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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#宮入

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学その85.宮入りで空區地車にGoProが付く

今年は若い新人が多く参加していたので、宮入りが上手くできるか、宮入りを待つ国道2号線の手前で私は痛く心配していた。 なにせ、空區の宮入りは私の知らない遠い昔から「住吉一、美しい」と言われ続けており、いまだに生きた伝説として引き継がれている。 今年は本住吉神社の西側に「東灘だんじりミュージアム」が完成するので、館内で上映される記録映像の制作が粛々と行なわれている。 そのワンシーンとして宮入りの美しい空區地車にはGoProと呼ばれる小型カメラが取付けられていた。 GoProは録

空區地車の力学その81.2024年5月5日本住吉神社例大祭・本宮

あんなに晴れやかだった桜の花はすっかり散り、木々からは緑が芽吹き、南からの温かい風に乗って緑の匂いが六甲の山に向かって昇っていく。 昨日の宵宮は晴天で、地車を曳くと心地よい汗が吹き出す陽気だった。 にもかかわらず五月五日、本宮の朝は空気が冷たい。 しかし、宮出しの正午になると風はなく、晴れ渡った空に雲ひとつない。 と、ライブ的に書いているが、このブログを書いて、UPしたのは9日だ。 まだ仕事が現役の私には祭りの余韻を味わう時間もなく、7日は通常勤務。いつも通り朝5時に起き

空區地車の力学その79.2024年度の巡行コース

2024年度の例大祭は、住吉地車にとって大きな節目の年になる。 まず一つ目は、反高林區の地車が平成29年度より使われている子供地車と呼ばれる小型から、本年5月の例大祭では大型の地車にリニューアルする。初代地車は本体に比べて、曳き手が入って曳く「棒鼻(ぼうばな)」が異常に大きいが、2代目地車は本体と棒鼻のバランスが良い。 初代地車は小型故に、2〜3人の大人が本気で力を入れると地車の方向転換は行なえただろうが、リニューアルされた大型の地車ではそういう訳にはいかなくなる。 勾欄(

空區地車の力学その71.プチっと音がした。

私は大学生のとき左膝靱帯断裂で約3ヶ月入院した。 左膝靱帯4本のうち3本を切り、繋ぎ合わせる大手術だった。その後、約9ヶ月間リハビリを続けたが、正座は今日に至るまで出来ないでいる。以降、左脚を庇う右脚に相当の負担をおかけしている。 結婚し、長女、次女を授かり、長女が高校生だった時、父兄リレーに駆り出された私は1回目の肉離れを経験した。右ふくらはぎだ。 プチっと音がした。 ただただ父としての役割を全うするため父兄リレーに出場して、1回目のプチっ!となった。 その後約1ヶ月間、「

空區地車の力学その69.空區の宮入りは神がかっている

かって空區の地車は住吉一の巨体だったが、最近は地車の巨大化が進み空區地車と肩を並べる地車も増えてきた。 そもそも地車は神社の所有物ではなく、氏子が作る氏子の所有物なので、地車小屋に入るギリギリの大きさにしたくなるのが人の性。 こうして大きくはしたものの、巨大ゆえに持て余すこともある。 例えば宮入り。 神殿の前まで進んだ地車の前を持ち上げ(前輪ウイリー状態)、3回上げ下げを繰り返し、そのまま前を持ち上げた状態で時計回りに回す。その間、前を下ろしてはならず上げたまま時間内可能な

空區地車の力学その68.地車は体格・実力主義!これは不公平ではない!!

5月5日の宮入りは1年に一度、運が良ければ神と出会える日。 しかし、この日は最も観客の多い日でもある。 したがって、不謹慎な若中は、観客に酔いしれ目立つことだけを考えてしまう。しかし、重さ4トンの地車の前を上げたまま、何十回となく落とさず回さなければならず、いくら不謹慎な若中とはいえ、否応なく汗だくになって必死で、担ぎ、回すしかない。 一日中曳いても塩を吹くこともなかった法被が、汗でぐしょぐしょ、ヨレヨレになる。宮入りが終われば見事に帳尻が合う汚れた法被となる。昼間サボった若

空區若中の力学59.2023年度例大祭〜5月5日本宮〜

5月5日。 4日が前日祭(宵宮)で、今日は本祭り(本宮)だ。本日も晴天なり。 かっては本住吉神社例大祭は5月12-13日で行われていましたが、平日開催だったので祭り好きな一家は仕事を休むわ、挙句に子供達まで学校を休ませるわで「いかがなものかと」という事になり、人間さんの都合で神さんの降臨を5月5日に変更していただいたという次第です。 毎年、5日のスタートである宮出は正午から。そしてゴールの宮入は19時から。8台の地車が無事地車小屋に収まるのは21時頃になります。 毎年同じ

空區地車の力学 9.「三礼」シャントーセー

「三礼」は、頭を下げて敬意や謝意を表すことで、祭りでは地車を使って表現しています。 ❶三礼の作法 まず、後ろのコマ2輪をテコでロックします。 後ろの曳き手は棒鼻やかき棒に乗って”重し”になります。 「しゃんとせ」の掛け声で前の曳き手が地車の前を可能な限り持ち上げます。そこで一旦キープします。前の責任者がうちわを使って棒鼻やかき棒をパンパンと打ち付けたら、静かに肩の高さまで下ろします。この時前コマは浮いたままの状態です。 上げた棒鼻が肩についたら、もう一度棒鼻をめいいっぱい上

空區地車の力学14.宮入

ではいよいよ祭りの本番「宮入」の所作です。 本来は夜の宮入が提灯も灯り美しいのですが、解説するには見えにくいので昼間の宮入写真を使います。 (1)宮入 5月4日は宵宮といい、「明日5日(本宮)に神様が降臨し町内の家内安全を祈祷してくれます。明日は本住吉神社にお集まりください」という御触れを町内を練り歩いきます(町曳きともいう)。宵宮では地車が神社を出ることを「蔵出」といい、入ることを「蔵入」といいます。 そして5月5日本宮では、正午に宮出(みやだし)で降臨いただいたご心霊を