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恐くありませんよ。 あと少しで楽になりますからね。 確か、ご家族はどなたもいらっしゃらないんですよね。 最期にどなたか連絡を取りますか? 「先生……スマホを……スマ……ホ、取って……」 何ですって? 「ネットで……仲良くしていた人たちに……挨拶……したい……」 ネット……とは? 「インターネット……ですよ……毎日……SNSで……喋っていた友達に……」 しっかりしてください。 そんなお友達は存在しませんよ。 知らない人と電子の箱の中で繋がるんですか
今日もご飯を作って、綺麗に盛って食卓に並べる。 時間をかけて味が沁みた茶色いブリ大根。 ゆで卵入りのマカロニサラダ。 ひき肉を炒めて荒く潰したマッシュポテトで包んだコロッケ。 どれも良い出来栄え。 けれども、温かい内に食べてくれる家族は居ない。 いつかはこうなると知っていたけれども、夫は帰って来ない。 独りきりの食事は寂しい……寂しい……。 私は涙をこぼしながら独りでご飯を食べる。 帰宅したら、今日も食卓に食事が並んでいた。 妻が結婚する時に実家か
何ヶ月も前からハロウィンコスプレで渋谷に出る用意をしていたのに、大型台風の襲来によって地元から出られなくなり、クサクサした夜。 駅で見知らぬ爺さんがボソッと話しかけてきた。 「バチが当たったんだよ。」 「はあ?何だと、じじい!」 「ハロウィンの意味も知らずに、あんな仮装して歩いてるからさ。」 「「バチ」とは何だ!時代遅れだし、保守的だし、老人の決めつけだ!」 「そういう事ではない。ユルいって言ってるんだよ。」 よく見ると、爺さんは所々穴が開いて
学生時代、書籍会社の倉庫でアルバイトをしていた。 倉庫は本のジャンル別に棚が並んでいて、作業者は棚と棚の狭い通路をカートを押しながら歩く。 注文指定の本を見つけたらハンディコンピューターに入力してカートに乗せる。指定の用紙に書いてある本を全て集めたら発送レーンに流す。 この繰り返し。 ロボットのような作業に疲れて辞めていく仲間も多かったが、突然休んでも責任が無く、就職活動が長引いて遅刻しても特に怒られる事も無く、時間の融通が利く事は大きなメリットだった。 それ
私が2年前まで勤めていた会社の倉庫には、アレが出るというもっぱらの噂で。 出入り口の隅に置かれた盛り塩を見るだけで長居したくない気持ちにさせられた。 姿を見たという人も何人かいて、その人たちの話はアレを一度も見た事がない私たちを恐怖に陥れた。 日当たりの悪い倉庫は、いつもジメジメしている。 アレが出るにはうってつけの環境だ。 そして、ある雨の翌日。 私はついに倉庫で遭遇したのだった。 「きゃあ~~!うわぁ。助けてください!」 「最近、大量発生したみたいで
私は人との距離感がよく解りません。 仲良くなろうと人に話しかけても、一応返事は返してもらえるけれども、その後の人間関係が続くことはありません。 最近SNSを始めましたが、積極的に絡んでも、スルーされたりお座なりな返事をされてそれで会話は終わってしまいます。 私はウザい人間なのでしょうか。 どうしたら人と仲良くなれるのでしょうか。 「こんにちは。相談のメールをありがとうございました。」 「距離感が解らない、というご相談ですが……」 「とりあえず、私の背中
「主任。パートさんのお家の方からお電話です。奥さん、亡くなったとかで。」 お電話代りました。このたびは、なんと言ったらいいか……。 奥様はとても積極的によく動かれる方で、性格も明るく、社内みんなに好かれている太陽のような存在でした。 はい。私も非常に残念に思っております。 明日から、奥様の居ない職場でどうやって仕事を回していけばいいのか……。 はい……。はい。どうか、お気をしっかりお持ちになって下さい。 ところで……。 えっと、奥様のお名前、もう一度
