大糸線に乗って小谷温泉『山田旅館』に宿泊してきた
ローカル線で行く、一人旅好きの秋野あき子です。
2023/10/26〜10/27にかけて、新潟県の糸魚川駅から大糸線に乗って長野県の小谷村(おたりむら)へ向かい、国の登録有形文化財でもある老舗旅館「山田旅館」に宿泊してきました。
ローカル線を乗り継ぎ、今回は北陸から長野へと向かいます。北陸新幹線のおかげで長野までは1時間弱で行けるようになったのですが、1時間でサクッと着いてしまうとやはり旅情がない…ローカル線の魅力は不便さですね。早く着かないからいいんです。
私はいつも旅には本を一冊携えて行きます。電車の待ち時間にスマホ見てると充電はすぐなくなるし、モバイルバッテリーも熱くなるし。ローカル線でも田舎であればあるほど、駅のホームの音と空気の中で読む本が好き。
で、今回のお供はこの本「こころ(著:夏目漱石)」。
前回の会津若松への旅では『人間失格』をお供にしました。日本で最も売れている本として、人間失格と双璧をなすこの『こころ』を読まずしてこの歳まで来たので、やはりここは文学の王道を往かせて頂きたい。
「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3部構成ですね。あらすじは中学生か高校生の頃の国語で習っているので大まかには知っていますが、当時はさっぱりでした。大人になった今、先生の遺書を私自身がどう感じるのか楽しみです。感想は記事の最後にまとめようと思います。
さて、旅の始まりは前回同様糸魚川ひすいラインです。
正式名称は「えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン」。
前回の車窓からの景色は夕暮れだったので、あんまりの日盛りの清々しい秋晴れにテンションは最高にハイッてやつになりつつ、日本海を眺めます。
良い旅の出だしです。前回は直江津駅まで行きましたが、今回は糸魚川駅で降りてしまうのが少し残念です。糸魚川駅以降から青海駅など日本海に近い駅が現れて、美しい景色が見られるのです…。
泊駅から30分ほどで糸魚川駅に着きました。
糸魚川は翡翠の町なので、駅の至る所に『ヒスイ』の文字が見えます。
大糸線までは1時間ほど待ち時間があるので、適当にぶらぶらしつつ時間を潰します。
待合室に電車おる!?
こんな楽しい待合室も珍しいですね!はしゃく四十手前の主婦…童心に帰らざるを得ません。
このキハ52の鉄道をくぐるとその先にはなんと!
小さな男の子を連れたファミリーが、キッズスペースで遊んでいました。その他、鉄道のジオラマや模型、行先標(電車の行き先を表示してある板)が展示され、ちょっとした博物館になっていました。
電車好きにはたまらないスペースですね。
再びトワイライトエクスプレス再現車両に戻り、中を覗きます。
どこまで再現できているかはわかりませんが、一生に一度は乗ってみたい車両であること間違いなしです。
サンライズ、ウエストエクスプレス銀河も同じく絶対に乗りたい電車です。いつか寝台列車の旅日記も書けるといいな。
レプリカとはいえ、時間潰しには十分なくらい雰囲気を味わえますし、結構はしゃげます。
まだ大糸線の発車には時間があるので、駅構内をブラブラ。
さすが新幹線の経由駅だけあって、お土産屋も広いし待合室もオリジナリティが溢れていて楽しい駅でした。キハ52の待合室は飲酒は禁止されているので、そこはすこーしだけ残念でしたね…当然と言えば当然ですが。
そして、いよいよ大糸線発車の時刻です。
電車内はあっという間に満席となりました。座れはしましたが、山側でない方に座り、景観はどうなのかちょっと心配になります。
心配をよそに農村の美しい景色が車窓からのぞめます。
真向かいに座る老紳士が駅弁を食べ始めて、食べ終わると車両の先頭で一眼レフをパシャパシャ鳴らし写真を撮りまくっていたので、良い楽しみ方だなと感心しました。電車内の乗客の過ごし方もいろいろで、こういったローカル線ならではの光景を見るのも楽しいものです。
南小谷駅まではちょうど1時間ですが、あっという間の1時間でした。前回の只見線では約4時間揺られたので、それを思うとちょっと呆気なく感じてしまいますが、景色には大満足です。進行方向右手に座ると、もっと川沿いの景色を楽しめたかもしれませんが、どちら側に座っても車窓からの景色は美しいと思います。
南小谷駅に到着してゆっくり散策する暇なく、次はアルピコ交通の村営バスに乗り込みます。
観光バスらしき大型バスが停まっていましたが、まさかそれが村営バスだとは思わず、バス停と改札口を何往復もしてしまいました。
こんなん素通りするやろ…絶対観光バスやと思うやん?
