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史実の福地さんについて知ってもらいたいこと

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。

はい、福地さんのお時間です。
え、いやいや前からこういう考察も書いとくべきだよなあと思ったから書いたのであって別に他意はないですよ?文ストって、史実を理解していたほうがより楽しめるしね。
それに相手のことを知らないうちはどんな罵詈雑言も吐けるけど、相手のことを理解してしまったら自然と尊重できるようになるのではないかい?

でも相手を知ろうって言ったって楽しくなくっちゃ始まらないよね。
皆さんが既に好きな文豪先生たちと違って、猟犬のモデルとなった方々はあまり知られていない上に、大衆向けに「おもしろい!」と感じれるレベルまでかみ砕かれていない。よくわからないからとりあえず知らん!になりがちなので、この記事ではそこを突破していけたらいいなあと思います。

■福地桜痴と福沢諭吉

福地さんの本丸はやっぱり福沢さんとの関係性でしょう。「天下の双福」と並び称されたとよく言われてますけど、実際のとこなんでこの二人なの?っていう話。

二人とも幕末から明治にかけて西洋文明を取り入れて日本の近代化を推し進めた人物。「天下の双福」と呼ばれたのもまさにこの頃です。明治維新という大変動の中で異彩を放った巨人二人、それが福地さんと福沢さんだったそうな。

ということでまずは二人の人生について、主な共通点をわかりやすいように抜き出してみました。

え?お互い意識しすぎじゃん...?
こんな感じで奇妙なほどに似たような人生を歩んだ二人ですが、考え方や価値観は正反対でした。
情熱の福地、合理性の福沢。
権力のある人に身を寄せ続けた福地、独立自尊を説いた福沢。
色々な領域に功績を分散させた福地、一つの領域を突き詰めた福沢。

う~ん、真逆…ここまでくると狙ってやってんのか?と疑いたくなるほど。福地さんが福沢さんほど名前を残せなかった理由もどうやらこういうところに原因があるらしい。

文久遣欧使節として二人は一年近くもの間、ずっと一緒にヨーロッパ旅行…じゃなくて、同じ使節団で行動していたにも関わらず、その間に一度も交流を持たなかったそうで、お互いに意識しすぎて無視し合っていたのではないか、とも言われている。
こっちが恥ずかしくなってくるわ!

■福地さんと遊郭その他もろもろ

さて、福沢諭吉といえば慶應義塾ですが、福地さんも負けじと私塾を開設しました。だけど福沢さんとは違ってすぐに塾を閉じちゃった福地さん。原因は...遊郭にハマっちゃったからなんですって。あ、駄目人間の香り...

福地さんが吉原遊郭に通っていたのは有名な話のようで、なんと福地さんは吉原遊郭に通ったおかげで渋沢栄一さんと知り合い、その繋がりでさらに伊藤博文さんと知り合い、どんどん政府の中枢に入り込んでいったらしいですよ~。遊郭って人脈のるつぼ!

吉原遊郭の入り口にある大門には福地さんが書いた漢詩が刻まれているそうで…福地さん…遊郭に思い入れありすぎじゃん。その漢詩がこちら。

春夢正濃 満街桜雲 秋信先通 両行灯影

(春の夢はまさにこまやかなり 街に満つる櫻雲
秋のたよりは先に通じ 道の両側に燈りの影)

福地桜痴

さすがは福地さん、儚い感じの詩情を醸し出してますね〜。もはや単なる遊びに留まらず、魂込めて遊郭に通っていたのかも?

はい、遊郭の話はもう終わりにして、福地さんといえば!のもうひとつ、歌舞伎座についてです。
銀座にある歌舞伎座って福地さんが作ったんだってさ。いや福地さん、急激に方向転換しすぎ。
どうやら使節団として行ったフランスで本場の演劇を観て以来、ずっと演劇に興味を持っていたらしく、劇作家として晩年は名を馳せたそうな。異能名になっている「鏡獅子」も超絶有名な歌舞伎の演目のようです。白くて長~い髪をぶんぶん振り回す歌舞伎役者さんとかテレビで観たことありません?それ、鏡獅子かもしれませんよ!

こんな感じであれこれと手を付けつつ、才能もあり器用だったものだから各所に功績を残している、そういうお方だったようです。

■夏目先生が福地さんに厳しい件

福地さんが亡くなった後に夏目先生、こんなことおっしゃってます。

源一郎福地といふ男が死んだ。今の学士や何かは学問文章共に出来るが、女を口説く事と借金の手紙をかく事を知らないといふ演説をやった男ださうだ。死んでも惜しくない人ですね。

加計正文宛の書簡にて 夏目漱石

桜痴といふ人の逸話を読んだがあれは駄目な人間だ。然し当人は余程えらいと思ってる。生前は可成有名でも死ねばすぐ葬られる人だ。一寸学校の成績はよくても卒業して駄目になると同じ事だね。

野村伝四宛の書簡にて 夏目漱石

ひ、ひどい…夏目先生ひどい…
夏目先生は毒舌だったそうですが、それにしてもちょっと福地さんに同情してしまうくらいお厳しい…「死んでも惜しくない」は人に対して言っちゃだめなやつ!
確かに福沢諭吉やあなたに比べれば…そりゃあそうかもしれんが…福地さんは福地さんなりに多くのものを残してくれてるんだよ~!!

