勇者よ しずかに 眠れ



11月30日。49歳になった
夫がそのお祝いに京都の
「 イル・ギオットーネ 」へ
連れていってくれた

お店は、清水寺のふもと
五重塔を左に折れるとある

ランチを食べ
美味しさで充たされたあと
人でにぎわう清水寺前の通りから
一本入ってみた

人の気配がなく、静かで驚く
しばらく歩くと、右手にお墓
前には、苔むした石の階段
その奥に、小さなほこら

お墓の前の石碑には「 維新の道 」と書いてある

読んでみると
龍馬が、京都の寺田屋で亡くなった後
この先で弔われたそうだ


「 行ってみようか 」

石段をのぼり、ほこらに着いたが中には入れない
ほこらから少し離れた道路沿いに
龍馬の墓への道すじが書かれた看板
10分ほど歩くとたどり着いた

霊山護国神社
広い
龍馬以外にも、たくさんの戦勇が
眠っていることがわかった

参拝をしようとご神前へ
賽銭箱の前を
大きくS字を描きながら
右へ、左へ。
ヨロヨロと歩いている蜂が一匹

「 蜂さんも、お詣りにきたんだね 」
夫が微笑みかけ、神さまに手を合わせた瞬間
蜂が夫の足下にまっすぐ向かってきた
「 あっ。踏まんといて!」
とっさに声が出た私

「えっ?」
その瞬間、蜂は右足の靴にのぼり
ズボンの隙間から入ってしまった

「 え? なんで来るまえに 教えてくれへんの?
  … イ、イタッ!」
放心状態の夫
見ているだけでどうしたらいいか
わからない私

夫は、ズボンの上から蜂を手探りで
追い出そうとしたけれど
どこにいるかわからず青ざめている
あわてて神社のお兄さんに
トイレの場所を聞き向かう

「 蜂、おったん?」

「 おらんかった 」

「 痛い?」

「 うん 」

一度刺すと、蜂は死ぬというのに
なぜ、何の危害も加えていない夫を刺したのか

ヨロヨロと歩く姿をみて
「 もう死にかけている 」と思った私
だから、攻撃してくるなんて想像もできなかった



今度は、蜂の身になって考えてみた

あの蜂は、もう充分戦い
「 龍馬の墓で天逝を全うしたい 」
そう願ったのではないか

そこに、平和な人間が訪れた( ←夫)
「 この人なら大丈夫 」
そう感じたのかも知れない

夫の、白くて 柔らかいふくらはぎの
チョンと刺された跡を見て
なんとなくそんな気がした


「 蜂にさされるの2回目やねん。
 アナフィラキシー・ショックで死んだらどうしよう?」

「 ごめんね。蜂が来てたの知ってたのに、言わへんかって。
  これからは、私がげんちゃんを守ってあげるからな 」


しょんぼり顔の夫の背中を抱き
感慨深いきもちで坂道を降りた

あの蜂は、今ごろ天国で
夫に感謝しているかも知れない

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