指切りげんまん



 『指切りげんまん、うそついたら針千本の~ます。指切った』子供の頃、約束をする時に行った一種のパフォーマンス。大人になるとそうたやすく指切り出来ないほどに、約束する事は難しい。もし約束を破ったならば、友情も信頼も失って、「うそつき」のレッテルを貼られてしまう。だからなのか、守れない約束はしない、針千本飲むチャレンジを頭の中で回避できる分別ある大人になった。
「ばーば、今まで針千本飲んだことある?」
 四歳の孫由乃が、真剣な眼差しで聞いてきた。針千本なんて、現実に飲めるわけがないから、「飲んだことないよ」と答えるべきだ。けれど、かんたんに約束を破る子になって欲しくない。
「あのね、ゆびきりげんまんのげんまんって、一万回殴るって言う意味らしいよ」
「何それ?」
「一万回殴られたり、針千本飲まされたりするぐらい約束を破ることはいけませんっていうこと」
 由乃は痛そうな表情をみせる。
「ばーばは、約束守れなかったことある?」
「そうだね、由乃にはちょっと難しいかも知れないけど、じーじと離婚したことかなあ。添い遂げるって約束を守れなかった……」
「じゃあ、痛かった?」
 離婚の時、チクッと刺されたような胸の痛みを思い出す。
「由乃、ばーばと約束守るゆびきりしようよ」
「うん、どんな約束にする?」
「ご飯の時は、ユーチューブを見ない」
「わかった。できるできる」
 由乃の小さな小指を大事に絡ませて、笑顔溢れる毎日が送れますようにと願いながら、
「嘘ついたら針千本の~ます。指切った」

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