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五行小説

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五行とは万物における「業」であり。すなわち、世にも奇妙なショート(ちょっとだけ)ホラー。
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2017年8月の記事一覧

バランス

顔の真ん中の目立つホクロをついに除去する決心をした。 「これは… 取らない方が良いんじゃないでしょうかね。」 「どうしてです? 目立つし邪魔なのです。昔から取りたいと思っていました。」 「顔はバランスで出来ています。 これを取ると、この下の方の大きな穴と、上の方も1つ消えるかも知れません。」 「かまいません。取っちゃってください。」 太陽が無くなり、宇宙からブラックホールが1つ消えた。 地球も消えた。

手段

「おとうさん。パソコンからめがでている。」 と、娘が言うので見てみたら、なるほどデスクトップいっぱいにデッカイ目が表示されていた。 新手のウィルスかと焦って色々な所をいじったりウィルス除去したり検索したりしたが、何せウィンドウの下に目があると思うと落ち着いて作業できない。 仕方なくパソコンを閉じてスマホの方で検索しようとしたら、スマホにも目が広がっていた。 「パソコンとスマホばかり見ていないで、私を見てよ。」 そういえば妻がそう言い遺して死んでから今日でちょうど1年

足蹴

映画館でシートの背中を何度もドンドン蹴られるので、さすがに注意しようと振り向いたら… 俺の後ろには1人も人が居なかった。 …なんてオチだったらどうしようと思って振り向いたら。 後ろには白い顔の首だけがちょこんと乗っていた。 やられていたのは足蹴ではなくて頭突きだった。

家庭第一

このたび可決された『家庭第一法案』に則り、我が社も「妻子が病気の時は夫たる社員は出社を停止すること」という規定を設けることとなった。 きみ。だから、今日は家に帰って下さい。 「お母さんが寝込んでいるから今日は休んだ」「今日はお父さんが宿題を見てやる」「どうしてこんなことが解らないんだ!」「お母さんの代りに掃除しろ!」「うるさくするな!」「ご飯を作るから買い物して来い。これとこれとこれとこれ……」「箸の持ち方が悪い!」「残すんじゃない!」「片付けしろ!」「早く寝ろ!」「早く

よぉく考えてごらん

近頃は頭がぼんやりとしていて、時々子どもの頃の記憶を掛け違えたりする。 姉に取られたと思っていた人形は私が捨てたものだった。 姉にされたと思っていた意地悪は私が姉にしたことだった。 そんな間違いを見つけた時、姉は私を諭すように哀れむように優しい声でささやく。 「冬子、よぉく考えてごらん。」 過去の記憶が真実とすり替わっていく時、私の人生って一体何だったんだろうと思うのだ。私なんて人間は本当にこの世に存在したのだろうか。 「冬子、よぉく考えてごらん。」 「覚えている

ドッキリ!

昔「サトラレ」という映画を見た。 その後、もしかしたら自分の心の声も全部周りに聞こえているのではないかと思うようになった。 考えている事が他人にバレているのではないかと思われることがよくあって…。 「私の心の声、もしかしたら漏れているのかなって。」 「声は漏れてないですよ。」 「何か漏れていることがあるの?」 「…擬音……。」 「擬音?」 「先輩の頭の後ろ辺りにいつも浮かんでるんですよ。今『? ? ?』って思ってますよね。」 「えっ!!?」 「今、『ガビーー

バースディ

今日は父の82回目のお誕生日だ。 誕生日まで後2週間、もたなくて。 悔しい。悔しいって。毎年恨めし気に言いに来ていたけど。 2016年からパッタリ来なくなったね。 誕生日じゃなくて命日を国民が祝ってくれるようになったから。 山は、あまり好きじゃなかったみたいだけれど。 8月11日……。

重い

右肩から腕にかけて重くて重くて。 上がらないほど重くて痛くて困っているんだ。 先生。もしかしたら私、何かに憑りつかれているのかな。 「他の所が軽すぎるんですよ。」 「あなた、線路に残った右腕以外はもうこの世のものではないんです。」

名づけ

子どもの名前が決まった。 「寿限無」を参考にして願いを込めたんだ。 呪限夢 呪限夢 朝開暮落 佳人薄命 風前の灯 鬼録奈落 死生命 七本塔婆 オワコン オワコン オワコンのDQN DQNのシボーフラグ シボーフラグの 仇野の露助…

夢枕に立つ

お盆に入ってから、親友の息子が頻繁に枕元に立つの。 仲の良い親子だったし、私に何か言いたい事があるのは解るけれども、恐いからあまり立たないでほしいの。 大体、帰る家を間違えているよね。 あの人に、息子にここに来ないように頼んで貰わなくちゃ。 腹から響くような低い声で恨めし気に語りかけるのを止めさせてもらわなくちゃ。 「あの7月の日。お前の下手な運転で、母さんが道連れになった恨みは忘れない。」 揺れる切子提灯。 ああ、そうだ。 帰ってきているのは私の方だった。

相乗り

薄ぼんやりと揺れる街灯だけを頼りに走る深夜。 辻を曲がる度に人が立っているような錯覚に襲われて身震いする。 もうずいぶん長い時間乗せている後部座席の男が声を掛けてきた。 「拾ってあげないのかい。」 「お客さんは相乗りになってもいいんですか?」 「構わないよ。どうせ今だって相乗りじゃないか。」 バックミラーを確認した。お客は1人しか乗せていない。 「誰と……」 暗闇の中で男の顔が引きつったように歪んだ。 「昨晩、零時。自分のした事を忘れたか。」 そうだ。 轢

白夜

なんと不幸な人生なのだと泣きながら目覚めたら、枕元に座した母が微笑みながら髪を撫でてくれた。 今までの人生は、まだ小さな子供の私が見た夢であった。 …という夢をもうずっと見続けている。

属性

「最近ツイッターのタイムラインで風邪ひいている人が多くて。先生、私も風邪ですかね。」 「風邪ですね。移ったんですね。」 「ネットですよ?」 「属性が移ります。風邪属性ですね。」 「…最近タイムラインに腫瘍が見つかった方が多くて……」 「属性ですね。移ってますよ。」

絶対彼女

年齢がそのまま「彼女いない歴」である兄が、初めて家にカノジョを連れてきたので両親は大慌てだ。 下世話な言い方だが、兄にしては上出来すぎる可憐さだった。 アニメやゲームおたくの兄が崇拝している窪之内英策先生のキャラクターにどことなく似ている物言いたげな瞳、ちょっと尖った口。 窪之内英策先生のキャラクターのように痩せすぎず太りすぎず適度に丸みを帯びた身体のライン、柔らかそうな首筋、ボリュームのあるモモとふくらはぎ、締まった足首、ゆれる髪、子どもっぽい仕草、情緒的な声、窪之内