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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#四隅責任者

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学 その63.安全の先に安心がある

大型の土木工事現場に行くと「共同企業体=JV(joint venture)」という看板を見かけます。JVとは、一つの工事を施工する際に複数の企業が共同で施工するための組織のこと。 この組織をまとめるのが現場監督です。 ちなみに現場監督が作業員の手伝いをすることはありません。手伝えば人工(にんく=1日仕事をした時にかかる人件費)が1人分浮きますが、それでも決して手を出さないのが原則。現場監督には現場監督の仕事があるからです。 現場監督の仕事とは、所属の違う会社から集まった多くの

空區地車の力学62.声を出せ!

地車にはハンドルがありません。にもかかわらず方向修正や方向転換ができるのは地車四隅につく4人の四隅責任者の指示があるからです。 四隅責任者が右にと言えば、曳き手全員が右に行くための力を地車にかける。四隅責任者に対する絶対的な信頼があるからこそ曳き手は一丸となって指示に従い、重さ4トンのハンドルの無い地車が縦横無尽に動くのです。 四隅責任者は地車最前方に位置する指揮者の指示で、身振り手振りに加えて大声で指示を出します。 しかし、鳴り物の鳴り響く地車横で指示を出すには自信に満ち

空區地車の力学55.マンホールはヤバいよ

空區地車のコマ(=車輪)には木製のコマの周りに鉄のワッカが装着されています。これにより木製のコマを痛めることなく、かつ推進力を落とさないのです。 道路には鉄製のマンホールがあちらこちらにあります。 当然のことながら地車の鉄製のワッカが、鉄製のマンホールの上に乗ると滑ります。モーレツに滑る!!怖いほど滑ります!!! ❶どういう時に曳き手は滑りやすいのか? それは、踏ん張る時です。 例えば張りながら一気に旋回する時。ハンドルにない地車を強引に方向転換転させるので、足が滑る。ま

空區地車の力学 2.地車にはブレーキがない

地車にはエンジンもハンドルもブレーキもありません。 すべて人力。始動も停止も増減速も人の力で行ないます。 唯一、自動車についている駐車ブレーキ(パーキングブレーキ)に当たるのが「テコ棒」で、4つのコマにそれぞれ1本づつ、計4つ付いています。 ❶テコ棒は駐車ブレーキ 「テコ棒」は駐車ブレーキですから、地車を止め置くときに使います。目に見えなくても地球は丸いので、駐車ブレーキをかけずに地車から離れるとひとりでに動くこともあります。いったん動き出した地車を止めることは一人や二人の

空區地車の力学 3.地車にはハンドルがない

その2ではブレーキがないことを書きましたが、その3ではハンドルがないことを書きます。 地車の各部名称 その前に地車の各部を確認しましょう。 上図のように神戸型の地車は「土呂台(どろだい)」という土台に4つのコマがついています。土呂台の外側にコマが付く「外ゴマ」は神戸型独特のものです。一方、大阪型といわれる地車は土台の内側にコマが付く「内ゴマ」となっています。 また、空區地車は「かき棒」の下に「棒鼻(ぼうばな)」が付きます。通常は「棒鼻」の上に「かき棒」がくるのですが、逆に

空區地車の力学 4.角を曲がるには2つの方法がある

ハンドルがない地車が角を曲がるには、「肩を入れる」と「張る(はる)」の2つの方法があります。 ❶肩を入れる 「肩を入れる」とは、前の曳き手が地車の前輪を持ち上げて、ウイリー状態で地車を旋回させる方法です。 四隅責任者から「肩」と指示されれば、地車の前の棒鼻に入っている曳き手はしっかりと肩を入れて地車を持ち上げます。 この時、後ろの曳き手は、地車後ろの棒鼻に乗り、体重をかけて地車の前が上げやすようにフォローします。いわばシーソの要領です(下左図)。 前輪が持ち上がったことを確

空區地車の力学5.角を曲がる方法➀ 肩を入れる

神戸型地車(後述)が角を曲がるには、「肩を入れる」と「張る(はる)」の2つの方法があります。 地車に負担をかけないのは「肩を入れる」です。また、直角にも鋭角にも曲がれるので狭い道路、特に塀や電柱など障害物が迫っている曲がり角では「肩を入れる」のが有効です。 ❶「肩を入れる」時の四隅前の責任者からの合図 地車は指揮者を先頭に、子供会の綱、地車の順に進みます。指揮者からは、事前に「この角を曲がる」と四隅責任者や屋根頭に合図で指示されています。その合図を見た前の曳き手も進む方向は