2017年、衆議院解散による総選挙は未曾有の台風襲来と重なった。 しかし、台風予報のおかげで期日前投票率がかつてないほど上がったため延期はなく、各地で負傷者が出る中、決行された。 「総理、一大事です。部屋の前でデモの集団が座り込んでいます。」 「部屋ってどこだね。」 「ここです。」 「こんな所まで入って来る前に止めるだろう、普通。」 「それが、止められなくて……あ、もう中に居る。」 「あなたたちは何なのですか!そんなびしょ濡れで……。」 わた
「わぁぁ! 殺す前に聞かせてください!どうして私を呪うんです? わたし……わたしは何もやっていません。あなたなんか会ったこともないしぃ!」 どうしてか、私にも解らない。 ホラーとはそういうもんなんだよ。見た事ないの? 関係なくてもビデオ見ちゃったり家に入っちゃったりしただけで呪わなきゃいけないんだよ。 たぶん、死んだら忘れちゃうんだよね。 何を恨んでいたか、誰を恨んでいたか。 「これ、あげます。」 なにこれ。 「イチョウ葉エキス。 物忘れに効くらしいから
2017年、衆議院解散による総選挙は未曾有の台風によって全国民の足を阻み、この先の憂いを予感させるかのようです。 しかしそんな中、多くの人が列を作って投票所へと向かいました。この選挙への関心の高さが窺われます。 先ほど、選挙に向かった住民が土砂災害に巻きこまれ搬送された地域の病院からお伝えしています。 「こんな大変な天候の日に選挙に行かれたのは何故ですか?」 「国民の義務ですからね。行かなければならないと思いました。」 「今回の選挙は国を変える大切な一票になる
「プレミアムフライデーはちっとも浸透しないから、いっそ法案化しよう。」 という荒唐無稽な案がなぜか通り、日本の労働者は月末の金曜日3時以降、一切労働してはならない事になった。 「今、何してる?」 「寝てるなう。」 「店も映画館も休みで行く所ないし。」 「DVD借りに行く?」 「休みだもん。昨日借りておけばよかった。来月はもっと事前に準備する。」 「今日はバスも動いてないしね。」 「さっき兄ちゃんが廃止要請デモに行って歩いて疲れて帰って来たよ。」
中学時代に同じクラスになり、成人してまでも年に何回か会っていた友達が亡くなった。 葬儀の連絡も貰えず、私は彼女の夫を恨んだ。 焼香だけでもさせてもらおうと香典を持って訪ねたが、受け取ってもらえなかった。 「お声を掛けず申し訳ありませんでしたが、妻の遺言で、私と子供だけの家族葬で済ませました。妻の兄妹も列席していません。」 ご主人は、柔らかくそう語った。 遺灰は全て海に撒き、墓もないのだと言う。 「墓に死んだ人は居ないから入らないと申しまして……。変わった事で。本当に
スキルマーケットのサイトで金運護符を買った。 どんな人にも効きます。 どんな状況でも強力に効きます。 必ずあなたをお金持ちにします。 どんな手段を使っても。 説明にはそう書いてあった。 最後の一行がちょっと気になったが、 「何が起きようがお金があれば私は幸せになれる。」 そう思っていた。 護符が届いて一週間。 私は望み通りお金持ちになった。 有名企業のトラックに轢かれ、莫大な賠償金を手に入れた。 そのほとんどは私の生命維持装置のために費やされ
この度は、当サイトに大変不適切な表現があった事を心からお詫び申し上げます。 ご指摘いただいた通り、犬の死というシーンを描いた事で多くの読者の方々を傷つけたと深く反省しております。 しかし、作品の意図といたしましては、害虫も犬も人間も……つまり生きているものは全滅してしまうという物でして……あ、猫にすれば良かったですかね。 えっ。そういう問題じゃなくて? つまり「死」を描いた事で傷つく人が出てしまったと。 はぁ……解りました。 では、赤ちゃんが生まれる話にしたい