空區地車の力学 8.「ちどり」と「まわせ」
曳き手が最も盛り上がるのが「とばせ」なら、「ちどり」と「まわせ」も地味ですが負けず劣らない面白さがあります。
❶ちどりとは
酔っ払いがフラフラと歩く様を千鳥足(ちどりあし)といいますが、地車の前輪を上げて後輪だけで大きく左右に蛇行させて進むことを「ちどり」といいます。
前も後ろも曳き手全員が力を合わせ、芸術的な動きをしなければならないので、そうそう行なえません。またそこそこの道幅があった方が安全なので、空區では宮出の時や有馬道を上る時に行なっています。
❷ちどりの作法
まず、地車の後ろの両コマをテコでロックします。次に後ろの棒鼻に入っている曳き手は地車に乗ったり、地面方向に力をかけて、地車の前が浮きやすいようにします。
地車前の曳き手は肩を入れて「しゃんとせ~」の掛け声で前輪を浮かし、後輪のみで走行を開始します。(ウイリー状態で前進)。
平坦な道での「ちどり」では、前の曳き手と後ろで曳き手で十分な推進力になります。しかし空區の場合は有馬道商店街で行なうことが多く、上り坂の「ちどり」なので綱を曳く子供会の力が大切です。子供たちだけでなく同伴している方も綱を持って曳かなければなりません。
前の左右両サイドの数名と後側の左右両サイド数名以外の曳き手は前方向に力をかけて進みます。
地車が進み始めたら、前の左右両サイド数名と後ろの左右サイドの数名が地車を押し引きして、地車を道路いっぱい使って左右に大きく揺さぶります。まるで酔っ払いの千鳥足のように、地車を蛇行させます(上図)。
しかし、チドリ中に地車が止まって前に進まないことがあります。その時は地車を左か右に振ってやると、後輪に僅かに推進力が生まれて前に進み始めます。ただ前に押すのではなく左右に地車を振ってやると意外に簡単に地車は前に進みます。
❸「ちどり」での危険ゾーン
後輪のみで走行するので、地車はちょっとした力で大きく左右に動きます。地車の前後の両サイドの曳き手は、地車が急に振れて壁などに挟まれる危険性があります。歩道の場合は縁石につまずくこともあります。鉄のマンホールもスリップしやすいので要注意です。
ほとんどの曳き手は夢中になっているので、四隅責任者は細心の注意を払わなければなりません。
また「ちどり」の最中は、電線や木の枝、軒先が屋根方を襲う可能性もあります。屋根方も踊りに熱中しているので屋根頭は屋根方の安全に注力します。
「ちどり」がうまく行なうためには、曳き手の数があり、モチベーションが上がっている、動きを理解している曳き手が各パートにいるなど、条件が揃っていなければなりません。1回か2回で終わるようでは様になりません。少なくとも5~6回以上ちどれなければ、やらない方がマシかもしれません。イキ、イナセもまた祭りの必須事項です。
❹まわせ
本来は右折を行なうために前輪を持ち上げたのに、そのままクルクルと右回りに何度か回す所作です。この所作は宮入の時に行なうものですが、交差点で右折時に「まわせ」と声がかかることがあります。あくまでも広い道幅の右折時のみで、左折時に声がかかることはありません。
しかし、交差点での旋回なので、危険も伴います。このような指示する四隅責任者はベテランでのノリの良い方です。道路幅、曳き手の技量などを鑑み指示が出されるのですが、私が最後に体験したのは15年ほど前で、めったいにない所作です。
余談になりますが、地車わまわす時は右回りしか許されません。それについてはいずれお話ししましょう。