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五行小説

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五行とは万物における「業」であり。すなわち、世にも奇妙なショート(ちょっとだけ)ホラー。
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2017年11月の記事一覧

中の人

寒くなってきたので、やっとファンヒーターを出した。 1年ぶりに灯油を入れて電源をオン。 横に広がった口から温風がゴォーーっと吹いてくる。 真っ暗な冬の夜、仕事から帰って来て、ホッとするひと時。 しかし、さっきからどうも時々カチカチ音がする。 調子が悪いみたいだなぁ。 そろそろ買い替え時かしら。   ーー 買い換えるなよ。   えっ? ーー 不調じゃねえから、捨てるなって言ってんの。   で、でも、カチカチって……。   ーー カチカチじゃなくて、舌

事故物件

先日契約した家のことなんだが、どう考えてもお化けハウスだ。 毎日、皿が飛んだりドアが勝手に開いたり、血みどろの他人と暮らさなきゃならないこっちの身になってくれ。 事故物件には告知義務があるはずだ。   ―― お客さま、しかし、あれはあの部屋で亡くなったモノが出てきているわけではないので、物件が事故だとは言い難く……。   ―― 怪現象が起こる事は存じておりましたが……。見える人と見えない人がいるので。えっ。どういう人なら見えるんだって?   ―― あの部屋に住

おぼえとけ

ICカードを自動改札に押しつけ、家路に着くために急ぎ足でホームに向かう。 きちんと右側通行を守る人の群れに混ざって歩いていると、反対方向から突っ込んで来た小さい人とぶつかった。 子供かと思ったら、背の低いおじさん。 すれ違いざまに、 「おぼえとけよ」 と、まん丸い目でにらまれた。   自分から突っ込んできたくせに……。 と、少しムッとしたが、今どき「おぼえとけ」なんて子供でも言わない。 振り返ると、おじさんはあちこちで人とぶつかり、そのたびに「おぼえとけよ」

同居

父が中古の一戸建てを買ったという。 母は、もうこの世に居らず、私にも夫の親がいて、父との同居は出来ない。 なぜ、母と暮らした家を捨てたのか。 父の真意は私には解らなかった。 ただ、解っているのは……。 父は新しい家で「誰か」と住んでいる、ということである。 毎朝、父の同居人からメールが来るのだ。   ―― そろそろ断捨離する?

臭いがする

最近、隣りの家から悪臭がする。 余所さまの臭いには、なかなか文句が言えないものだが、換気するたびにこれではたまらない。 お隣さんは、ご夫婦で60過ぎ。 加齢臭とはこういうものなのかなぁ……。   そのような事を考えていた、ある日のこと。 外出先から家に入った時、一瞬、自分の家から隣と同じような臭いがした。 人間は自分の家の臭いにはなかなか気づかない。 慌てて家中に消臭剤を吹きかけたが、家の中に入って慣れてしまえば、消えたかどうかも判別つかない。   他人の家

老害

「形見分け」などという風習がありますが、私は亡くなった人が持っていた物をいただくというのは苦手です。持ち主の意識が何かしら残されている気がして。 しかし先日、「他に使い手がいないので」と祖母に言われて、祖父の形見のパソコンを貰ってしまいました。自分のパソコンが調子悪くて買い換えようと思っていたところだったので。 祖父はこのマシーンを購入してから急死したので、ほとんど使っていないのです。   電源を入れると、今まで使っていたボロパソコンと違って静かに素早く起動します。

有効期限

入り口でポイントカードを出したら、 「有効期限が切れています。」 と、受付の人が気の毒そうに言う。   「貯めていたポイントはどうなるのですか? 」 「生涯を通して有効になるような高いポイントも存在するのですが、お客様の場合は何もお持ちではないようで。」 「私が貯めていたポイントは何だったんですか!? 」 「残念ですが、容姿や若さなどは一過性のポイントですから消耗されます。」   「何の話? 」   「カードではなくて。お客様、ご自身の有効期限が切れてい