しかしバスの行き先はしっかり『雨飾高原行き』と示しています。『山田旅館』はこの『雨飾高原』の一つ前の停車駅なので間違いないようです。
恐る恐る後部の乗車口から乗り込むと、バスの運転手さんが「雨飾高原行きのバスですが、大丈夫ですか?」と心配して声をかけてくれました、優しい…トゥンク。乗客は前の方に地元の方と思われる女性が一人だけ。運転手さんと地元トークに花を咲かせていました。こんなに大きいバスをほとんど独占しているこの状態が初体験すぎて、テンションはハイッのままです。
バスは深く深く、アポロのようにツンツンに尖った山を分け行って進みます。
途中、こんなどデカいバス行けんのか?と心配になる小谷村の集落を経由します。
この赤い屋根の形が特徴的な家屋は、前回の只見線の旅でも現れて気になっていたのですが、この後出会うことになる二人の秘湯マイスター淑女から「昔の茅葺き屋根の上にそのままトタンを被せてある」のだと教えてもらいました。この二人の淑女との出会いは、この後書き記すことになります。
バスに揺られること約40分、ついに『山田旅館』に到着しました。
ノスタルジーが助走つけて殴りにかかってきましたよ!泣きそうなくらい風情があります。すぐに旅館の方が出迎えてくれて、部屋や温泉の案内をしてくれました。
また予約の際に再三言われた「カメムシの大発生」についても説明を受けましたwそりゃあ山だから仕方ねえべ。
部屋の案内を受けて荷物をおろします。
山田旅館は6棟の木造三階建てが軒を連ねる登録有形文化財です。本館は江戸時代、明治棟は明治時代、新館は大正時代、別館は平成にそれぞれ建てられており、特徴が違います。詳しくは山田旅館のホームページへ。
私が泊まった部屋は新館(大正館)でした。予約の際に特に希望は出さなかったのですが、旅館の方が言うには大正館が一番造りがしっかりしつつ宮大工の意匠が散りばめられてオススメです、とのことです。もちろん、江戸・明治の造りも非常に素晴らしいですが、確かに歩いた時の廊下の軋む音が大正館は少ないように感じました。
このように、部屋は障子を隔てるだけで普通の旅館のように部屋の入り口というものがありません。各部屋の前にスリッパが置いてあり、こんな光景も初めて見ました。当然、隣の部屋のお客さんの話し声、足音、物音は筒抜けです。湯治場として静養のためにある温泉ですから、客一人一人が静かにゆっくりと過ごすというマナーの元楽しめる旅館なのです。
外国人の小団体も宿泊しているようでしたが、皆さんとても静かに過ごしていて、日本文化をしっかりと受け入れているようでした。
時刻は15時半頃。日帰り温泉は15時半までだそうです。まだ陽の入りには時間があるので、もう一度外を散策散策〜。
本当に見事な秋晴れで気候も心地良く、浴衣で外を歩いてもちっとも寒くありませんでした。秋はいいですね〜。近年、夏が終わったらすぐ冬!みたいな気候に嘆いていましたが、秋の出血大サービスにむせび泣きそう。
再び館内に戻り、いよいよ温泉を探検しに行きます!
