190512パラダイムシフターnote用ヘッダ第04章18節

【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (18/19)【房中】

【目次】

【水月】

(それにしても、ここはいったい、どこなのかしら──)

 とりあえず、安全な場所であることは確かなようだ。ともに戦ってくれた、あの青年──アサイラが、連れてきてくれたのだろうか。

 眼球だけを動かして、どうにか寝台の周辺を視界に捉えようとする。自分の足下の方向に、人影を二つ、見つけた。

 片方は、アサイラ。もう一人は、見慣れぬ女性だ。アサイラ同様に、見慣れぬ装束を身につけている。黒百合の花弁のような、あるいは漆黒の羽衣のような。

 アサイラと女は、しきりに言葉を交わしているが、ミナズキの耳に内容が届かない。ミナズキは、なけなしの意識を聴覚に集中する。

「……だから、アサイラ! はやく、この子──ミナズキちゃん、だっけ? とにかく彼女に、あなたの精をわけて! 本当に、死んじゃうんだわ!!」

「強姦教唆はやめろ、っつってんだよ。クソ淫魔、ほかに方法はないのか」

「それがあるんなら、とっくにやってるんだわ! とにかく、緊急! エマージェンシー!!」

 二人のやりとりを聞き取ったミナズキは、かろうじて、ほんのわずかに頭を上げる。『淫魔』と呼ばれた女のほうが、先に気がつく。

「目が覚めた? でも、動かないで! 全身の導子力を吸い尽くされて、本気で瀕死の状態なのだわ!!」

「話……聞いてました。やって……ください」

 ミナズキは、途切れ途切れの言葉で、枕元に駆けつけた『淫魔』に話しかける。わずかに意志を伝えるだけで、息が切れそうになる。

「房中術……のことですよね……? 経験はない、ですけれど、知識としては……知っています。だから……やって、ください」

「アサイラ!」

 枕元の女性が、振り返り、声を上げる。

「本人の同意がとれたのだわ! これで、しない理由がなくなったでしょ!?」

 アサイラは、ため息をつく。ぼりぼりと頭をかきながら、座っていたいすから立ち上がる。

【揚々】

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