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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その60

坂木刑事は、近頃できた小さな貸別荘のベランダに籐椅子を出してうたた寝をしていた。
そこへ自動車の音がしてやって来たのは五十部警部だった。
「坂木君、せっかくお休みの処申し訳ない。僕もこの近くに散策に来ていたんだがね。この少し先のXX川で、一時間ほど前に遺体が上がったんだよ。一緒に来てくれないか。第一発見者から事情を訊きたいんだ」
「今朝から、風も無く蒸し暑くて困っていたんです。そこでまた事件ですか?事故なんでしょう?」
「さぁ、それはどうかな?」
五十部警部と坂木刑事は自動車でわずかな時間走り、XX川の川幅が広くなっている岸の場所で止めた。
そこには岸に横たわった遺体と、第一発見者の磯谷典子がいた。
「このホトケさんに面識があるそうですね」
と五十部警部がいった。
「ええ、この人は佐藤健司さんだと思います」
佐藤が倒れていた場所は乾いた河原の石が広がる岸であった。
 
その遺体の額には赤黒い弾痕があった。
「彼はここで撃たれたんですか?」
「私、今、向こうにある小さい帆つきの小舟で、海の方から川を遡っていたんです。それで双眼鏡で岸の景色を見ていたら、佐藤さんが泳いでいるのが見えたんです。そしたら、岸へ上がろうとして、佐藤さんが急に倒れたんです。彼がどうやって倒れたのか、その辺はよく憶えていないんです。慌てていたのです」
磯谷は震え声で語った。
「それで、あなたは小舟を岸に寄せて近づいたんですね」
「はい。…それでどうしようかと思っていたら、道の方から車が近づいてくる音を聞いて、それで警察を呼んでもらおうと夢中で車の方へ走っていきました」
その自動車を五十部警部は運転していたのだった。
「双眼鏡はどうしました?」
「慌てていて、川に落としました」
磯谷典子を坂木警部にまかせ、五十部警部は付近に薬きょうや足跡が無いかを調べたが、痕跡は見当たらなかった。
額の真ん中に命中させているのだから、ライフルが使用されていたとしても、それほど離れて撃たれたはずはないと考えたが、違っていたようだ。
五十部警部の脳裏にはすでにある疑惑が広がっていた。
 
それは何かな?

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