うーん、恥。あと遅まきながらフェリーペの出したソロアルバムを聴いたんですが、そのエッセンスがおどろくほどこのアルバムに注ぎ込まれてて感動。到底「ラファエルのプロジェクト」とは言えませんわこれ。

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