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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#ふるさとを語ろう

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学その80.2024年5月4日本住吉神社例大祭・宵宮

かなり危ない系の恋愛ドラマで「恋愛はするものではなく、落ちるもの」という常套句がある。 祭りは見るものではなく、当事者として参加しないと本当の醍醐味はわからない。しかし一度参加してしまうと、ほとんどの人は魅了され、熱に犯されてしまう。 合う、合わないは相性の問題だが、一度参加して、次も出たいとなったら、もはや完全に落ちている。 まさに地車は「見るものではなく、するもの。そして、するものではなく、落ちるもの」だ。 ここに集う若中は、みな地車に落ちた人々だ。 地車には、市井の人

空區地車の力学その79.2024年度の巡行コース

2024年度の例大祭は、住吉地車にとって大きな節目の年になる。 まず一つ目は、反高林區の地車が平成29年度より使われている子供地車と呼ばれる小型から、本年5月の例大祭では大型の地車にリニューアルする。初代地車は本体に比べて、曳き手が入って曳く「棒鼻(ぼうばな)」が異常に大きいが、2代目地車は本体と棒鼻のバランスが良い。 初代地車は小型故に、2〜3人の大人が本気で力を入れると地車の方向転換は行なえただろうが、リニューアルされた大型の地車ではそういう訳にはいかなくなる。 勾欄(

空區地車の力学その78.無手勝流にもほどがあるが「神功皇后生存説」を私は支持する

私が所属する空區地車は、神戸市東灘区にある「本住吉神社」の例大祭(神事)で巡行しています。 「本住吉神社」の祀神は、住吉三神といわれる底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)と、息長帯姫命(おきながたらしひめのみこと=神功皇后・じんぐうこうごう)です。 このブログの『その37.平仄に合わなくても「神功皇后生存説」を信じる!』でも書きましたが、今回も神功皇后について。 そもそも現在の歴史家の間では、初代の神武天皇から

空區地車の力学その76.神は細部に宿る

かって若中頭が祭り前の挨拶で何気なく発した 「今日は思い切り暴れましょう」と発した挨拶に 「アイツは何もわかってない」と 怒った大先輩の年寄り(若中の重鎮)がいました。 何故怒ったのでしょうか? 「神は細部に宿る」と言う言葉があります。 私がまだ駆け出しの頃、先輩に言われた言葉です。 「モノづくりにおいて細部まで気を配り、力を注いでこそ モノは目指した形になる。一つひとつ丁寧に積み上げろ、 神は細部まで見ているぞ!」という私に対する戒めの一言だったのです。 神が悪魔になっ

空區若中の力学その75.ハレとケ。

古来、日本人は日常を「ケ」、お祭りや年中行事を行なう日を「ハレ」と呼び、日常と非日常を使い分けていました。 ここ神戸市東灘区に住む者にとって、お正月やお盆、節供などの節目となる儀礼以上に特別な「ハレ」の日は「本住吉神社例大祭」です。 ちなみに地車の方向修正の時の掛け声は「ハレ(張れ)」です。意味合いは「張れ!張れ!張れ!」の掛け声で、地車を引く若中全員に力が入り、ハンドルの無い地車はコマの軋み音と共に方向転換します。 「ハレとケ」のハレとは意味合いは異なりますが、「ハレ」