チラリと中を覗くと誰も入っていないようなので、写真を撮らせて頂きます。(宿の方にネットに掲載の許可を頂いております。いい風にアップしてねと言われました笑)
源泉掛け流しで新鮮な湯で全身を洗えます。とっても贅沢。その代わり元湯にシャワーはありません。身体は洗えますが、しっかりシャンプーしたければ外湯のシャワーで洗うのが良さそうです。一旦退散し、後ほど入りましたが、熱すぎずぬるすぎずちょうど良い湯加減でした。寝湯の枕が真っ平なので若干後頭部が痛いですが、タオルを置けば良い感じになると思います。平日の16時前後でしたが誰も来ないので、一人で贅沢に湯に浸かることができました。飲泉しましたが、えぐみは少ないですがしょっぱいので、ちょっと口に含んですぐ飲み込みました。飲泉の価値がわからんバカ舌です。
次は外湯へ向かいます。
外湯へは大正館を抜けて平成館へと進みます。
別館(平成館)は少し離れているので、長い渡り廊下を経由します。外湯の方にも玄関と受付と休憩スペースがあり、日帰り温泉客はこちらから入って外湯に向かうようです。
のれんの中を覗くと先客がいました。この先客が後に秘湯マイスターだと発覚するのですが、さすがに写真を撮るわけにいかず一旦退散します。
(朝6時から入浴可能なので、6時ちょうどに行ったら誰もおらず急いで写真を撮りました)
この臭い懐かしいなぁ、なんやろと考えると、小学生の頃嗅いだ少し錆びた鉄棒で遊んだ後の手のにおいや!と気づきました。またしても童心に帰る四十手前の主婦。
山田旅館のホームページで見る露天風呂の画像は男湯だそうで、開放感は男湯の方があります。その代わり、お湯が冷めやすく、女湯の露天風呂の方が熱めで長風呂できると聞きました。
景色が見事です!秋を全身で、文字通り裸一貫で感じます。先述の通り、少し身を取り出すと本当に丸見えなのですが、秘湯を愛する紳士淑女は覗き見なんてそんなはしたないことをしないのです。
この外湯で二人の淑女と出会いました。
「あらお若いのに随分と渋い温泉に来たのね、ご夫婦で?」なんてお上品な声のかけ方でしょう!
いえマダム、一人で参りました。
「まぁ!お一人で!素敵だわ」そうして紅葉を楽しみながら会話を弾ませます。お二人はK子さん、K美さん。S県T市に住む秘湯の旅の友なんだそうです。
K美さん「私はもう5回目の宿泊よ」
5回目!?!?
K子さん「K美さんはね、温泉のことならなんでも知ってる生き字引なのよ、知らない秘湯はないわ」
温泉生き字引!?!?