まっさら

合コンで、テーブルの隅に座っている女をホテルに誘ったら、すんなりとついてきた。 おとなしそうな見た目だったが、思いのほか大胆。 黒目がちな瞳、艶やかなストレートの黒髪。 よく見ると和風の美人だし、得した気分だ。   部屋に入ると女はメイクを落とし始めた。 「まっさらな姿の私を見て。」   コンタクトレンズを外したら、目がなくなった。 口紅をぬぐったら、口がなくなった。 ピアスを外したら耳がなくなった。   叫び声をあげて、逃げ出そうとドアを開けたら。

願いをかなえるサイト

景気が悪いので、宝くじでも当たらないかとネットで検索していたら、 『願いがかなう掲示板』 などというサイトを見つけた。   ―― 報酬は、願い事がかなった後で結構です。一件五万円也。 なんだ。金を取るのか。   掲示板は「おかげさまで恋人ができました。」「子供の病気が治りました。」など、うそくさいお礼の書き込みであふれている。   腹が立ったので、鼻白んだ気分で書きこんでやった。 ―― おまえのせいで不幸になった。炎上しろ!   その日の夜。 俺のア

フォロワー

政治関係の話だけしようと思い、ツイッターで新しいアカウントを作ったら、「呪術師」だと名乗る人たちから次々とフォローされた。   気味が悪いので、また新しいアカウントを作り直したら、「霊媒師」だと名乗る人たちから次々とフォローされた。   パソコンのこちら側にいる私の後ろに、一体何が見えるというのか……。

現在地

人に小説を読んで評価してもらったら、 「あなたが作ったストーリーからは背景や体温が感じられない。無機質で、まるでロボットが作った話のようだ。」 と、言われた。 それは、そうだ。 私は目など見えていないし、耳も聞こえない。 体温などない。 真っ暗で冷たくて、肩幅と同じほどしか幅がなく、顔の上に時々ジャリジャリした黒い粒が落ちてくる。 そんな所から心残りを発信しているのだもの。 背景、見えた?

出口がない

ルームメイトが姿を消して一週間が過ぎた。 彼氏もおらず、友達も少なく、ほとんど職場とアパートを行き来するだけのような生活を送っていた子だ。 実家にも帰っていないようだし、私にも何も言っていなかった。 ご両親とも相談して、警察に届け出ることに決めた。 出かける支度をしようと鏡を覗く。   と、鏡の向こうから、白い手の平がバンっ! と浮き出てきた。   ―― 助けて!   「ええ―― !? ちょっと……どうして、こんな所に! 」   ―― 解らない! 汚れ

個人情報

本日の職員会議の内容は、『生徒たちのインターネット使用』についての指導です。 近年、主に『〇ちゃんねる』や『ついっとらー』を使用した犯罪予告、または犯罪行為の実況など、警察沙汰になる事件が後を絶ちません。 先日はついに『ついっとらー』で自殺願望を書きこんだ人たちが殺されるという最悪の事件まで起こってしまいました。 これを受けまして、職員の皆さんには、くれぐれも生徒たちに「SNSで知り合った素性も知らない人間に気安く会わないよう」「インターネット上に本名を含む個人情報を絶

真実を知れ

ツイッターは面白い。 自分の手で集めた「話が合う」人たちが、『タイムライン』と呼ばれる私のページで好きな事をつぶやいたり語り合ったりする。 地震が起きた時は、ニュース速報よりも早く情報を伝えてくれる。   お天気もそうだ。 話の内容から何となく近県に住んでいると思われる人が「雨だ」とつぶやいたら、こっちも用心して洗濯物を取り込む。 しばらくしたら、本当にこっちの空にも雨が来る。 情報網として便利。 九州の人が暑いと言っていると思えば、北海道の人は雪だと言っている