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空區地車の力学 7.とばせ!もどせ!

「とばせ」「もどせ」は最高速度で往復する所作で、参道での「宮入」や、「住吉駅前のセレモニー時」などで行なっています。

「とばせ」は全速力で前進、「もどせ」でゆっくりと後進
これを奇数回繰り返す

地車の醍醐味は何といっても「とばせ」にあります。重さ4トンの地車が唸りを上げて全速で走る姿は勇壮です。観客も大盛り上がり。曳き手にとっても気合の入る瞬間であり、その速さを他地区と競い合いたくなるものです。
鳴り物もテンポアップしており、曳き手はテンションMAXになります。
しかし、重さ4トンの地車が一旦唸りを上げて走り出すとおいそれと止めることはできません。
命を落とす危険もはらんでいるのです。
ではどう対処すればよいのでしょうか?

地車の前の棒鼻に入っている曳き手
前の棒鼻の中に入っている曳き手は「とばせ」時の大きなエンジンになります。可能な限り全力でダッシュしなければなりません。しかし、猛スピードで後ろから地車がついてくるのですから、転倒したら地車の下敷きになり、命の保証すらありません。
棒鼻の中の曳き手は、両腕を絡めて、棒鼻から手を絶対にはなさないこと!万一足がもつれても、棒鼻に中吊りになれば危険は回避できます。しかしその手を離すと地車の下敷きになります。
空區地車の場合、前の棒鼻内に3名×2列の6名が入って曳くことが多いのですが、転倒の一番の理由は「後列の人が前列の人の足を踏む」もしくは「前列の人が後列の人の足を踏む」ことでつまずくのです。
つまずき倒れれば地車の下敷きになります。下敷きになりたくなければ棒鼻にしがみつく。そのために下図の様に指を絡ませた上、腕で棒鼻にしがみつきながら曳くのが、地車前の曳き手が自らの命を守る唯一の方法なのです。

棒鼻の中の曳き手は両腕を絡めて棒鼻から手を絶対にはなさない!

しかし最も危険なのは、棒鼻の先で綱を持つ曳き手です。綱をできるだけ長く持って、地車の通過するゾーンの外から曳きます。万一コケてしまっても地車の外に倒れれば命は助かるでしょう。絶対に地車の進行方向ゾーンで曳いてはなりません。

棒鼻の先で綱を持つ曳き手は、綱をできるだけ長く持って
地車の通過するゾーンの外から曳く!

足を滑らせることもあります。衣装が絡むこともあります。綱をうまく使って、上図の斜線ゾーンでは絶対に曳かないようにしてください。自分は大丈夫という思い込みが最も危険なのです。

曳き手にとって最も楽しいが最も危険
ヤバいよ、ヤバいよ!

前の両サイドと後ろの両サイドの曳き手
地車はまっすぐ進みません。したがって「とばせ」の最中も方向修正を行ない、常に道路の真ん中を地車が走るように誘導します。

地車の前と後ろの両サイドの曳き手は曳くのではなく
常に道路の真ん中を地車が走行するよう方向修正役に徹する

「とばせ」では曳き手は前に進むことに熱中してしまい、地車の進行方向に気がいかなくなっています。また、自分の位置からはまっすぐに地車が進んでいるかもわかりにくいものです。その点、かき棒を持つ前両サイドの曳き手は、かき棒に顔を近づければ地車の進行方向がだいたいわかります。前両サイドの曳き手は、「とばせ」に熱中するのではなく方向修正こそが役割です。同時に後両サイドの曳き手も方向修正が役割です。後両サイドの曳き手は、自分の前の曳き手とは逆方向の力をかけて方向修正役に徹します。ただし、地車はスピードが速ければ速いほど小さな力で方法修正が可能です。そのため前後両サイドの曳き手は地車への力加減を理解している人がやる方が賢明です。

止まれ
指揮者の指示に従って停止位置で止まるよう曳き手は力を合わせます。停止位置よりもだいぶ手前から足を踏ん張ってブレーキをかけないと、重さ4トンの地車はそう容易に止まるものではありません。

勢いづいた地車を全力で止める

もどせ
「もどせ」の囃子にあわせてゆっくり元の位置まで戻ります。その間に鼻で大きく呼吸をして、息を整えます。口呼吸すると過呼吸になり、次のとばせで息が切れます。鼻から大きく吸って鼻から吐く、この繰り返しで呼吸を整えながらバックします。
「もどせ」の間に、前と後ろの両サイドの曳き手は可能な限りの方向修正をして、地車を道路の中央に誘導します。

とばせ
再び、「とばせ」の囃子でスタートします。「とばせ、もどせ」は、曳き手の数にもよりますが、通常3回、気力が充実していたら5回、7回と奇数回行ないます。

「とばせ」という掛け声に曳き手は気合が入る
有馬道のような急な上り坂が続く時や、交通量の多い国道2号線や国道43号線、山手幹線の通過時は、渋滞を避けるため「とばせ」と声がかかることもあります。ただし、「もどせ」はありません。あくまでも渋滞を避けるための処置です。
また、5月5日のパレードでは前の地車に追いつくための処置として「とばせ!」の声がかかることもあります。地車と地車の間が空きすぎると左右から入る車の渋滞になるので、あまり間が空きすぎると「とばせ」と指示がかかるのです。
また、曳き手の疲れが目立つ時などは「合を入れなおす」という意味合いもあり「とばせ」と声がかかることもあります。
とにもかくにも「とばせ!」の掛け声に無条件で気合が入ってこそ、だんじりバカといえるでしょう。要領は上記❶❷と同じです。

「とばせ」で轟音を立てて走る地車はアッという間にはるか彼方に!

曳く時の姿勢や呼吸法、危険回避についてはとても重要なので、別章で取り上げたいと思います。

#神戸市東灘区 #空區地車 #空區

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