もしかして凄い方々と出会ってしまったのでは…K美さんは日本各地の秘湯を巡り温泉歴なんと30年!宿泊したその数なんと約700軒!!これまで宿泊した温泉の話を聞いている内に日没を過ぎて、ふと気づけば辺りは暗くなっていました。こんなに長い時間温泉に浸かったことがない私の心臓の限界が近かったので「お先に失礼します」と上がりました。「夕食の時またお会いしましょうね」そう言ってお二人はまだ湯から上がる気配はありませんでした、さすが秘湯マイスター…心臓も強ぇんだな…私は心臓をバクバクさせフラフラになりながら露天風呂を後にしました。
部屋に戻りしばし休憩した後、夕食の時間となりました。夕食は平成館にある大部屋で頂きます。
隣にはK子さんとK美さんがすでに座っていらっしゃいました。
「あら〜さっきはどうも。ねぇ、せっかくならご一緒しない?こっちへ来たらどうかしら」
そんな訳でお二人のそばへ引っ越しし、三人で食べることになりました。
料理はいっぺんに提供されるので、会話が弾むと熱々の料理が冷めてしまいます。しかし黙々と食べることはなく、三人であれこれと語らいました。特に二人のこれまでの温泉エピソードが面白くて、「全裸の混浴!?」「野生的な露天風呂!?」「雪上車で行く秘湯!?!?」私のそんな驚嘆の感想が止まりませんでした。一人旅は誰にも気を遣わず気ままに好きに旅をするのが魅力ですが、旅先の出会いもまた魅力ですね。知らなかった人たちの知らない歴史を垣間見て、いろんな世界に触れることができます。この後LINE交換してお友達になりました。
長野といっても日本海まで車で1時間の距離だそうで、山の幸も海の幸も頂けます。K美さん曰く「今日は海のものが少ないわね、時期によってはもっと多いのよ」だそう。今回は季節が秋なので、きのこや山の幸がふんだんに使われた郷土料理を楽しめました。
食後、再び外湯へ行くと言ってK美さんは颯爽と出て行きました。あんなに長く浸かっていたのに!?また?それも食後すぐに!?
K子さん「K美さんはね、どんなときでもああして必ずタオルを持ち歩いているのよ。いつでも温泉に入れるようにって。何時間も帰ってこなくて、何度か『喉が痛い、溺れかけたわ』って笑いながら帰ってきたことがあるの」
危険すぎやしませんか…?その入り方は大丈夫なのか…?素人の私には到底真似できない温泉の楽しみ方です。
かく言う私も夜の露天風呂がどんな感じか気になっていたので、部屋で休憩ののち外湯へ向かいました。
外湯はセンサーで明かりがつくのですが、動かずに静かにしていると自然と明かりが消えて真っ暗になります。月明かりの中、星を見上げて入る温泉は格別でした。初めての体験です。またそこでも長湯をしてしまい、フラフラになって部屋に戻りました。いつも旅では部屋で必ずお酒を飲みますが、はじめて酒はいらねぇポカリをくれと身体がお酒を拒絶しました。恐るべし温泉パワー。
心地よい疲労感に包まれながら就寝します。
この日、こころは「上・先生と私」までしか読めませんでした。先生の思わせぶりな発言と態度に「私」同様、もっと先生のことを知りたくなってしまいます。それにしてもこの「私」、先生のパーソナルな領域にグイグイ土足で踏み入りすぎじゃあありませんか?果たして先生のATフィールドを突破することができるのでしょうか。
翌朝。
だんだんと日の出が遅く感じる秋。まだ薄暗い5時半頃目を覚ましました。本当に静かな朝です。
6時に朝風呂に入り、7時半に朝食を頂きます。
最初からK子さん、K美さんと同じスペースに私の朝食も用意されていましたw
この日は、前日乗ってきた村営バスで南小谷駅へ向かい、そこから大糸線で白馬まで行き、白馬から長野駅を経由して善光寺に行く予定でした。
そのことをK子さん、K美さんに伝えると二人から嬉しい提案が。
K美さん「私達ね、車で来たんだけど、今日は戸隠へ行く予定なの。その前に、この近くに鎌池っていう所があってそこで紅葉見ていくんだけど、あなたも一緒にどう?白馬まで乗せてってあげるわよ」