■福地さんと東京日日新聞

福地さんが残したものは本当に多方面にわたりますが、その中でも「東京日日新聞」は特に有名なのかな。東京日日新聞とは今の「毎日新聞」のこと。
だけど新聞って言葉を聞いただけで堅苦しいしつまらん文字で埋め尽くされてるんでしょどうせ、なんてお思いですね?

でもほんとはこんなにおしゃれなの。

東京日々新聞 九百三十三号

ぐはあ!グロテスク!


ほらこんなにおしゃれなの。

東京日々新聞 四百九十一号

うほお!いやらしい!
これよく見ると福沢諭吉さんのことが書かれてるのよ。

もっと見たい方はこちらをどうぞ。

東京日日新聞はもともと条野採菊さんがお仲間とともに立ち上げた東京で一番最初の新聞社。文字だけの新聞以外にも上に載せたような「新聞錦絵」と呼ばれる現代でいう週刊誌のような新聞を出して、それが大衆に人気だったようです。当時はこの新聞錦絵を東京土産にすることが流行していたそうな。

しかし福地さんが入社してから、みるみる政府御用達の新聞社としての色合いが強くなり、自由に書けるのが一番!よりも、政府に気に入られるのが一番だぜクックックッが信条に。
国のお偉いさんとかの懐にするっと忍び込んじゃうあたり、福地さんが福地さんしてる~って感じします。

皆様、「社説」というのはご存知ですね?そしてこんなことも聞いたことあるのではないでしょうか、「新聞全部に目を通すのは無理でも社説欄だけは最低限目を通しておきなさい」と。そうそう、この社説もね、発明したのは福地さんです。

あと、私たちが普段使っている「社会」っていう言葉。この言葉も福地さんが英語のsocietyを翻訳して生まれたものだそうですよ。
福地さんが社会という言葉を浸透させるまで、日本には社会という概念もそれを表す言葉もなかったということで…えええ?それ以前は「世間」だったみたい。うん、社会と世間の違いってなに?
ところで福地さんがsocietyを「社会」と訳した一方で、福沢さんはsocietyを「人間交際」と訳して世に出したそう。君たち…まだバチバチやってたの…

この東京日日新聞では条野さんも一緒に仕事してたのですが、途中で条野さんが兄弟紙にあたる「警察新報」なる新聞社を設立。
しかし売れ行きがあまりよくなくてその後「やまと新聞」に改題して方向転換し、庶民の娯楽に特化した記事を書くようになったみたいです。芸能界のゴシップとかね、そういうやつ。
ゴシップ好きな文スト条野さんという世界線はどこかにありませんか?
やまと新聞は福地さんから資金援助なども受けていたようで、なにやらお二人はずっと仲良くやってたみたいですよ。やまと新聞、今でいう東スポですって。え?じょーのが東スポ?そんなバカな…

ところで、なぜこんなに新聞絡みの人たちが…?という疑問が生まれません?あのー、文ストって文豪の話をしてるんじゃなかったでしたっけ?とみんな思ってるよね?
ここはちょっと冷静に本質的な部分を考えてみよう。新聞もさ、「文字で情報を伝える媒体」であることには変わりないんだよね。
ほら、図書館を思い出してください?図書館に置いてあるのは本だけではないですよね。新聞と雑誌もその構成要素として重要な役割を果たしています。
そう、そういうこと。そう思っときゃひとまず違和感はちょっと消える。

■おわりに

ということでここまで福地さんのことを好き勝手書いてきましたが、なんかちょっと失礼では…と思う気持ちがないこともない。
ん~だけどそれを言ったら一番失礼なのは公式じゃん?だって福地さんに公衆の面前で屁こかせてますぜ?ということになるので、公式があれをやっている以上、"その人への理解を深めることを目的とした自由な言論や紹介"はある程度許容して頂きたいなあ、というのが個人的な願いです!
うん、しかしこのタイミングでこういう記事を出すと覚悟したときからもう気分は自爆テロリストなので、お叱りやお咎めを頂きましたら重く受け止めます。

これを読んだ皆さんは福地さんという方についてどのように感じましたか?
情熱に翻弄され居場所を固められなかった哀れな姿、世渡り上手である一方で何か大切なものを見落としているような姿、狙った人の懐に入り込むしたたかな姿など、それぞれに感じて頂けるものがあったなら嬉しいです。

確かに福沢諭吉と比べると決して「成功者」とは言えないかもしれませんが、人生に成功できる人なんて本当はほんの一握りの人しかいないんじゃないかな、と私は思います。
悩んで、迷って、そのまま命尽きてしまう、それってすごく人間らしいと思うのです。失敗だったと、駄目な人生だったと、たとえそう言われたとしても、その人が残した無様な生き方はそれでも一人の人間の実情として、人間の持つ不器用な一面として、愛でるに値するのではないでしょうか。
「勝ち」に位置付けられる福沢に対して「負け」に位置付けられているような福地さんですが、そういう人だからこそ持てるある種の魅力に、ストクラさんならきっと気づいてくれるのではないかなあと信じています。

とりあえずね、夏目先生はちょっと天国で反省しといてくださーい!!

これで終わり。
史実ではなく文ストの福地さんの考察がもっと読みたい方はこちらをどうぞ。いずれも単行本23巻のネタバレを含みます。


■参考情報

福地さんについてもっと知りたい方はよろしければこちらもどうぞ。


執筆にあたり、情報提供など多大なご支援を頂きました相互様に心より感謝申し上げます。

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