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#1 「カイカンフィズ」



「カイカンフィズ作ってみてくれない?」

そう言ったのはマスターと仲の良い....
なんて言ったらいいんだろ、お客さんじゃないんだよな、いや今はお客さんなんだけど。
取引先...ってのもなんか違うし同業でもないし、説明が難しい。深く関わりのある人...?

まあとにかく、私が尊敬している人だ。

で、なんだっけカイカン、、、カイカン?
カイカンフィズ???カイカンってナニ?

全く聞いたことがない。

でもさっきからチラチラ聞こえてきていた話によるとジンフィズに牛乳を入れたレシピ、と言うのだけはわかっていたので作ってみた。

ジン...45ml

レモン...15ml

砂糖....2tsp


ここまでがジンフィズ。

ここに、

牛乳...30ml

を入れる。

レモンの酸味が強かったので15mlより少し少なめに。

レモンの個体差で全然味が違うし搾りたてと数時間置いた後でも全然違うので都度確認するようにしている。シロップやジュースなら一定の味なのだと思うが、これはこれで面白いから好きだ。

しかし牛乳とジンって合うのか...?
味の想像が全然出来ない。

シェイカーの中で一通り混ぜ合わせ、味見。

おっ意外と、、、?いける!合うのね!
思ったより牛乳感が無い。良い意味で。
牛乳臭い感じ全然ないし、ジンフィズからそんなに離れてないんだな。まあ飲んだことないからどんなもんなのかわかんないんだけど。

シェイカーを開け、あまり割れていない氷を選んで数個グラスに落とし、氷の間を縫うようにソーダで満たす。

「できました、カイカンフィズです。」

「カイカン」がわからなくて私の中ではずっとカタカナだった。

ひと呼吸ついたところで「カイカンフィズ」を検索。便利な時代だ。

「ミルクジンフィズ」...
ジンフィズにミルクが加わったカクテル。
発祥は1945年にさかのぼる。

別名會舘フィズ(かいかん)とも言われ、東京丸の内にある「東京會舘」で生まれた。

カイカンって「會舘」か、そりゃわからん。

戦後まもなく日本はGHQの統制下におかれており、東京會舘はGHQ本部が近くだったこともあり、アメリカ軍の将校たちが酒場としてよく利用していた。

....ふむ。

朝からお酒を飲んでいると思われないよう、カモフラージュのためにジンフィズにミルクを入れたのが、このカクテルの始まりだと言われている。

なるほどなあ。

確かにここまで白濁したカクテルってあんまりないし(ペルノでも濁る程度だし、)なんで牛乳なのかはわかったけどよく入れようと思ったな。私ならカルピス入れるなあ。いやまだカルピスなかったか。



『うん、美味しい』

「こんな感じですか?ていうか牛乳ってジンと合うんですね。」

『まあ俺も一回しか飲んだことないんだけど、』

と笑いながら言って、続けた。

『また次も来たら頼むから、作ってほしい。』

わ...わかりました、と戸惑いながら返事をした。
ここで言い切れるほど自分に自信はない。

バーテンダーというのは不思議な世界で、
華やかな見た目に反して職人気質だ。

新人バーテンダーの仕事は店の掃除や洗い物のみ、水すら注がせてもらえない。お客様に初めてカクテルを出したのは三年目、、、みたいな世界だ。

お寿司屋さんと似てる所はあると思う。
“飯炊き3年握り8年” 、そんな感じ。

私の店はマスターが「作らなきゃできないでしょ」という思考のため(めちゃくちゃわかるしめちゃくちゃありがたい)、結構お客様に出すカクテルもいくつかは作らせてもらっている。

一年にも満たない新人に作らせるのはなかなか珍しいことのようで、たまに同業のバーテンダーやお客さんにつっこまれることがあるのだが、
そういう時は決まって、

「頑張ってるうちはやらせるし、まあダメだなと思ったら全部奪うんで」

とマスターは笑いながら言う。
(これはたぶんガチなので笑えない。)


さて、今日はカイカンフィズ....
もとい會舘フィズの練習するか。

カウンターの上にシェイカーを並べ、レモンを絞る。ジンは...前と同じの方がいいな。


一通り準備し終えて、順に入れていく。
ジン、45ml多いんだよな、40ぐらいにしよう。
レモン、砂糖、ジンフィズと一緒。
そして牛乳......

が、ない。

そうだ牛乳切れてたんだった。

大人しくジンフィズを作って飲んだ。

普通にうまい。次はこんな感じに作ろう、というメモだけ頭の中に残して、會舘フィズの歴史とそれを飲んでいた人たちに思いを馳せながら飲み干した。




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