そして秘湯マイスターとのドライブを楽しむことになったのです!こんな展開、全く予期していませんでした。どんなドライブになるのか楽しみです。
9時に出発するとの約束を受け、時間までラウンジでコーヒーと読書を楽しむことにしました。
物語の「中・両親と私」に差し掛かったところで、時間が来てお会計を済ませます。
ところで、この山田旅館は「秘湯を守る会」に登録されており、秘湯を守る会には御朱印帳のようなスタンプ帳があるとK美さんに教えてもらいました。3年間で秘湯を守る会に登録されている旅館に10箇所宿泊すると、これまで宿泊した宿の中から好きな宿に無料で一泊できるそうなのです。K美さんからは「あなたスタンプ帳は持ってるの?スタンプ押してもらいなさいよ」と強く勧められて、受付でゲットすることができました。
ちなみにK子さんはこのスタンプ帳が4冊、K美さんは70冊溜まったそうですw 思いがけず3年間で10箇所の秘湯に宿泊するというノルマを課され、毎回子供と夫に何て言い訳して一人旅に出るか悩ましいところw
まさに山の中の秘湯。
大自然と人の温もりに癒される素敵な旅となりました。
山田旅館は過度なサービスはなく、結構ほったらかしにしてくれるので、文化財という特別な空間の中にも実家のような安心感がありました。案外カメムシも静かにしてくれて、夜は他の宿泊客も早々と寝ていたのか、静寂に包まれ「静養」という名にふさわしい心穏やかな時間を過ごすことができました。
こころは帰りの列車の待ち時間でも読みきれず、結局自宅に帰ってから最後まで読むことになりました。1泊2日のお供にするには、私には分厚かったかもしれません。でもそれもまた良しですね。
次はどんな本と共にどこへ旅に出ようかな。
【番外編 : 秘湯マイスター淑女達とのドライブ】
K子さん、K美さんに誘われて「鎌池」までドライブすることになった私。一体どんな景色が待ってるの?ワクワクが止まらないよ⭐︎
二人の言う「鎌池」は、山田旅館から車で約15分くらい の距離にあるそうです。
蛇行する山道を掻き分け、鎌池に到着しました。
鎌池は駐車場から徒歩で5分ほどで見えてきます。一周約40分かかるそうで、写真映えする見晴らしいいスポットはちょうど20分ほど歩いて見えるとのこと。
トレッキングスタイルの人達がいいカメラを持って歩いているのも見えます。
木々の合間から池が見えますが、鏡のように反射して本当に綺麗でした。
鎌池の次は、雨飾荘という旅館のすぐ近くにある高原露天風呂を見学に行きました。
大自然の中の温泉…素晴らしいですね!
脱衣場に木箱があり、そこにお金を入れるようです。金額は気持ち次第とのこと。
K美さんは、山田旅館に泊まる際はここの露天風呂にも来て必ず入るそうです。
その後、白馬を経由して白馬山を眺め、スキージャンプ台を見学。
私のバスの時間を気にして弾丸のように次から次へといろんな場所に連れて行ってくれるK子さんとK美さん。結構走りました笑 それにしても運転してくれたK美さんの土地勘と時間管理の素晴らしさ…
バスの時刻にはちょうど間に合いそうだったのですが「善光寺まで乗せるわ!」とまさかのドライブ続行w
道中、笹で巻いたおやきのお店を紹介してもらいました。K美さんはご近所に配る分と頼まれた分とで、なんと100個近く予約していたそうです!全てが規格外の淑女です。
私も野沢菜、ミックス、かぼちゃ、ナス、ニラをそれぞれ2個ずつ購入し、家族へのお土産にしました。帰宅後、レンジでチンして食べましたが、うっすら緑がかったモチモチの生地の中に具がギッシリ詰まっていて、食べ応えがありました。
ドライブは終わり、またよければ、秘湯に一緒に行きましょう、そんな約束を交わして善光寺の近くで車を降ろしてもらいました。
初めての長野旅行は、紅葉真っ盛りの秋晴れに恵まれ、予期せぬ新たな出会いのおかげで、電車旅では行けなかったいろんな場所に行くことができました。K子さんとK美さんが言うには、長野には秘湯がたくさんあるから何度でも長野に来たらいいとのこと。確かに、今回の私の長野旅は北部に限定しています。広い長野!また鄙びた宿を求めて旅に行きます。
