安住敦「古暦」

 しぐるるやといえば? 駅に? と聞かれることがあるならば、安住敦さんしか思い浮かびません。10句だけ。一句と一言やります。

てんと虫一兵われの死なざりし
 寄り添いの目。

雁啼くやひとつ机に兄いもと
 しみじみ(すまん)。

夕蛙いもうと兄を門に呼ぶ
 おにいちゃん! ちょっときてー。

しぐるるや駅に西口東口
 たくさん人がいるよ。

春の蚊や職うしなひしことは言はず
 少し暑くなったよね。

ランプ売るひとつランプを霧にともし
 っふ。

啄木忌いくたび職を替えてもや
 手を見ながら。

寝るまへの蛍に水をあたへけり
 おやす水。

妻がゐて子がゐて孤独いわし雲
 孤独沼。

水仙の枯れゆく花にしたがふ葉
 ともに土へ。


空間に感情漂ってます。心は体の外へというような感じ。いいなあ。(了)

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