東方虹龍洞をプレイして強い幻覚を視た話

はじめに

2021年というコロナ禍の中で発表された東方profectの新作、東方虹龍洞。
2020年は同人イベントは大半が中止・延期を余儀なくされ同人という文化が縮小する可能性も囁かれていますが、そんな中で発表された同人作品のビッグタイトル、ということになります。
かくいう私も、東方というジャンルで二次創作をしているのでこの時期での原作の供給というのは非常にありがたいもので、事情がありCD版のショップ展開を待ってプレイしました。
その結果、強い幻覚を視ることになった。
あ、原作プレイ前提です。ネタバレあるんで。

何について考えたいのか

では、今回筆を取った理由、何について論じたいかということになるが、それは

・作中の季節は何になるのか

ということだったりする。
この時点で、おいおいと思う方もいるかもしれないのは承知しているが、ちょっと待ってほしい。貴方が思う季節はこの作品において明言されていただろうか?

とりあえず、一般論的なものとして

本作6面ボスの天弓千亦は市場の神である。それも特別な時に商売を可能にする神なのである。
つまり、コミケの暗喩ということに気付いた方は多いことだと思う。
それこそ、このコロナ禍で同人イベントの開催が激減していることから神主も思う所があったのかもしれない。
だが、困ったことがある。コミケは夏と冬に開催されるのだ。これでは季節が特定できない。
本作が本来頒布されるのが夏コミ(の実質的な代替開催となるCOMIC1 BS祭)だったから夏、という意見もあるだろうが、東方妖々夢は季節は作中季節は冬だが夏コミで頒布されている。現実とは連動していないのだ。作中にきっと答えはあるはずだ。
作中で雪が降っていないから夏という考えもあるが、それは消去法であって作中の要素で明示されてるとは言い難い。何かないものか。

そもそも、何故「虹」なのか?

本作には虹そのものや想起させるものが多数登場する。
最も速く出て来るのは4面ステージの虹龍洞そのもので、その次が4面ボス・玉造魅須丸の(ゲーミング)勾玉&陰陽玉だろう。
その後は、主に6面及び天弓千亦に関連して演出等出て来ることになるが、ここでは玉造魅須丸に注目したい。
本作に置いて玉造魅須丸というキャラクターは唯一今回の異変に関与していないキャラクターである。
むしろ、関与してない彼女がいたことが発端になるのがExtraのストーリーなので、それは間違いない。
だが、そんな唯一異変に関与していないはずの彼女がキャラクターそのものが虹を象徴している天弓千亦以外でただ一人虹を想起させるものを扱っているのだ。
むしろ、他のキャラクターならば天弓千亦が開いたのが月虹市場なのだから、関連性として理解できるのに、なぜ敢えて関連性がないキャラに虹がモチーフになるアイテムを持たせたのか。
本作での「虹」は単なる市場やキャラクター性以外の大きな意味を持っているのではないか?

「虹」とは何か?

「虹」が意味するものについて考えていきたいが、まずは先程しっかり書いていない部分もあるので少し情報を整理していこう。
文字情報で得られる「虹」については前段に漏れはないと思われるので、演出面となるが4面ステージとなる虹龍洞の奥の色が進行につれて変化していく、というものがあり、6面にて分かりやすく虹色を見ることができる。
さて、ここで4面における会話文を一つ引用したい。

>玉造魅須丸「この先は無酸素エリアです」

つまり虹龍洞内は酸素が薄くなっているのだ。
そして、6面は妖怪の山の頂上の上空が舞台となる。こちらも高高度の上空だから酸素は薄いという点で共通している。
一般的に、酸素が薄い状態になると人の判断力は著しく低下し一種の酩酊状態になると言われるが、これは逆説的にそういう状態だから「虹」が見えたとは考えられないだろうか?
そう、本作の主人公が見ている「虹」は幻覚なのである。