【番外編 : おわり】
『こころ』感想まとめ
帰宅後、無事読了しました。昔から読書感想文はあまり得意ではないので箇条書きで感想をまとめます。
・先生が生垣に小便したのに驚いた。昔は普通だったんだ…確か『三四郎』でも、冒頭に三四郎が電車から駅弁のゴミを捨てていたような。そんな時代があったのね。
・この時代の妻の呼び方、妻(さい)、細君(さいくん)って現代ではまず聞いたことないけど、何かまずい理由があるのか?結構好きなんだが…。
・「私」の先生に対する愛が凄すぎ。家まで押しかけた「私」に対して、当初「なんやこのウザいガキ」と思ってしまった…「私」をここまで惹きつける先生の魅力ってなんだろう、思わせぶりなことしか言わないのに。
・先生の外見は終始、お若い頃の豊川悦司氏かもしくは綾野剛氏で再現される。ミステリアスで影のある感じとか。
・「両親と私」のパートでは、当時の「イエ」というものの価値観がよくわかる。子は結婚して嫁をもらって親を養っていくものらしい。学生の身で嫁をもらう人もいると知って驚いた。
・「私はそんな時にはいつも動かずに、一人で一人を見つめていた」この表現素敵すぎん?
・先生の遺書より「その極あなたは私の過去を絵巻物のように、あなたの前に展開してくれとせまった。私はその時心のうちで、はじめてあなたを尊敬した。あなたが無遠慮に私の腹の中から、ある生きたものをつらまえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、暖かく流れる血潮をすすろうとしたからです」
この表現で、私がウザいと思っていた「私」の純粋な先生への興味・関心が、実は先生には嬉しかったのだと気づいた。無遠慮に懐に踏み込んでくる若さは先生には眩しく、それでも「私」になら過去を打ち明けてもいいよ命をもって、という畏敬の念が湧いたのだろうか。少し目頭が熱くなる展開だった。ウザいって言ってごめん。
・「香をかぎうるのは、香をたきだした瞬間にかぎるごとく、酒を味わうのは、酒を飲みはじめた刹那にあるごとく、恋の衝動にもこういうきわどい一点が、時間のうえに存在しているとしか思われないのです」この表現も素敵すぎん!?さすが「月が綺麗ですね」の人…
・「円い輪になっているものを一粒ずつ数えてゆけば、どこまで数えていっても終局はありません」これってゴールドエクスペリエンス・レクイエムのことじゃあ…。
・先生はKに対してもの凄くリスペクトがあったんだろう…なぜKを奥さんとお嬢さんの元へ招き入れてしまったのか…先生の罪はどこから始まっていたのだろう。
・乃木希典の自刃って当時の人でも賛否はあったらしい。物語では「私」の父の死の間際と先生の自死と、二つの局面を動かすきっかけとなっている。遺書より「乃木さんはこの三十五年のあいだに死のう死のうと思って、死ぬ機会を待っていたらしいのです。私はそういう人にとって、生きていた三十五年が苦しいか、また刀を腹へ突き立てた一刹那が苦しいか、どっちが苦しいだろうと考えました」先生にとってKの自殺は今後一生罪の意識に苛む苦しみであって、決して償うことのできない苦しみなんだろう。
・先生の遺書を読み終えた「私」は父の最期を看取ることができたのだろうか。この長い手紙は「私」にどう刺さったのだろうか。
・なんとも胸の苦しくなる話だった。先生には純粋、謙虚、傲慢、怯弱、エゴイズム、人間が持ち合わせるいろんな側面を集約しているような人だと思った。それが普通で、人間らしくあって、私にはKの方が異端に見えた。
・先生の罪を知らない妻は気の毒である。なぜか夫は芯から愛をくれない、そんな不満を抱えたまま未亡人になってしまう妻。「恋は罪悪ですよ、わかっていますか」先生の台詞だが、本当に罪悪である、先生を含めて誰も幸せでないのだから。
感想 : おわり
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