見出し画像

56、「ダメンズ、これがオレか」と 思うとき

世は、ダメな男を「ダメンズ」という、名言である。
私をどちらかに世間風に分類するならば、間違いなく「ダメンズ」の一人である。変わっていてしかも捻(ひね)くれているのである。
こんな私を地球という星・日本という窮屈なエリアで生き永らえさせてくれた、妻および何名かの女性にただただ感謝しかない。親は極めて優秀に生んでくれたにも関わらず、途中も最後の出来もこんなものなのだから、親にも周りにもひたすら「ごめんなさい?」である。半端な物書き志望崩れの成れの果てのしかも残骸・残渣が今の「オレ」なのである。
昨今のテレビで「この女(ひと)はダメンズを敢えて好きになるタイプ」と思える女性を見かけると、お気の毒と思うと同時にこの女性によって何人かの男が救われると思うとほっとさせられる・・・。
さて、私の80年余を振り返っての結論を言えば、「ダメンズを作ったのは、文学であり哲学である」というよくある話の類いであり、ダメンズの宝庫は、文学と音楽と演劇の3虚業ということになる。以下は、ダメンズまっしぐらの、こうあってはいけない「反面教師」の教材にもなる話であり、目を止めていただければ幸い、の気持から書き留めるものである。
<本との出会い>
1943(昭和18)年生れの私は、敗戦後の欠乏時代、知の源泉の本すらまともに出版されず、幼年時、屋根裏に山のように残る戦前出版の「講談社の絵本」を舐めるように何度も何度も読み漁った。例えば、懐かしい「木村重成(きむらしげなり)」「岩見重太郎(いわみじゅうたろう)」など知る人もいないであろう。これが、それしかない幼年期の本との出会いであり、娯楽本へ熱中の幼児にして将来のダメンズ候補への出発点になった次第である。
<詩歌との出会い>
やがて、思春期前期の詩歌との出会いとなるが、この伏線は、同級生の家に遊びに行った際出会った同級生の兄が購読する雑誌「りべらる」にある。この刺激の強い雑誌が小学生の精神に革命を起こさないはずがない。勉学へではなく、その後の近代詩・現代詩への耽溺は、正にこの「りべらる」に始まる。(ただ、勉学ダメの劣等生だったわけではなく、小学生時代にあったIQテストでは、今では内容と意味が不明ながら「50年に一人のIQ」と当時の担任教師から聞かされていたとのことだが、天狗にならないようにと配慮から後に社会人なってその話を母から聞かされた。そのまま高いIQを引っ提げてひたすら勉学に勤しめば良かったものを、道を外してしまったことになろうか)
<読書こと始め・哲学こと始め>
大学での本格的な読書は、道元の「正法眼蔵」と中村元博士の「東洋人の思惟方法」に始まり、これが感性・思想の根幹をなすことになるのだが、これとてお勧めの読書ではなく、原論的なものに興味は持たない方がいい。
大学では経済学部で学ぶことになるが、実学を重んじる旧制官立高商系の後身の経済学部のため、民法と商法は必須科目であり、文学・哲学に加え、経済学・法学を学んだことは、「ダメンズ」にとっては即効性があり、後に飯のくいっぱぐれだけは避けることが出来た。
とはいえ、大学4年間は「ダメンズ全開期」であり、ダダ、シュール、アンチロマン、アンチテアトルは勿論、当時流行りの日本作家の文学全集は手当たり次第に読み尽くした。更に、カールマルクス、構造主義、フランス系哲学まで手をのばし、雑誌の文学界・群像・思想・思想の科学、日本読書新聞他にも目を通すというクレージーにして厖大な「ダメンズの仕込み期」になってしまった。
<ダメンズの社会始動>
こんな仕込みをしてしまった以上、社会人になったダメンズがまともな精神界を生きられるはずもない。当然三度の飯のため後に家族のために頑張りはするが、時間が少しでも空けば「精神の悪さ」を志向しても何の不思議もない。「仕込みの原資」が疼(うず)いて「ダメンズ」をやれと急(せ)かすのである。「やり切れない寂しさ・わびしさ」の持て余しの結果が、やれやれ夜の街巡りである。こんな申し訳ない、さ迷いの社会人人生を30年余も送ることになったが、人にお勧めできる代物では決してない。
生きていりゃ女の叢に顔を埋めてワンワン泣きたいことだって沢山あるし、それとすぐ嗅ぎ分けられる「世渡り下手同士」の女たちの乳房や添い寝のひと言に慰められることだってあって当然である。ダメンズには、甘え癖・甘え上手が身についてしまう。ダメンズ流儀として、ダメの内容開陳の道もないではないが、恥の上塗りであり想像に任すことにしたい。
<趣味の発見>
幸い、定年後、趣味という便利な精神の救済方法を見付け、長い長い遍歴を経て、ようやく「精神のデカダンス」に別れを告げることが出来た。
趣味の世界は、他人にクドクド告げるものではない、この辺で我が人生の駄弁コーナーも終わりにしよう。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?