幻覚を見ているとして

だが、ちょっと待ってほしい。
幻覚を見ているとしてそれが何を意味するのか?という問題が浮上する。
だが、幻覚を見なければいけない、としたらどうだろう?
本作の主人公は全て人間である(一名現人神ではあるが、今回は敢えて無視する)。
それは、4面にてあれ以上先に進めない「酸素がないと」生きられない存在だからと考えられる。妖怪や神だったらすんなり無酸素エリアを越えてしまえる訳で、そうなると「虹」は見えないのだ。
つまり、虹龍洞で「虹」が見えるのは人間だけ、ということになる(もしくは酸素がないと生きられない種族)。
これは、「虹」の幻覚が見えることそれ自体に意味があるのだろう。
もっと言えば、幻覚を見てもらわなければいけないのだ。
つまり、本作は主人公による幻覚体験に他ならない。

幻覚体験

さて、ここで一度現実へ話を移そう。
人類の歴史上に残る規模で幻覚を見ていた時代がかつてあった。
1960年代後半における、LSD等を利用し幻覚を見るサイケデリックというムーブメント。
それこそ極彩色であったり虹色の世界が見えると形容された。
それはまさに本作の演出と重ならないだろうか?
そう考えると本作における造形についても合点がいく部分が多い。

例えば、3面ボス・駒草山如は非常に分かりやすい。

>天然100%妖怪の山産の煙草は、煙を吸うと様々な効果が現れる事が知られている。
>心を落ち着かせたり、逆に昂揚させたりも出来る。
>彼女はその煙を巧みに使い、賭場にありがちの狂乱を未然に防いでいる。
>彼女が開く賭場は、紳士の社交場なのだ。場を取り巻く煙草の煙によって……。
(omake.txtより)

どう考えても普通の煙草ではないのは明らかで、つまり妖怪のコミュニティには「普通の煙草ではない」「心を落ち着かせたり、逆に昂揚させたりも出来るもの」が流通しているのである。
そう考えると、本作の異変も様変わりしてしまう。

アビリティカードとは

さて、次は5面ボス・飯綱丸龍に話を移そう。
アビリティカードを作った張本人であるが、それがどういったものかというと

>彼女は山に眠っていた龍珠に目を付けた。
>龍珠には勾玉に加工しなくても、ほんの僅か魂を込める効果がある。
>これを使って交換したくなる娯楽品を作れば、一儲け出来るだろう。
(omake.txtより)

この龍珠とは、4面ボス・玉造魅須丸のゲーミング勾玉&陰陽玉の素材でもある。
つまり、虹色の幻覚を見せる物質とも考えることができる。そもそも酸素が薄いだけで幻覚が視えるのであれば、本作以前の場所でもそういった場面はありそうだし、これまで幻覚を見る様な事態は起きていない。酸素が薄い以外の幻覚を見るトリガーと考えることができるだろう。
この魂を込める効果というのは幻覚が実体化したもの、と考えられないか。
そう考えると、アビリティカードを使っている状態は一種のトリップ状態と言えるだろう。

つまり、アビリティカードを流通させることは以前よりも強い幻覚を見せる新製品を蔓延させること、幻想郷におけるサイケデリックムーブメントである。

市場の終息

本作をアビリティカードでトリップして戦う、と位置づけると最終的には自機達の活躍で終息してしまうのである。
せっかく幻想入りしたのに、このムーブメントは生き残ることができなかったのである。
だが、これは終息することに意味があるとしたらどうだろう?
現実でのこのサイケデリックムーブメントも数年で終息してしまう訳だが、トドメを射したのは差別問題が絡んでいる(オルタモントの悲劇)。
本作に置いて、異変解決のキッカケとなる最初に倒されるのが被差別キャラの豪徳寺ミケなのは符号するものがあるだろう。
そんな、サイケデリックムーブメントはこう呼ばれていたのだ。
サマー・オブ・ラブ」と。
つまり、東方虹龍洞は夏の異変なのである。

余談

今回の文章における最も重要なキーワードとなった「虹」であるが、この言葉は俳句の季語である。その季節は夏だ。
なんだ、こんなにも遠回りする必要なかったじゃないか。

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