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穏やかなる日常(短い小説)

19歳、少年と呼ぶのか青年と呼ぶのか微妙な年齢。法律的には成人してるので青年なのか、しかし見る人の感覚によっては簡単に少年にも転がる。
「まぁまぁ童顔って言われるしな…」
童顔寄りの男が平日の昼間っから駅前の噴水付近をウロついてるのを周りの人々はどう見るのだろうか、どうだっていいが多少考える。思い悩む程ではないが何となく適当に気を配る素振りをする、見栄えというのは多分そういうものだ。

「…あ、ヤベッ!」

噴水の塀に腰掛け鳩にエサをあげる中年の男が声をあげ焦り出す。それを見た周囲の人々は一瞬そちらに顔を向けるも直ぐに日常へと顔を戻す。

『メキメキメキメキッ…!!』

エサを喰らった鳩の一羽が音を立て肥大し、限り無く理性を超越した形態へと変貌する。

「またやっちゃったよ…キメラ..。」
この街ではよく生物がキメラと呼ばれる突然変異を始める。トリガーとなる条件は様々で、今回は〝酵母菌を接種する事〟だったらしい。

「おっちゃん何やってんのさ」         
                       「..あぁ少年、まさかパンくずでこうなるとは….」
大きく発達した筋肉、血走った眼、最早飛び方など覚えてはいないだろう地上になじんだ風体が伺える
                       「..なるほど、おっちゃんは少年タイプか。」
「ん?」
気になるのは鳩よりも見え方、なんとはなしの普段の差違。周りの連中も鳩を一切気に留めてはいない
「今業者呼ぶよ、おっちゃん」
スマホを取り出し電話をかける。数分後には駆除業者が現れ、捕えるなり鎮静なりを施してくれる。 
                       「気をつけなよ?
幸せの象徴ったって機嫌悪いときがあんだからさ」
青い鳥の扱いを少し注意して立ち去ろうとした。 
                       「ま、待ってくれ少年!」
しかし直ぐに男の声で足を止めされられる。   
                       「なに?」                  
                       「いや、さっきから気になってたんだけどよ….俺ってそんなにオッサンに見えるか?」
                       「……へ?」
突然の質問。変異にしては違いが薄い
                       「いやよ、さっきからおっちゃんおっちゃんって少年が呼ぶもんだからよ。俺..まだ25だぜ?」    
                       「……あ、そうなの..?」
そのとき始めて気が付いた
自分が〝おっちゃんタイプ〟だったという事に。

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